『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説と中世イギリス史まとめ!キャラのモデル・円卓の騎士たちも解説!

『Fate』シリーズの元ネタ・アーサー王伝説と中世イギリス史まとめ!キャラのモデル・円卓の騎士たちも解説!

出典:『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』公式ページ

突然ですがアーサー王伝説をご存じでしょうか?

『Fate』シリーズが好きな人や「ミリオンアーサー」シリーズをプレーした人。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

あるいは私みたいに英文学や英国史を学んだことがある方はよくご存じでしょう。

そうでなくとも「アーサー王」や「エクスカリバー」というキーワードぐらいは耳にしたことがあるはずです。

ヨーロッパ発の伝説や伝承は数あれどアーサー王伝説は間違いなく最も有名な物の一つです。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

なにせ遠く離れたグレート・ブリテン島発祥にも関わらず極東の島国にまで知られているぐらいですからね。

さて、そんなアーサー王伝説ですが、そもそもアーサー王伝説とはもともとどんなものだったのでしょうか?

「アーサー王伝説って何?」という大ぶろしきを思い切り広げつつできるだけコンパクトにまとめてみたいと思います。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

なお、アーサー王は実在したかどうか怪しい人物ですので、歴史ではなく伝承の解説というつもりでお読みいただければと思います。

『Fate』シリーズの劇場版で2020年8月15日公開の『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』がかなりアーサー王伝説の影響を受けた作品なので、予習にもなると思います。

『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説の基本情報

アーサー王伝説は中世のイギリスを発祥とする騎士道物語群です。

アーサー王伝説

出典:Wikipedia

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

これらは冒険談でありロマンスであり、魔術や妖精が跋扈する伝奇物語でもあります。

そのため、ファンタジー系の創作とは非常に相性が良く、特に日本ではアニメやゲームなどの二次元メディアの元ネタとして活用されている場合が多いです。

とりわけ長命なのは前述の『Fate』シリーズで、2004年発表のゲーム「Fate/stay night」を皮切りに多くのメディアミックス展開がなされ続けています。

映像化も絶好調で2020年だけでも『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song』、『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』が公開待機中です。


間接的には『コードギアス』シリーズのナイトメアフレームの名前、『キングスマン』シリーズのスパイのコードネームもアーサー王伝説由来です。

『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説の時代・文化背景

アーサー王伝説に登場する人物やモノについて説明する前にイギリスの時代・文化背景について解説しておきたいと思います。

イギリスの正式名称:イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

突然ですが、我々日本人が「イギリス」「英国」と呼んでいる国の正式名称をご存じでしょうか?
イギリス

出典:Wikipedia

正解は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」(英名:United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland 略称:UK)です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

「イギリス」「英国」という日本での名称はオランダ語の「Engelsch(エングルシュ)」を語源とする「エゲレス」=「英吉利」から来たもので正式名称とは程遠いです。日本以外の国で「イギリス」と言っても絶対に通じないので注意が必要です。

この長たらしい正式名称を読解する上で、イギリスという国を構成する4つのカントリーについて説明しておかなければいけません。

その4つとはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北部アイルランドです。

まずグレート・ブリテン島の南側に位置し最も面積が大きく、最も人口が多く首都ロンドンが存在するのがイングランド。

イングランド

出典:Wikipedia

その西側にあるのがウェールズ。

ウェールズ

出典:Wikipedia

北部にあるのがスコットランド。

スコットランド

出典:Wikipedia

隣のアイルランド島の北部一部地域が北部アイルランドです。

アイルランド

出典:Wikipedia

つい先日ブレグジット(イギリスのEUからの離脱)が決定しましたがアイルランド島の南側はアイルランド共和国という別の国で、こちらは継続してEUに残留しています。

隔絶した島国である我々にはちょっと理解しがたい感覚ですが、北部アイルランドもアイルランド共和国も同じ英語圏で地続きであるにも関わらず、違う通貨を使い違うパスポートを持っています。

それぞれのカントリーはもともとは独立国でしたが、歴史の過程で最も国力の強いイングランドに併合されます。

アイルランドだけ南北に分裂しているのは20世紀に独立戦争が起きた際、成立したアイルランド自由国から北部アルスター地方のうち6州が脱退を選択したためです。

この辺の経緯は独立戦争の英雄に題材をとった映画『マイケル・コリンズ』(1996年)に描かれていますので興味のある方はどうぞ。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

ちなみにアイルランドのラグビー代表は共和国と北部アイルランドの連合軍ですが、これはラグビー協会が南北に分裂しなかったため

今やそれぞれのカントリーは国ではなく一つの地域にすぎませんが、それぞれにそれぞれのアイデンティティーがあります。

特に独立心の強いスコットランドは度々独立運動が起きていますし、現状でもイギリスの一部でありながらスコットランドは独自の法制度、教育制度を持っています。

一国一代表チームがルールのサッカーで、国ではないのに各カントリーが独自の代表チームを送り出せているのは、各カントリーのサッカー連盟がFIFA発足より前にすでに存在していたからですが、それぞれのカントリーの独立意識も無視できません。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

イングランド代表の資格があるにも関わらずウェールズ代表を選択したガレス・ベイルなど彼らが持つアインデンティティーの象徴ではないでしょうか。

などと長々申し上げましたが、まとめると

  • イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北部アイルランドという4つのカントリーで構成されている
  • それぞれがもともと独立国だった

ということを覚えておいてください。

なお、先出ししておくとアーサー王伝説の発祥元はウェールズです。

時代背景――ケルトの王からイギリスの王へ

それ以前にも間接的な記述はありましたが「アーサー」という人物に関する具体的な記述が初めて登場するのは、ウェールズの修道僧ネンニウスの著作「ブリトン人の歴史」(8世紀末ごろ)です。

アーサー王が活躍したとされるのは5世紀末から6世紀の事であり、「ブリトン人の歴史」は事件のリアルタイムとは程遠い資料です。

そのため、アーサー王が本当に実在したのかどうかがだいぶ怪しいところです。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

なので、この先はあくまでも「伝承」あるいは「伝説」の話になるのですが、話の舞台背景については説明しなければならないでしょう。

5世紀、古代より支配者だったローマ帝国が民族大移動による衰退で支配体制を維持できなくなりグレート・ブリテン島から撤退します。

すると今度はドイツ北岸からアングロ・サクソン人と総称されるアングル人、ジュート人、サクソン人のゲルマン系の3つの部族が攻め込んできました。

そのうちの一部族であるサクソン人を撃退したのがブリトン人(ウェールズ人)の王、アンブロシウス・アウレリアヌス、通称アーサー王です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

なぜローマっぽい名前がついているかというと当時のブリトン人はローマ風の名前を付けることが多かったからです。またはアーサー王はローマ人だった説もあり、ブルータスの子孫という伝承もあります。

西暦500年頃(493年説等)アーサーはベイドン・ヒルの戦いでサクソン人の軍勢相手に大勝利をおさめます。

これにより蛮族サクソン人との長きにわたる戦いに終止符が打たれるわけですが、その後、結局グレートブリテン島の支配層はブリトン人をはじめとする土着のケルト系民族から、侵入者であるアングロ・サクソン人に入れ替わります。

実在性があやふやなアーサー王と違い、こちらははっきり実在が確認されている人物ですが、デーン人の侵攻を食い止めたアルフレッド大王(849-899)はもともと侵入者だったアングロ・サクソンの王様です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

ところがアングロ・サクソン人の地位も安泰ではありませんでした。

更に時代が下るとフランスのノルマンディー公ギヨーム2世が、イングランド王国に攻め込んだノルマン・コンクエスト(1066)でグレートブリテン島の支配層はフランス系のノルマン人になります。

「征服王」として知られるウィリアム一世はノルマン朝の開祖であり、現在の英国王室の起源となった人物ですが、ウィリアム一世はフランス出身です。

テレビアニメ『ヴィンランド・サガ』(2019)に出てきたクヌート王子は後にクヌート一世(995-1035)としてイングランド・デンマーク・ノルウェーの王様になっていますが、クヌート一世はデーン人です。

アーサー王はもともとウェールズの英雄。

ブリトン人はケルト民族ですので拡大解釈してもケルト民族の英雄です。

ここまででお分かりと思いますが、グレート・ブリテン島はいろいろな民族が入り混じってできた国です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

では、せいぜい一民族の英雄にすぎないアーサー王がなぜイギリスを代表する英雄として語られているのでしょうか?同じグレート・ブリテン島のケルト族の英雄であるブーディカ(生年不詳–60年/61年?)と比べても知名度に圧倒的な差が出ているのは何故でしょう?

それを解明するにはアーサー王伝説受容までの歴史を辿る必要があります。

アーサー王神格化の理由

アーサー王はもともとケルト民族の民族意識を称揚する存在であり、12世紀ウェールズの作家ジェフリー・オブ・マンモスの「ブリタニア列王史」から15世紀ウェールズの騎士トマス・マロリーの『ブリタニア列王史』に至るまで数々の名著が残されその過程で神格化されていきました。

ちなみに『アーサー王の死』はジョン・ブアマン監督の映画『エクスカリバー』(1981)の元ネタになっています。


前述の「ブリトン人の歴史」には「アーサーの一撃で960人が倒れた」という記述があるので(『Fate』シリーズのエクスカリバーが超絶的な破壊力を誇るのはおそらくこの伝承が元ネタ)、常識的に考えて神格化が伝説成立初期のころから始まっていたのは明白ですが、特に重要な存在になったのが「ブリタニア列王史」です。

「ブリタニア列王史」によるとアーサー王は宝剣エクスカリバーを持ってイギリス(ブリテン)国内を平定。

その勢力はイギリスにとどまらず大陸ヨーロッパ――北欧、西欧にまで到達しています。

もはやアーサー王はウェールズのローカル英雄ではなくイギリスを代表する英雄になっていました。

有名な例だとイングランド王リチャード一世(1157-1199)がアーサー王に心酔し、自分の剣をエクスカリバーと呼んでいたのは有名な話ですが、リチャード一世はケルト人では無くフランス貴族を起源とするプランタジネット朝の二代目です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

その頃にはイギリスを代表する英雄=アーサー王という図式が完成していたという事がわかります。

さらに想像力たくましい中世の作家たちは「ブリタニア列王史」を叩き台に、アーサー王と縁者や臣下を交えてのロマンスや権勢の奪い合いという物語を描いていきます。

こうしてアーサー王と円卓の騎士の伝説が成立します。

なお、王位継承予定者=皇太子には「プリンス=オブ=ウェールズ」(今代のチャールズ皇太子)という称号が与えられますが、この称号も実はアーサー王伝説と関りがあります。

テューダー王朝初代国王ヘンリー七世(1457-1509)が息子を「アーサー」と名付け「プリンス=オブ=ウェールズ」に叙したのが同称号の始まりです。

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イングランド統一を目指すテューダー王朝にとってイギリスを包括する英雄であるアーサーは統一王国という理念を象徴する存在であり、早い話が政治的に利用されたわけですね。

などと長々申しましたが、とりあえず

  • グレートブリテン島の土着民族=ケルト民族でブルトン人はその一民族
  • 侵略者がアングロ・サクソンで後にグレートブリテン島の支配者層になる
  • イギリスは基本的に(国際都市のロンドンを除いて)白人の国ですが、一口に白人と言っても今のイギリスは複数のヨーロッパ系人種が混ざり合ってできた国である

という程度の事を頭にとどめておいていただければと思います。

『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説のキーワード


冒頭にも述べたように2020年8月15日に『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』が公開になりますので、とりわけ『Fate/Grand Order』に関わりのある人物を中心に挙げています。

アーサー王

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

すでにアーサー王についてはだいぶ述べてしまったのですが、まだ補足することがあります。

西暦40年ごろにローマ帝国の侵攻が始まり、410年頃に撤退するまでグレート・ブリテン島はブリタニア属州でした。

その時代の遺物がイングランドとスコットランドの境目にあるハドリアヌスの長城です。

ハドリアヌスの長城

出典:Wikipedia

ハドリアヌスの長城は北方から攻め込んでくるケルト人の防備のために建造されたもので、グレート・ブリテン島内でもスコットランドにケルト文化が色濃く残っているのはローマがスコットランドまでは攻め込めず逆に度々侵入されていたためです。

そのハドリアヌスの長城を警備する任務についていたと考えられているのがローマの軍人ルキウス・アルトリウス・カストゥス(2世紀後半から3世紀前半)。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

一説にアーサー王のモデルとされている人物です。

アーサー王伝説の舞台は5世紀ですので全然時代が違うのですが、伝説が時代とともに形を変えるのはよくある話で現地に伝わるアルトリウスの伝説が形を変えたのがアーサー王伝説ではないか、というわけです。

アントワーン・フークア監督の映画『キング・アーサー』(2004)はこの学説が基になっています。


同作劇中ではアルトリウス・カストゥス=アーサー・カストゥス=アーサー王となっており、魔術も妖精も出てこない歴史ものとして作られています。

ウェールズにルーツを持つ『ヴィンランド・サガ』のアシェラッドが「アルトリウス・カストゥス」を自称していましたが、アシェラッドが語るアルトリウスの伝説は明らかに=アーサー王伝説でした。

『ヴィンランド・サガ』の原作者、幸村誠先生もこの学説を基にしているようです。

アーサー王はカムランの戦いで反逆に倒れますが、その身は妖精郷アヴァロンに眠り、国難に際して蘇ると伝えられています。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

ちなみに『Fate』シリーズはアーサー王が女の子になっていますが、これはアダルトゲームとして売り出すために必要な改変だったからです。

キャメロット

アニメーション映画『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』の副題にもなっている「キャメロット」はアーサー王の王国、ログレスの都です。

アーサー王はこの地にキャメロット城を築き、多くの戦いに出陣したと言われています。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

偉大なるイギリス王の都だったのですから聖地と言うべき場所ですが、では「キャメロットがどこにあったか?」というとこれは明確な描写がありません。

サクソン人に勝利を収めたベイドン・ヒルもどこだかわからないし、終焉の地となったカムランもどこか判然としません。

アーサー王自身が実在性の疑わしい人物ですので、当然と言えば当然ですね。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

しかしながら人間の想像力はたくましく「ここなのでは?」という候補地はいくつか存在します。

中でもコーンウォール地方のティンタジェル城はアーサー王の居城だったという伝承に加え、円卓の騎士トリスタンが埋葬されたという逸話もあり伝承好きにはたまらない場所です。

ティンダジェル城

出典:Wikipedia

他、サマセット州のキャドベリーは近隣にアーサー王が埋葬されたとされるグラストンベリー修道院が存在しこちらも有名な候補地。

またスコットランドのエディンバラにはアーサーズシート(アーサーの玉座)と呼ばれる岩山があります。

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実は筆者、アーサーズシートには実際に登ったことがあります。

エクスカリバー

アーサー王伝説を象徴する武器。

エクスカリバー

出典:Wikipedia

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アーサー王伝説をさっぱり知らなくても「エクスカリバー」という名前に聞き覚えのある方は多いのではないでしょうか。

湖の精が住む異界で鍛え上げられた不思議な力を持つ武器で

  • 松明30本に匹敵する光を放つ
  • 鋼鉄をも断ち切る
  • 鞘には負傷を治癒する効果がある
  • 持つ者を不死身にする

というチート要素てんこ盛りの凄い武器です。

それにしても、どのような国の伝説でもやはり剣という武器は特別な存在のようです。

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北欧神話のレーヴァテイン、ギリシャ神話のハルペー、アイルランド神話のクラウ・ソラス、シャルルマーニュ伝説のデュランダル、日本神話の天叢雲剣など並べていくとキリがありません。

特にヨーロッパの伝承では武器=剣という図式が成り立っているように思います。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

だからこそ、ファンタジーでも勇者の武器は剣なのでしょうね。

ロンゴミニアド

アーサー王の武器と言えば宝剣エクスカリバーですが、槍に関しても逸話があります。

アーサー王が王座につくに至るまで、順調に行ったわけではありません。

イギリスを統一するにあたりアーサーに敵対する勢力もありました。

敵対するロト王との戦いでアーサーが主武装としたのがエクスカリバー…ではなく名槍ロンゴミニアドです。

アーサーはロト王との戦いでロンゴミニアドを手に20人の騎士を殺しロト王にも深手を負わせました。

反逆の騎士モードレッドと相打ちになった時も使ったのは剣ではなく槍でした。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

白兵戦では剣よりもリーチの長い槍の方が明らかに有利なので、戦法としては妥当ですね。

おとぎ話にも少しはリアルが含まれるということでしょうか。

マーリン

3月末まで放送していた『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』にも登場している魔術師。

アーサー王に様々な助言をし、援護をするアーサー王伝説の重要人物です。

マーリンは人間の母とインキュバス(夢魔)の混血で、生まれながら人間を超えた能力を持っていたと伝えられています。

アーサー王と同じく実在性が極めて疑わしい人物ですが、6世紀にウェールズのカーマ―ゼンにいた詩人・預言者メルディンがマーリンという説もあります。

マーリンはアーサー王伝説のファンタジックな部分を多く担っている人物です。

マーリン

出典:Wikipedia

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世界遺産でありグレート・ブリテン島古代宗教の遺物トーンヘンジはマーリンが魔術でアイルランドから岩を運んで作ったという逸話もあります。どのような姿にも自在に変身でき、どんな剣でも破れない兜や盾を作り、円卓もキャメロットもマーリンが作ったという伝承まであります。

また、マーリンはアーサー王の誕生にも関わっています。

アーサーはブリテン王ユーサーの子供ですが、母であるイグレインは敵国の王妃でした。

ユーサーはマーリンの魔術でイグレインの夫に姿を変え、イグレインと床を共にしています。

その結果授かったのがアーサーです。

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「何かに変化して女性と交わる」のはギリシャ神話のゼウスはじめ山ほどあるパターンですが、ケルト文化圏でも見られるモチーフです。

たとえば、ケルト神話の英雄クー・フーリンは太陽神ルーとコンホヴァル王の妹デヒティネの間に生まれた半神半人の英雄ですが、ルーは蠅に変化したコップの中に入り、コップの水を飲んだデヒティエがクー・フーリンを身ごもったという逸話があります。

マーリンは『Fate』シリーズでキャスタークラスの最高位である「グランドキャスター」の資格を持つという設定になっていますが、知名度からしても逸話のスケールからしても、なるほどふさわしい存在と言えるでしょう。

テレビドラマ『エクスカリバー 聖剣伝説』(1998)、『魔術師 MERLIN』(2008-2012)など彼を主人公にした作品もあります。

『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説の小ネタ

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ちょっと小ネタです。

アーサー王は何語を話していたのか?

イングランドは英語の生まれ故郷、English(英語)=イングランド語ですが、英語という言語の基礎になっているのはアングロ・サクソン人が持ち込んだゲルマン系言語の古英語(Old English)です。

英語とドイツはよく似た言語ですが、両者はともに西ゲルマン語群なので似ているのは当然。

それがデーン人の侵攻で古ノルド語、ノルマン・コンクエストでフランス語の影響を受けて中英語(Middle English)になり、大航海時代に様々な文化圏の言語を取り込んで近代英語(Modern English)へと変貌を遂げます。

近代英語と現代英語(Present-Day English)はそれほど大きな差異の無い言語ですが、品詞の使い方が違います。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

シェイクスピア劇に親しんだことがある方は想像しやすいかと思いますが、シェイクスピアの作品では名詞が動詞として使われる現代的感覚ではイレギュラーな表現が出てきます。

品詞の分類が整うにはもう少し時間がかかります。

さて、ところでアーサー王は何語を話していたのでしょうか?

ここまでお読みなっていただければ想像がつくと思いますが、アーサー王はケルト系のブリトン人ですので、ケルト諸語の言語を話していたはずです。

ケルト諸語はアイルランド語やウェールズ語、スコットランド・ゲール語などが現存していますが英語とはルーツが全く異なるため似ても似つかない言語です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

どんな響きか知りたい方はとりわけ伝統音楽が盛んなアイルランドの音楽を聴いてみることをお勧めします。

アイルランド語の伝統曲「Mhaighdean Mhara」(人魚)はアイルランド語の最も有名な歌曲の一つですが、成程英語とは全然違うことがお分かりいただけると思います。


ケルト諸語は非常に地域差の大きい言語ですので、ウェールズ語やスコットランド・ゲール語はまた違うのですが雰囲気はお分かりいただけると思います。

仮にアーサー王が実在したならケルト系のブリトン人のはずなので、ケルト系言語のブリトン語を話していたはずであり、間違っても英語を話していたことは無いはずです。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

こんなことにマジレスするのは不毛極まりない行為であることは承知の上で書きますが、『Fate』シリーズのセイバー(アーサー王)のように「ストライクエア」「インビジブルエア」などと英語を絶叫することは文化背景上も時代背景上もありえません。

『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説の円卓の騎士たち

アーサー王の臣下である円卓の騎士たちはアーサー王伝説の初期には登場しません。

ノルマンの詩人ワースの『ブリュ物語』(1155)で初めてその姿を現します。

円卓は文字通り円状のテーブルで上座や下座が存在しません。

アーサー王伝説

出典:Wikipedia

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

伝承によると誰が上座で誰が下座かをめぐって争いがおこったため、その解決策として作られたと語られています。

『ブリュ物語』はフランス語で書かれていますが、それがイギリスの詩人ライアモンによって1200年ごろに英訳され『ブルート』になり再びイギリスに逆輸入されます。

アーサー王と円卓の伝説はフランスにも跨っていますが、それはこのような歴史的経緯によって成り立ったものです。

その後さらにさまざまな文献の要素が付け足され、円卓の伝説はマロリーの『アーサー王の死』で集大成されます。

『Fate』シリーズにもモデルのキャラたちが登場する円卓の騎士について解説していきます。

ベディヴィエール

アーサー王の義兄であるケイや甥であるガウェインと並び初期からアーサー王に仕えていた騎士の1人。

最初期のアーサー王伝説にも登場が確認される色んな意味で古参の存在ですが、基本的な役割は脇役。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

にも関わらず名前を挙げたのはアーサー王の最後を看取り、宝剣エクスカリバーを湖の乙女に返還するという極めて重要な役割を果たしているから。
ベティヴェーベル

出典:Wikipedia

アーサー王に最初期から最後まで仕えた「忠臣」というある種の理想像を体現した存在と言えるでしょう。

アーサー王の死後は修道院に入り隠遁生活を送ったと言われていますが、『Fate/Grand Order』では別の可能性が描かれています。

ランスロット

円卓の騎士で最も有名な人物でしょう。

ランスロット

出典:Wikipedia

ウィリアム一世と同じく、ランスロットもフランス出身です。

そのため特にフランスで人気があります。

最も有名な円卓の騎士で騎士伝説の花型の存在であると同時に、アーサー王伝説の終焉において重要な役割を果たす影の部分を象徴する存在でもあります。

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特に有名なのはアーサー王の王妃グィネビアとの不義の恋でしょう。

ランスロットは『Fate/Zero』(2011-2012)バーサーカー(狂戦士)クラスのサーヴァントとして登場しますが、これはランスロットに発狂の伝説があるからです。

その発狂の理由はグィネビアが関わっており、またアーサー王の死因も間接的にグィネビアとランスロットの不義の恋が原因になっています。

また、『Fate』シリーズでは「聖杯」が重要な存在となっていますが、ランスロットの発狂を癒したのは聖杯の功徳です。

アーサー王伝説には聖杯(キリストが最後の晩餐で使った杯)探求の伝説がありますが、聖杯に辿り着く騎士3人のうち1人がランスロットの息子であるギャラハッドです。

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色々な意味でアーサー王伝説の重要な存在と言えるでしょう。

ガウェイン

円卓の騎士で最も有名なのがランスロットなら2番目に有名なのはガウェインでしょう。

アーサー王の甥であり、同じく円卓の騎士であるガヘリス、ガレス、モードレッド、アグラヴェインの兄。

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朝から正午まで力が3倍になる「界●拳か!」とツッコミたくなる力の持ち主で、アーサー王の宝剣エクスカリバーの本当の所有者という説もあります。

ガウェインは単独でも多くの逸話を持ちますが特に「サー・ガウェインと緑の騎士」「ガウェインの結婚」の2つが有名です。

ガウェインと緑の騎士

出典:Wikipedia

『Fate』シリーズでは事あるごとに「年下が好き」という発言をしていますが、それは「ガウェインの結婚」ではるかに年上の老婆と結婚させられたことが元ネタと思われます。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

この話にはちゃんと騎士道ロマンス的なオチがあります。興味ある方は調べてみてください。

円卓最強の騎士であったランスロットと元は友でしたが数々の事件の後に致命的な溝ができて仲たがいし、最終的には刃を交えることになります。

この戦いで力が3倍状態のガウェインを相手にランスロットはその猛攻を凌いでいるので「円卓最強」の名に名前負けしない存在だったことがわかります。

2人の不和は円卓崩壊の致命的な原因となります。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

ランスロットと同じく、彼もまたアーサー王伝説の重要な存在と言えるでしょう。

礼節と美徳を兼ね備えた勇気ある騎士とされる一方で、復讐心が強く短気で卑怯など色々言われていますが、それはガウェインに関する逸話が非常に多いことの裏返しで、特にランスロットの人気が高いフランスで成立した逸話、およびフランス発のエピソードに影響を受けたマロリーの著作での扱いが悪いです。

トリスタン

中世の悲恋物語「トリスタンとイゾルデ」の主人公。

他の円卓の騎士と違い、「トリスタンとイゾルデ」はもともと単独で語られていた伝承ですが13世紀にフランスで編纂された「散文のトリスタン」でアーサー王伝説に組み込まれます。

トリスタンの伝説は単独でも非常に人気があり、クラシック好きの方であればリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)の楽劇「トリスタンとイゾルデ」の題材としてよくご存じだと思います。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

さて、それで全くの他人だったトリスタンがアーサー王伝説に組み込まれた理由ですが、あくまで筆者の推測に過ぎませんが『トリスタンとイゾルデ』の物語がアーサー王伝説のロマンスと親和性が高かったからではないでしょうか。

『トリスタンとイゾルデ』は思い切り煎じ詰めて要約すると「騎士が忠誠を誓った主君の后と恋に落ち、忠誠と愛の葛藤に引き裂かれる」というものです。

ランスロットとグィネビアの物語とよく似ていると思いませんでしょうか?

トリスタン伝説はアイルランドの伝承である「デアドラとノイシュ」「ディルムッドとグラニア」とも共通点が多く、中世騎士ロマンスではこういう板挟み系の悲恋が好まれていたということがわかります。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

円卓の騎士関連ではパロミデスとのライバル関係が有名で、2人はイゾルデを巡って争いますが逸話によっては最終的に2人は友になっています。少年漫画みたいですね。

弓矢の名手であり竪琴を改造して作った「フェイルノート」または「アッキヌフォート」と呼ばれる必中の弓を持っていたと伝えられています。

そのエピソードゆえに『Fate』シリーズではアーチャー(弓兵)クラスのサーヴァントとして登場します。

アグラヴェイン

アーサー王の甥でガウェインの弟の1人。

ゲームの「Fate/Grand Order」では今のところプレイヤブルキャラクターとしては実装されていませんが、敵サイドで登場し重要な役割を果たします。

アーサー王伝説で彼を主人公にしたエピソードは無く、有名なのはランスロットとグィネビアの不義の現場を暴きその場を離れようとしたランスロットに殺害されるというエピソードでしょう。

卑怯な悪者として描かれることが多く、彼がゲームで敵側として出てくるのは自然な配置と言えるでしょう。

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不義の現場を暴いたのだから悪いことはしてない気がするのですが。

立派な騎士として描かれている逸話もあり、「サー・ガウェインと緑の騎士」では「堅い手のアグラヴェイン」(Agravain of the Hard Hand)と呼ばれています。

ガレス

必ず一つは後ろ暗いエピソードを持っている円卓の騎士勢で、有名どころでは唯一清廉潔白な人物。

ガレス

出典:Wikipedia

アーサー王の甥でガウェインの弟、自身を騎士として引き立ててくれたランスロットの事を慕っており、ランスロットも彼を可愛がっていたというみんなの弟的なポジションの存在

彼を主人公にした逸話もありますが、アーサー王伝説ではわき役としての登場が多い人物です。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

誰にも嫌われることの無かった人物ですが、その最後は哀れの一言に尽きます。

ランスロットとの姦通でグィネビアの処刑が決まり、ガレスは兄弟であるガヘリスと共に刑場を警護していました。

そこにグィネビアを救出しにランスロットが登場し、ガレスがいつもと違う恰好していたせいで「なんか見なれない人物がいた」と尊敬していたランスロットに殺されてしまいます

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

しかも丸腰でした。

アグラヴェインを殺されたときは許したガウェインもこれには怒り、ランスロット自身もこの事件を死ぬまで悔やむことになります。

この出来事がマブダチだったランスロットとガウェインの間で致命的な溝を生むことになり、円卓崩壊の致命傷になります。

ニコ・トスカーニニコ・トスカーニ

ところで中世騎士伝説ではこんな風に雑な理由で人が死んだり、いきなり発狂したりといった、創作教室の課題で提出したら0点をもらいかねないような不自然な展開が非常に多いです。

これはアーサー王伝説に限らずシャルルマーニュ伝説でも変わりません。

まあ、中世と言えば身内同士で殺しあうのが珍しくない時代でしたので味方同士で命のやり取りをしてしまう中世騎士伝説は当時の人からしたら特に不自然ではなかったのかもしれません。

キリスト教国連合軍の十字軍なんてイスラム教徒だけじゃなくキリスト教の他宗派も山ほどブッ殺してますし…。

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脱線ですが、日本でも南北朝時代ぐらいまではカオスで特に鎌倉武士の蛮族ぶりは結構有名な話かと思います。源頼朝(1147-1199)が義経、義仲、範頼と身内を殺しまくっていることを考えると近世に至るまでの人類は大体みんな野蛮だったのでしょう。ヴァイキングとか十字軍とかモンゴル軍とか。ある意味こういう血なまぐささはワールドスタンダードだったのかもしれません。

なお、アーサー王伝説ではガウェインの弟と伝わっていますが、『Fate』シリーズ時空ではガウェインの妹(女の子)になっています。

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ちなみガレスとは逆に血なまぐさい伝承がたっぷりな人物がベイリンです。興味がある方は調べてみてください。

モードレッド

アーサー王が異父姉モルゴースと、そうとは知らずに、交わって生まれた不義の子。

モードレッド

出典:Wikipedia

後に反逆し、カムランの戦いでアーサー王に致命傷を負わせます。

文字通りの意味でアーサー王伝説を終わらせた人物

アーサー王の最後

出典:Wikipedia

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彼の逸話に私はキリスト教の影響を感じます。

伝承でアーサーは「姉君と床を共にし子を宿させた」ことにより「神の怒りを受け」「王国が破滅する」という予言をマーリンから授かっています。

その予言が回避されることはなく、不義の子であるモードレッドの反逆でアーサーの王国は破滅します。

アーサー王伝説はケルト文化から発生したもので、ケルトにはドルイドという土着宗教がありました。

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マーリンは明らかにドルイドの賢者をモチーフにしたキャラクターです。

しかしアーサー王伝説が発生した5世紀からトマス・マロリーによって物語が集大成される15世紀までの間にヨーロッパはすごい勢いでキリスト教化されています。

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近親相姦など古代でも中世でもさして珍しくなかったことですが、キリスト教的価値観では完全にNGです。キリスト教の影響は無視できないでしょう。ただキリスト教発生以前の名作であるオフォクレスの『オイディプス王』(BC427頃)にも明らかに近親相姦はNGの描写があります。

さらにモードレッド誕生のエピソードには続きがあります。

加えてマーリンは「5月1日生まれの者が王を滅ぼす」と予言しました。

それを聞いたアーサー王は諸侯の子で5月1日に生まれた者をすべて船に乗せて海に流してしまいます。

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外道ですね。

モードレッドは運よく生き残り、成長して円卓の一員になるのですが、このエピソードは新約聖書の一編『マタイによる福音書』の2章16節~18節に描かれているヘロデ王の幼児虐殺にそっくりです。

ちなみに『Fate』シリーズの設定ではモードレッドは女の子で、しかも異父姉モルガンがアーサー王を陥れるため魔術によって作られたクローンのホムンクルスという設定になっています。

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この設定にはマロリーもネンニウスもびっくりに違いありません。

『Fate』シリーズの元ネタ:アーサー王伝説・中世イギリス史・円卓の騎士まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回まとめたような知識があれば『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』はより楽しめると思います。

アーサー王伝説は文献が山ほどあるため、ここにまとめたのはあくまで抜粋に過ぎません。

もっと知りたい、または中二病をこじらせてしまった方は文献の山に突入してみるのも一興だと思います。

ファンタジー好きだけでなく歴史好きにもドヤれるような知識がいっぱい手に入りますよ。

『Fate』シリーズの予習もしておきましょう!

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