スペインのミレニアル世代を描いたモノクロのドラマ映画『エル プラネタ』が2022年1月14日(金)より公開されます!
モノクロドラマというとグレタ・カーヴィグが主演を務めた『フランシス・ハ』や、コーヒーが飲めない青年の災難な一日をユーモアたっぷりに描いた『コーヒーをめぐる冒険』が頭をよぎります。
しかし『エル プラネタ』はこのどれにも当てはまらない“映え”と“現実”の格差を一組の母子を通して描く作品です!
・アマリア・ウルマン監督のデビュー作にして魅力あふれる作品
・あの映画監督もカメオ出演?
目次
『エル プラネタ』あらすじ【ネタバレなし】
お金はないけど“映え”ある人生?
スペインのアストゥリアス州にある小さな海岸都市・ヒホンに暮らすレオ(アマリア・ウルマン)とその母親(アレハンドラ・ウルマン)は仕事がなく、アパートの家賃も払えない生活を送っている。
スタイリストを目指しているレオはロンドンでの学生生活を終えて故郷に戻ってきたものの、スタイリストの仕事もなければコネもなし。
人脈を作るための活動資金もなく、それを稼ぐための仕事も見つからない状態だった。
一方の母親も自分にできる仕事がないため、母子は二人揃って私物を売りながら食いつないでいる。それでも2人は家でお菓子を食べながらだらだらと過ごし、暇を持てあましてはショッピングモールに繰り出していた。
失い続けている人生
スタイリストを目指すレオだが、学生時代のツテでクリスティーナ・アギレラのスタイリング依頼が舞い込んでくる。
しかし予算の都合上、飛行機での交通費が支給されず、レオはチャンスをつかむことができない。
とうとうレオはスタイリストを目指していながらも、ミシンを売り払ってしまった。電気代を節約するために母子は同じ布団で眠り、今は“いない”ペットのオルガに想いを馳せる。
ある日、母親がレストラン「エル プラネタ」で新メニューが出たので食べに行こうとレオに提案する。
母親はウエイトレスにレオがクリスティーナ・アギレラの仕事に就く話をすると、そのチャンスを逃しているレオはカッとなって母親と口論になった。
お金も仕事もないレオに恋の予感?
レストラン「エル プラネタ」でのやり取りの後、母親は一人で雑貨屋に向かった。
そこで母親はついに万引きをしてしまう。店を出たあと店員に捕まるが、警察は呼ばれず商品を戻して帰される。
しかし母親が万引きをしたことにはある理由があった。
一方、レオはヘアピンを切らしたので格安ショップを訪れる。そこで店番をしていた青年・アマデウスはレオに一目惚れし、連絡先を交換してほしいと頼み込む。
最初は彼のペースに乗り切れないレオだったが、一緒に食事をすると良い雰囲気に…。お金も仕事もないまま見栄えを取り繕い続ける母子だが、果たして2人の生活はどうなっていくのかーー。
『エル プラネタ』感想
『エル プラネタ』はただのオシャレ映画ではない!
本作は全編モノクロで描かれるヒューマンドラマであり、主人公レオはスタイリストを目指す若者でファッションも個性的。
さらに字幕は黄色で表示されるなど粋な計らいもありました。
このように書くとまるでおしゃれなアート映画のように見えますが、実際はアパートから追い出される寸前の母子が文字通り「崖っぷち」の生活を続けている様子が淡々と描かれています。
母子は食費を浮かせるためにお菓子だけを食べ、レオは友達の家に行ってはごちそうをしてもらってばかり。
Wi-Fiもないので、別の住人のものを勝手に使おうと部屋の中をウロウロする姿は『パラサイト 半地下の家族』にも通じます。
ちなみに母親役のアレハンドラ・ウルマンは、レオを演じるアマリア・ウルマンの実母です。
公式サイトでも「虚構とリアル」をキャッチコピーにしていますが、想像以上にその差は大きいです。
公式プレスによると、舞台となったスペインは金融危機の影響で観光業が大打撃を受け、もっともひどい時期には失業率が約25%にまでになったと監督が語っています。
決して母子に浪費癖があって、2人だけが貧困に喘いでいる…というわけではなく、母子の生活の裏にはスペインの社会事情が見え隠れしているのです。
監督・主演を務めたアマリア・ウルマンって何者?
映画『エル プラネタ』の監督だけでなく主演・脚本も務めた新進気鋭の人物、アマリア・ウルマンとは何者なのでしょうか?
彼女は1989年ブエノスアイレス生まれのアーティストであり、これまでは映画『エル プラネタ』同様に、自分を被写体にして消費主義と個人を捉えたアート作品を手掛けています。
特に『エル プラネタ』に通ずるパフォーマンス・アート「Excellences & Perfections」ではファッションブランド、ヨガ、豊胸手術といった若い女性のテンプレートな一面を架空の人物をとおしてSNSに投稿。
こうした風刺の効いたパフォーマンスが賛否を集め、様々なコンテンツを駆使しながらアートやパフォーマンスを披露しています。
本作『エル プラネタ』はいわゆる“映え”を追い続ける「虚構」とお金も仕事もない「現実」を対比した作品であり、同時に監督の育ったスペインの小さな町ヒホンを舞台にしていることから、パーソナルな一面ものぞかせているデビュー作となりました。
あの映画監督がカメオ出演!
映画『エル プラネタ』はレオが中年男性とカフェで会うシーンから始まります。年も離れているので何か良くない関係では…?と思ってしまう場面ですが、この中年男性は映画『シンクロナイズドモンスター』の監督・脚本を務めたナチョ・ビガロンドです。
俳優・監督としても活動するスペイン出身の人物であり、『エル プラネタ』でも冒頭のみカメオ出演を果たしています。
それにしても、レオに対してとんでもない性癖も話すなど、わずかなシーンにもかかわらずだいぶ妙な役を演じていますが、どういういきさつでキャスティングしたのか非常に気になります…(笑)
他にもアーカイブ映像ですが、映画ファンなら名前を聞いたことがある大御所監督がスペインを訪れているシーンも登場します。
なぜこの時期を作品の舞台にしたのか?という点にも注目して観ると面白いかもしれません。
辛いことから簡単に目を逸らせる現代の闇…
いくら仕事がないとはいえ、レオと母親は特に現状を変えるための行動をほとんどしません。お金がないのに、散歩と称してモールに行くなど、ほとんど現実逃避に近い行動ばかりします。
そして母子の周囲には、辛い現実から目を背けるのにはうってつけのコンテンツがたくさんあるのです。
お金は稼げなくてもSNSの投稿は欠かさない、ショッピングモールでブランド物を試着するなど…。
しかし家に帰れば食べ物もないし、電気を止められる寸前の部屋が待っているだけ。この時期のスペインは就職難のため、稼ぎたくても稼げない。
我々も同じ現実に直面したら、母子のように虚構を作り上げて辛い現実から逃げることが可能でしょう。
しかしそんな生活を続ければどうなるのか?この映画のラストはその答えのひとつであり、そしてかなりショッキングでもありました。
どうにもできない状況を助ける国からのセーフティーネットが全く描かれていないのも印象的です。
改めて、『エル プラネタ』がただのオシャレ映画ではないと思い知らされました。
『エル プラネタ』あらすじ・感想まとめ
・アマリア・ウルマンの今後の活動に期待大
・ナチョ・ビガロンドが変な性癖を晒す珍役でカメオ出演
・就職難のスペインを描いた意外にも社会派な作品
ヤマダマイ