『ファヒム パリが見た奇跡』あらすじ・感想!チェスだけでなく、子供の頑張る姿に共感できる作品

出典:『ファヒム パリが見た奇跡』公式ページ

本作『ファヒム パリが見た奇跡』は、チェスという崇高なゲームをこよなく愛したある少年の半生を描いた作品です。

チェスを主体にしながらも、ある少年を瑞々しく描いたキッズ映画です。

ポイント
  • 本作はチェスを題材にしつつも、国際問題を絡めて描いた子供が活躍する映画です
  • 強制送還に抵抗しながらも、明日の成功を夢見たバングラデシュ親子の姿を描きます
  • 明日への切符を手にしたファヒム、それでも現実は厳しいものなのです

それでは『ファヒム パリが見た奇跡』をレビューします。

『ファヒム パリが見た奇跡』作品情報

『ファヒム パリが見た奇跡』

(C)POLO-EDDY BRIERE.

作品名 ファヒム パリが見た奇跡
公開日 2020年8月14日
上映時間 107分
監督 ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル
脚本 ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル
チボー・バンユール
フィリップ・エルノ
出演者 ジェラール・ドパルデュー
アサド・アーメッド
ミザヌル・ラハマン
イザベル・ナンティ
ピエール=フランソワ・マーティン=ラヴァル
音楽 パルカル・ランガニュ

『ファヒム パリが見た奇跡』あらすじ【ネタバレなし】


フランスで実際にあったチェスの国内チャンピオンを目指したある少年のストーリー。

バングラデシュではすでに全国的に有名になっていたチェスの世界チャンピオンのファヒム・モハンマド(アサド・アーメッド)は、8歳の時に家族を祖国に残して、父親ヌラ(ミザヌル・ラハマン)と共に政治難民としてフランス・パリに亡命していました。

渡仏してからも決して裕福な暮らしができるはずもなく、強制送還に怯える毎日を過ごしていました。

ファヒム親子は、何としてでもフランスでチェスの世界チャンピオンになれるようにと、パリを拠点にしているチェスのコーチ、シルヴァン・シャルパンティエ(ジェラール・ドパルデュー)の元を訪ねます。

『ファヒム パリが見た奇跡』

(C)POLO-EDDY BRIERE.

親子は強制的な国外退去や言葉の壁など、度重なる危機に陥りながらも、シルヴァンらチェスの仲間と共にフランス国内のチャンピオンを目指していきます。

『ファヒム パリが見た奇跡』感想【ネタバレなし】

本作『ファヒム パリが見た奇跡』は、祖国バングラデシュを手放し、国際亡命を余儀なくされたある一人の少年と父親が、フランスのパリでチェスの世界チャンピオンを目指す姿を描いた実録作品です。

『ファヒム パリが見た奇跡』

(C)POLO-EDDY BRIERE.

チェスを題材にした映画は数多く作られている訳ではなく、現在最も有名な作品は2作あり、一つは1993年に公開された『ボビー・フィッシャーを探して』という若き天才チェス・プレイヤーのジョシュ・ウェイツキンの幼少期を綴ったヒューマン・ドラマです。


もう一つは2014年に公開された『完全なるチェックメイト』という冷戦下のソ連で開催されたチェスの世界王者決定戦に出場したプレイヤー、ボビー・フィッシャーが、ソ連の世界チャンピオンに挑もうとする姿を鮮明に描写したサスペンス映画です。


鈴木友哉

変わり種として、死神とチェスを指す十字軍の兵士を描いたイングマール・ベイルマン監督によるスウェーデン映画『第七の封印』も印象深い作品です。

チェスは盤上の頭脳戦と呼ばれ、プレイヤーは皆、試合中は一同に神経を磨り減らしており、今挙げた作品の著名な選手もプレッシャーなどの不可視の存在に追い詰められています。

ただ本作『ファヒム パリが見た奇跡』では、純粋にチェスを楽しむ少年の姿が描かれており、観る側に清々しい感情を抱かせてくれる作品です。

強制送還という厳しい現実に打ちのめされながらも、明日の成功を信じたある親子の実話

日本で生まれ育った私たちは海外で起きている事実に目を向けることはあまりありません。

この作品が取り上げているのは、チェスに勤しむ男の子の物語だけではありません。

鈴木友哉

本筋に付加されたサイド・ストーリーも意識して観てほしい題材です。

少年は、単純にチェスをしに馴染みのないフランスに渡ったわけではありません。

映画では細かく描かれておりませんが、少年家族が暮らしていたバングラデシュは、政治的な問題が色濃く残っている国でもあります。

貧困地域として挙げられる要因として、国の統治力に問題があると言われています。

また汚職もひどく、親子が渡仏した2011年には腐敗人気企業指数が世界で120位に位置するほど、国家としての機能は低下していました。

ファヒムの父親は、反政府組織として当局から目をつけられ、子供への危険も考慮して、渋々渡仏したのです。

親子はフランスに渡ってからも決して楽な暮らしはできず、父親に限っては野宿を余儀なくされ、言葉の問題に直面しNGO団体にお世話になりながらも、息子がプレイヤーとしてチャンピオンになることを夢見続けていました。

チェスの勝者として知名度があれば、フランスでの永住権が得られると固く信じていましたが、現実はそう甘くはなく、バングラデシュへと強制送還されそうになる父親のギリギリの姿が描かれています。

鈴木友哉

移民というハードルを乗り越えて、無ファヒムは頂点に立てるのでしょうか?

現実に直面しながらも、明るく生きる少年の姿勢に驚かされるばかり

『ファヒム パリが見た奇跡』は、一人の少年の苦悩と葛藤を描きつつも、現実はどこまでも厳しく、この作品のモチーフにもなった少年ファヒム・モハマンドは、未だにフランス国籍を取得することができずにおり、祖国バングラデシュにも帰れず、フランス人としても認められていません。

チェスでの試合後、親子の人生が左右されたかと言えば、身分証を取得できた以外は、何も変わっていません。

本来ならば、フランス国籍を取得できてないといけないのですが、彼らはまだバングラデシュ人のままです。

ファヒム少年は2019年で渡仏してから約11年が経過し、ようやく成人を迎えます。

やっと滞在許可証を手に入れることができますが彼の有効期限は一年のみ。

ファヒムの父親は、有効期限が5年ある滞在許可証を持っています。

この許可証さえあれば、彼はフランスで就労もでき、海外への旅行も可能になります。

鈴木友哉

彼の人生は瞬く間に180度転換することでしょう。

ファヒムが父親と同じ5年間の許可証を取得するまでに、あと5年かかると言われています。

チェスの世界で有名になろうが、技術を磨こうが、世間の荒波は容赦なく彼に襲いかかります。

国家は強者弱者分け隔てなく、同じ待遇で移民たちを扱います。

映画ではほとんど描かれてない少年のその後は、想像を遥かに越えてシビアな現状です。

実際、チェスで成功しようが、失敗しようが、彼に人生に何の影響もありません。

それでもなお、彼は勇猛果敢に現実に挑んでいくのです。

明日が必ず訪れる限り、ファヒムは希望を捨てようとはしません。

『ファヒム パリが見た奇跡』あらすじ・感想まとめ


以上、『ファヒム パリが見た奇跡』をここまでレビューしてきました。

要点まとめ
  • チェス映画の体制を取りながらも一番の注目は少年の頑張る姿でしょう
  • 辛い現実を目の前にしながらも、明日の成功を夢見たある親子の感動の実話
  • 夢だけではどうにもならないほど、現実は本当に厳しいもの