ブラッドリー・クーパー主演の『二ツ星の料理人』は、トラブルを起こして表舞台から姿を消していた天才シェフが、3年の時を経て料理人として人生のやり直しをはかる物語。
料理は一流の腕を持ちながら人間としては問題が多いために、シェフとしての成功も信用もゼロとなってしまった男が、未来を取り戻すために目指したミシュランの三ツ星。
シェフが主役であるだけに、出てくる料理も目を見張るほど美しいです。
怒号がとぶ戦場のようなキッチンも迫力満載。
グルメでなくても、見終わったあとは厨房を守る様々な人に頭が下がる思いになる、そんな作品です。
- 天才肌の料理人
- ロンドンのレストランでのやり直し
- ミシュランの三ツ星をねらうアダム
- 完璧主義の弊害
- 二ツ星の料理人に足りなかったもの
それでは『二ツ星の料理人』をレビューします。
目次
映画『二ツ星の料理人』作品情報
作品名 | 二ツ星の料理人 |
公開日 | 2016年6月11日 |
上映時間 | 101分 |
監督 | ジョン・ウェルズ |
脚本 | スティーブン・ナイト |
出演者 | ブラッドリー・クーパー シエナ・ミラー オマール・シー ダニエル・ブリュール サム・キーリー アリシア・ヴィキャンデル マシュー・リス リリー・ジェームズ ユマ・サーマン エマ・トンプソン |
音楽 | ロブ・シモンセン |
映画『二ツ星の料理人』あらすじ・感想【ネタバレなし】
3年もの沈黙からの復帰
パリでミシュランの二ツ星レストランをトラブルでつぶした天才シェフのアダム(ブラッドリー・クーパー)。
自分への罰としてルイジアナで3年かけて100万個の牡蠣の殻をむき続けたアダムが向かったのは、元いたレストランのオーナーの息子トニー(ダニエル・ブリュール)のいるロンドン。
料理人として腕を振るい「ミシュランの三ツ星」を狙いたいというアダムの強引な説得に押され、酒とクスリにだらしのなかったアダムが毎週医師との面談をすることを条件に、トニーはレストランを開くことに合意したのでした。
新レストランにはパリ時代の仲間だったミシェル(オマール・シー)とマックス(リッカルド・スカマルシオ)に加え、才能豊かな料理人、ソース作りが定評のエレーヌ(シエナ・ミラー)とジャンルを越え街のキッチンで働くデヴィッド(サム・キーリー)を厨房に招き入れ、アダムの再起への道は始まったのでした。
蔵商店
「ミシュランの一ツ星シェフをルーク・スカイウォーカーとするなら、二ツ星がルークの師匠のオビ・ワン・ケノービ。三ツ星はそのまた上のヨーダだ。」と『スター・ウォーズ』のジェダイに例えているのが言い得て妙。
三ツ星シェフを目指すのは、思慮深強く、絶大なパワーを秘めたヨーダになるということなのです。
そこでのデヴィットの彼女の返しが「でも、アダムはダースベイダーかもよ?」というのも、映画ファンならすぐにでもわかります。
悪の道に堕ちたダースベイダー=アダムという構図です。
蔵商店
三ツ星シェフをめざす料理人魂
開店初日を迎えたアダムの名前を冠したロンドンのレストラン。
厨房スタッフの連携の悪さばかり目がつくアダムの激しい怒号が響きわたる厨房では、食材も無駄にするありさまで、新聞には「異端児復活ならず」と酷評を受けてしまいます。
料理に対するこだわりが強く完璧を求めるアダムは、初日の失敗に関して副料理長のミシェル、ソーシエのエレーヌをなじるだけで労いの言葉もなく、キッチンには緊張が走るのでした。
そんな傲慢なアダムでも料理にかける情熱だけは揺るぎのないものと厨房のだれもが認めており、ギスギスした中でもミシェルたちスタッフは、前を向いてアダムと一緒に三ツ星レストランをめざすのでした。
料理へのあくなき探求心をもつアダムが一目を置いたのは、ひとり娘を育てるシングルマザーのエレーヌ。
エレーヌの作るソースに料理のセンスを見出したアダムは、失敗したレストラン・オープンからまた新たに設定した再出発の日に備え、新しいメニューをエレーヌと一緒に試行錯誤するようになるのでした。
二ツ星シェフであっても、3年もの間最前線から離れると調理方法を時代遅れと言われてしまう料理界は、日進月歩の厳しい世界。
蔵商店
新レストランの開店初日の厨房はまさに戦場。
料理を仕上げるまでの素材の鮮度、ミリ単位の薄さにこだわる恐ろしいまでのアダムの罵声は、まさに料理人魂の表れなのでしょう。
劇中に出てくるお皿の上の料理はどれも美しく美味しそうなのに、画面に流れるのはほんの数秒だけ。
蔵商店
独りよがりだった自分の姿
かつての同僚で、創造的な調理法でお客に感銘を与えている三ツ星シェフのリース(マシュー・リス)に対する敵対心をむき出しに、我が道を突き進むアダム。
パリ時代に作った借金がもとで良からぬ筋の取り立ても現れて、過去からなかなか抜け出せないアダムは、それを振り払うように仕事に打ち込みます。
でも、それは、あくまでアダムを中心にしてのこと。
エレーヌの娘のリリー(レキシー・ベンボウ=ハート)の誕生日にもエレーヌに仕事を優先させるなど、従業員の家族の都合もお構いなし、そんなアダムの勝手な姿に、まわりも不満を抱いていくのでした。
そんな中、リニューアル・オープンしたリースのレストランのパーティーで再会したかつての恋人のアンヌ(アリシア・ヴィキャンデル)。
アダムの師匠で恩師だったジャンリュックの娘でもあるアンヌに、師匠の死を知らせされます。
雲隠れした3年の間に、敬愛する師匠の死んでいたことさえ知らなかったアダムは、ショックを受けるのでした。
パーティー会場から消えてしまったアダムを、早朝の魚市場で見つけたエレーヌ。
キッチンでは鬼のようなアダムが、誰よりも料理に対する熱い想いを持っていることを改めて確認し、戦友のように思うのでした。
そんな時にミシュランの調査員と思われるお客2人が来たと、キッチンに緊張が走ります。
渾身の料理が出されますが、なんと出した直後に戻ってきたのです。
付け合わせのソースが辛すぎるとのクレーム。
なんとそれは、ソースに唐辛子を入れた副料理長のミシェルの仕業だったのです。
パリ時代のアダムの悪行に恨みを持っていたミシェルは、密かに復讐の時の待っていたと言います。
これによって、これまでの努力がすべての水の泡、パリで犯してきた過ちが後をついてまわるアダムは、力なく笑うしかないのでした。
キッチンでは、料理に絶対の自信を持つアダム。
トニーとの約束で、週に一度必ず会うロシルデ医師(エマ・トンプソン)との対話は奥が深くて印象深いのです。
料理人としての好奇心の旺盛さには誰もが一目を置くのに、人間関係はうまく築けないアダム。
破壊的な生き方しかできないアダムに優しく問うロシルデ医師の存在は、アダムの謎を解き明かしてくれるのです。
人の感動を呼ぶ料理を作り出す完璧主義者であるがゆえの弊害で、人間関係の不完全さを受け入れることができないアダム。
蔵商店
ライバルのリースの一言
ミシュランどころか、店の信用にかかわる大失態に傷心のアダムがボロボロになって表れたのは、天敵のリースの店。
へべれけに酔っ払い、大騒ぎして死なせてくれとさえいうアダムを、文句一つこぼさず介抱するリース。
リースの厨房で目が覚めたアダムに、マックスとミシェルの4人でパリのジャンリュックの店で18時間働いた仕事終わりにバカ騒ぎしていた修行時代の昔話に花を咲かせるだけのリースは、何も聞こうとしません。
「ミシュランがきたけど、失敗した。」とぽつりと話し始めたアダムに、リースは「お前は俺を超えている」と静かに言い「誰も考えつかない独創的なことをやるのは、お前だ。そんな存在のお前が俺たちには必要だ。」と、料理人としてのトップをひた走る彼に敬意を見せたのでした。
思わぬリースの言葉に目が覚めたアダム。
さらに、ミシュランの調査員だとばかり思っていた予約客が、実はバーミンガムからのセールスマンだったという事実を知ります。
それを知ったアダムは、これまで自分がどれだけ周囲に支えられてきたか、やっと気付いたのです。
そして、アダムはこれまでの料理人としての頭でっかちなおごりと決別して、トニーやエレーヌ、レストランのスタッフ全員と力を合わせてミシュランの三ツ星を獲得する決意を新たにするのでした。
料理の天才が見つけた再生の道とは
『二ツ星の料理人』は、才能も技術もあるのに、自分勝手で独りよがりなために挫折していた料理人の再生の物語。
表舞台から姿を消して3年の時を経てカムバックを目指しても、キッチンをうまく回せません。
天才にありがちな傲慢なエゴイストのアダム。
蔵商店
料理に対しては真摯に向き合えても、人間関係でつまずいてうまくいかないアダムを最後に助けたのは、アダム自身の料理に対するひたむきな情熱と信念。
料理人の自分にどうしても足りなかったものがなにかに気づくラストは、これまで以上に素晴らしいメニューが生まれる予感がして終わるのです。
『二ツ星の料理人』に登場するのは、主演のブラッドリー・クーパーはもちろんのこと、脇を固めるシエナ・ミラー、オマール・シー、エマ・トンプソン、アリシア・ヴィカンダー、ユマ・サーマンと誰もが主役をはってきた実力派ばかり。
蔵商店
映画『二ツ星の料理人』あらすじ・感想まとめ
以上、ここまで『二ツ星の料理人』をレビューしてきました。
- 職人気質の天才料理人
- 料理と向き合うどん欲な情熱
- ひとりよがりな完璧主義
- 弱さを受け入れる強さ
- 料理界のヨーダ