『ゼロ・グラビティ』は、2014年のアカデミー賞で7部門受賞したアルフォンソ・キュアロン監督、サンドラ・ブロック主演のSFサスペンス作品。
スペースシャトルの船外活動中にアクシデントに遭遇した「エクスプローラー」のクルーたち。宇宙探査のミッションから、地球への帰還を目指すミッションへと変わったミッション・スペシャリスト、ライアン・ストーン博士の宇宙空間から地球への帰還を、緊張感たっぷりに描いております。
そして『ゼロ・グラビティ』の主要キャストは、なんとふたりだけ。
サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの演じる宇宙飛行士たちの地に足の着いたやりとりが、命の危機がせまる緊迫感をさらに高めております。
・宇宙空間に投げ出された恐怖
・地球への帰還がミッション
・生きて戻ってみせる
それでは『ゼロ・グラビティ』をレビューします。
目次
【ネタバレ】『ゼロ・グラビティ』あらすじ・感想
シャトルを襲う事故
スペースシャトル「エクスプローラー」のクルー、ライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)がシャトルの船外でとりかかっているのは、地球と宇宙をつなぐデータ回線のシステム修理。
空気も重力もない宇宙空間での作業に緊張気味のライアンに対して、指揮官のマット・コワルスキー中尉(ジョージ・クルーニー)は、新しいジェットパックの試作品を装着して楽しげに宇宙遊泳をしています。
宇宙飛行士たちは、ミッションをこなしながらも、NASAヒューストンのミッション・コントロールとの交信は不可欠で、血圧や心電図、呼吸は常に地球でモニターされています。
地球との交信はどんなときも続き、寸断されることはないのでした。
そんな時、ヒューストンから緊迫した声で入ったのが「作戦中止」の指示。ロシアの爆破した衛星の破片が、トラブルで「エクスプローラー」の軌道にのって、こちら向かっているといい、直ちに地球に帰還するよう命令が下ったのです。
明るく地上クルーとの雑談を続けていたマットの声は指揮官の声へと変わり、ライアンたちが緊急避難を促します。
そして衛星のデブリは、猛烈な速さで「エクスプローラー」へと、迫るのでした。
蔵商店
地球への帰還
他国が爆破した衛星の破片の飛来によって、ダメージを受けた「エクスプローラー」。
クルーたちは、避難することなく衝突のインパクトで穴があいた船内で全員、死亡。
船外活動をしていたマットとライアンだけが生き残ったのでした。
衝突デブリの影響で、地球との交信も途絶え、地上からのバックアップもない宇宙空間に取り残されたふたり。自分たちだけの力で、地球帰還への道を模索するのでした。
蔵商店
指揮官コワルスキー
国際宇宙ステーションに向かい、緊急帰還船「ソユーズ」に乗船しようと、マットの装着するジェットパックを動力に移動を始めたマットとライアン。
たどりついた国際宇宙ステーションで、ジェットパックの燃料切れでブレーキがかけられず、機体に激突して、ふたりはぎりぎり、ひっかかった状態に陥ります。ライアンの少ない酸素残量と、無重力空間にか細いロープにつながったまま浮かぶふたり。
このままだと、ふたりの生還の可能性はないと判断した指揮官のマットは、ライアンに「生きて地球に戻るんだ」と言い残し、繋がっていたフックを自ら外して宇宙の深淵へと、消えていくのでした。
蔵商店
生き延びて戻ってみせる
爆破した衛星の破片によって損傷した国際宇宙ステーションと緊急帰還船「ソユーズ」。ライアンが、命からがら乗り移った国際宇宙ステーションは、小さな火種から炎に包まれ、ライアンは「ソユーズ」を機体から切り離して難を逃れます。
「ソユーズ」では地球への帰還が叶わないと確信した「ライアン」は、指揮官と仲間を失い、地球への帰還の万策がつきたと、心を閉ざしかけるのでした。
ところが、その時にソユーズに乗り込んできたのは死んだはずのマット。信じられない面持ちで、ライアンは、マットの言葉に耳を傾けるのでした。
蔵商店
劇中、サンドラ・ブロックもジョージ・クルーニーもずっと宇宙服を着ていたのを、中盤にきてスクリーン上でふたりの表情が見えるようになったのは新鮮でした。
低酸素症で、マットの幻覚をみたライアンでしたが、生き延びる力を取り戻したライアン。
知恵を働かせ、機体の損傷した「ソユーズ」で中国の宇宙船「天宮」へと向かいます。そして、中国の帰還船「神船」を乗り込み、大気圏突入を目指すのでした。
『ゼロ・グラビティ』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで『ゼロ・グラビティ』をレビューしてきました。
・手に汗握る展開
・美しい宇宙の映像美
・幻覚と地球帰還への葛藤
宇宙空間が舞台
『ゼロ・グラビティ』は、上空600キロの酸素も重力もない厳しい環境、絶対絶命の状況からの宇宙飛行士の生還物語。冒頭に画面に映るのは、宇宙で仕事をするライアンたちスペースシャトルのクルーの宇宙服ごしの姿のみで、セリフはサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーと地球上ミッション・コントロールとの交信に終始。
音もなく人間が生き延びることのない温度変動の激しい宇宙空間にあっても、淡々と仕事をこなす宇宙飛行士の姿は、その後起きる事故との対比となっていることに観客は最初、気づかずにいます。
地球からの万全なバックアップがある状況から事故の発生で事態は一転、宇宙空間に漂流する恐怖が、じわじわと伝わる展開です。
静寂に包まれた、漆黒の空間で、地球を感じるのはヘルメットに映る美しい球体や明るい光のみ。無防備な状態で、地球の重力を含むすべてのディフォルトから切り離された恐怖と、死に直面したライアンの心の葛藤を、鮮やかに描いています。
サンドラ・ブロックの一人芝居
『ゼロ・グラビティ』のスクリーン上、キャストの顔の表情を宇宙服なしで見えるのはほんのわずかな 時間だけ。
サンドラ・ブロックが宇宙服を脱いで、彼女の顔を直接目にするのは、物語の中盤40分ほどたってからです。
表情が見えない分、ヘルメットごしの息づかいが、ライアンの恐怖をより強く感じることが出来ると思います。
またマットがいなくなってからのシーンは、サンドラ・ブロックの一人芝居が続きます。それでも手に汗握る展開に、キャストがひとりだと気づくことなく、最後まで目が離せない面白さです。
グラビティとは
邦題では、無重力を意味する『ゼロ・グラビティ』となっておりますが、原題は「グラビティ」。重力や引力、ことの重大さといった意味を含んでいて言い得て妙です。
文字通りの「重力」だけでなく、地球からの交信や誘導、命綱としての引力としての意味にもとれるし、宇宙空間での事故の震度の高さや重大さを「グラビティ」の単語ひとつでうまく表現しています。
そしてたったひとり、過酷なミッションから生還したライアンが地球に感じる「重力」。
地球にいる限り意識することのなかった様々な「重力」に、ライアンがあらためて意識をもって、陸を歩くラスト・シーンに通じる物語の切口が実に見事です。
蔵商店
でもそこは、アカデミー賞を7部門受賞しただけあって、一筋縄ではいきません。平和なのは冒頭シーンだけ、あとはノンストップでハラハラどきどき。是非、ご覧ください。