2012年に本屋大賞を受賞した三浦しをんの小説「舟を編む」。
翌年、松田龍平主演で映画化され、日本アカデミー賞6部門で最優秀賞を受賞しました。
大手出版社を舞台に辞書編集部の面々が中型国語辞典“大渡海”を制作する過程を、制作初期と完成間近の12年後、2つの時代にわけて描いた作品です。
主人公・馬締の成長と、周囲を取り巻く人々のそれぞれの人生を温かく丁寧に映し出しています。
- 辞書作りを通して描くヒューマンドラマ
- 不器用な恋愛にキュンとする
- 言葉の大切さを感じられる
今回はそんな映画『舟を編む』をネタバレありでご紹介します。
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目次
『舟を編む』作品情報
作品名 | 舟を編む |
公開日 | 2013年4月13日 |
上映時間 | 133分 |
監督 | 石井裕也 |
脚本 | 渡辺謙作 |
原作 | 三浦しをん |
出演者 | 松田龍平 宮崎あおい オダギリジョー 黒木華 渡辺美佐子 池脇千鶴 鶴見辰吾 伊佐山ひろ子 八千草薫 小林薫 加藤剛 宇野祥平 森岡龍 又吉直樹 斎藤嘉樹 波岡一喜 麻生久美子 |
音楽 | 渡邊崇 |
【ネタバレ】『舟を編む』あらすじ
真面目な男が出会った“大渡海”
大手出版社である玄武書房の古びた別館に配置された部署、辞書編集部。
編集長の荒木(小林薫)は、監修者で国語学者の松本(加藤剛)に定年退職の挨拶をしていました。
新たに編纂中の辞書“大渡海”の制作陣からベテランの荒木が抜けてしまうのは、辞書編集部にとって大きな痛手です。
松本は名残惜しそうに引き留めますが、「病気の妻の介護をする」という荒木の意志は強く、大急ぎで代わりの人員探しが始まります。
荒木の部下である西岡(オダギリジョー)は、社内恋愛中の恋人・麗美(池脇千鶴)から、とある人物の情報を仕入れます。
営業部の馬締(松田龍平)という社員は、その名前の通り非常に真面目ですがコミュニケーション能力が著しく低く、成績を伸ばせない変わり者だそうです。
西岡の情報から馬締が大学院で言語学を学んでいたという経歴に目をつけた荒木は、「右」という言葉の意味を問います。
すると馬締は「西を向いた時に北にあたる方…」と答え、即座に自分の辞書を引き始めました。
西岡は噂通りのコミュニケーション能力の低さに驚きますが、荒木は馬締の言葉を操るセンスを感じ、辞書編集部に呼び寄せることにします。
辞書編集部に異動となった馬締に対し、松本が“大渡海”への熱い想いを語ります。
その言葉に感動した馬締は、辞書作りという大海原に飛び込んでいったのでした。
今を生きる辞書を目指す“大渡海”は、見出し語が24万語という大規模なものです。
編集は10年以上の時間を費やすのが当たり前という世界で、馬締は松本の仕事への姿勢を尊敬しつつ、その膨大な時間に恐怖を抱くこともありました。
言葉の海に溺れるような悪夢を見るほどでしたが、長く暮らしている下宿先の大家・タケおばあさん(渡辺美佐子)の協力もあって、日々仕事を持ち帰りながらも平穏に過ごしていました。
「恋」という言葉の意味
ある満月の夜、タケおばあさんの飼い猫であるトラさんの鳴き声が聞こえ、馬締は部屋の物干しに出ます。
すると、そこにはトラさんを抱いている美女がいました。
美女の正体はタケおばあさんの孫・香具矢(宮崎あおい)。
香具矢は板前の見習いで、修業のために上京してきたばかりでした。
同じ屋根の下で暮らすことになった香具矢に一目惚れした馬締は、仕事が手につかなくなってしまいます。
そんな馬締の様子を見た松本は、「恋」という言葉の語釈を馬締に任せることにしました。
“大渡海”の編集作業は順調に進んでいましたが、利益がでないため、会社にとっては邪魔な存在になっています。
出版の中止が噂されたり、上層部から圧力がかかったりと攻撃される辞書編集部。
その後、“大渡海”の編集作業を継続することと引き換えに、西岡が宣伝部に異動となってしまいました。
実は、予算縮小のために西岡か馬締のどちらかを異動させるという話がありましたが、西岡は誰にも知らせず、自分が異動することで事態を収束させたのです。
その事実と西岡の想いを知った馬締は、西岡と麗美を自分の下宿先に招待し、お酒を飲み交わします。
そこで酔っ払った西岡は勢いで麗美にプロポーズし、2人は結婚することになりました。
一方、馬締は香具矢への想いを「恋文」にしたためます。
毛筆を使って行書体で書かれたラブレターを「戦国武将じゃあるまいし」と西岡にからかわれますが、構わず香具矢に渡しました。
香具矢は「恋文」を受け取ったものの、達筆すぎて自分では読めません。
読めないラブレターを師匠に読んでもらい、恥ずかしい思いをしたと怒りをあらわにします。
「手紙じゃなくて言葉で聞きたい、はっきり言って」と、香具矢が言いました。
「好きです」と言葉にした馬締に対する香具矢の返事は、「私も」でした。
馬締は自身の恋を成就させたことで「恋」の語釈を完成させたのです。
続く編集作業
12年の時が過ぎ、馬締と香具矢は結婚していました。
タケおばあさんが亡くなった後も、あの下宿で仲良く暮らしています。
馬締は辞書編集部の主任となり、編集部内の顔ぶれは少し変わりました。
定年退職後に妻の介護をしていた荒木は、妻を看取り、嘱託社員として戻ってきます。
また、ファッション誌の編集部から異動してきた岸辺(黒木華)は、辞書編集部の変わり者だらけのメンバーや理解できない膨大な作業の数々にうんざりしていました。
それでも根は真面目で仕事熱心な岸辺が残業して作業を続けていると、辞書編集部に西岡が現れます。
西岡は岸辺が作業中のデスクから「ダサい」という見出しを見つけ、用例の「酔った勢いでプロポーズするのはダサい」は実体験だと語りました。
自分の実体験が辞書作りに関わるという面白さを知った岸辺は、熱意を持って仕事と向き合うようになります。
やがて“大渡海”の発売日が決定し学生アルバイトを雇うことで人員を増やした編集部は、大急ぎで校正作業を進めます。
そんな中、学生アルバイトが抜けている見出し語を見つけました。
見出し語が抜けることは大問題です。
校正作業を中断し、他にも抜けていないか泊まり込みで確認作業をすることになります。
時を同じくして、松本が入院したという連絡が入りました。
癌が見つかり、先が長くないそうです。
“大渡海”の完成を松本に見届けてほしいと、馬締たちは急ピッチで作業を進めるのでした。
“大渡海”の完成
“大渡海”のより早い完成を目指し、辞書編集部の面々は作業に没頭していました。
西岡も宣伝部として地道に売り込みを続け、別の立場から尽力します。
しかし、その想いは届かず、病床に臥していた松本は“大渡海”の完成を目前に亡くなってしまいました。
そして、ついに“大渡海”が完成し、出版記念パーティーが行われます。
馬締は会場に飾られた松本の遺影を見て、生きているうちに完成させられなかったことを悔やんでいました。
パーティーには松本の妻・千恵(八千草薫)も参加しており、暗い表情の馬締に労いの言葉をかけます。
馬締と同じく表情の晴れない荒木は、1通の手紙を差し出します。
それは生前の松本が荒木に宛てた手紙でした。
そこには、荒木や馬締への感謝の言葉と、辞書作りに携わることができた人生への喜びが綴られていました。
その後、馬締と香具矢は“大渡海”の完成を松本の墓前に報告するため、松本の自宅を訪れます。
帰り際、松本の愛した美しい海を眺めながら、馬締は「これからもお世話になります」と香具矢に伝えました。
そんな馬締に、香具矢は優しく微笑み返すのでした。
【ネタバレ】『舟を編む』感想
辞書作りの大変さと仕事への向き合い方
urara
10数年という長い時間をかけて、膨大な作業を繰り返す辞書作り。
特に劇中に登場する“大渡海”の場合は「今を生きる辞書を目指す」というコンセプトがあるため、24万語近い見出しの中には新しくできた言葉や若者言葉も含まれます。
辞書を制作する10数年の間にも言葉は生まれ続けるため、松本や馬締たちは新しく生まれた言葉や初めて聞く言葉を採集し続けるのです。
街中で言葉を集め、編集部では編纂作業をし、自らの実体験に基づいた用例が生まれ、たくさんの人が協力して校正をする。
地道で気が遠くなるような作業ですが、辞書編集部の面々は生き生きとしています。
urara
思わず素敵な仕事だと感じてしまうのは、そこに人の想いが込められているのが伝わってくるから。
urara
しかし、西岡や岸辺のように、ただ何となくやり始めるというパターンも多いように感じます。
urara
そんな様々な仕事への向き合い方を、辞書作りを通して教えてくれる作品になっています。
言葉にできない気持ちを伝えるということ
『舟を編む』に登場する人々はみんなどこか不器用なのに、気持ちを伝える術を持っていたり、熱い情熱を静かに秘めていたりします。
馬締が香具矢に想いを伝えるために書いた恋文、酔った勢いで伝えた西岡のプロポーズ、死の間際に松本がしたためた荒木への手紙。
それぞれが言葉にしがたい気持ちをどうにか伝えようとした結果だと思います。
恋文の内容を知ったあとの香具矢が「手紙じゃなくて言葉で聞きたい」と言ったのも、馬締の真剣な気持ちを香具矢なりに受け止めたうえでの言葉でした。
urara
しかし、相手が受け止めてくれることを信じて、真っ直ぐに想いを伝える大切さが『舟を編む』には溢れています。
言葉に想いを込めることが簡単なようでどれほど難しいか思い知らされ、伝えるという努力が人間関係を構築することさえあると思い出させてくれます。
urara
『舟を編む』まとめ
いかがだったでしょうか。
ヒューマンドラマであり、お仕事ドラマであり、ラブロマンスでもある『舟を編む』。
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