映画『Eggs 選ばれたい私たち』あらすじ・ネタバレ感想!人生に迷うアラサー女子に優しく寄り添う作品

映画『Eggs 選ばれたい私たち』あらすじ・ネタバレ感想!人生に迷うアラサー女子に優しく寄り添う1本

出典:『Eggs 選ばれたい私たち』公式ページ

不妊に悩む夫婦に、卵子を提供するエッグドナーを題材にした珍しい作品であると同時に、20代と30代の壁に揺らぎ不安を抱える主人公の姿が非常にリアルな映画『Eggs 選ばれたい私たち』。

登場人物たちと同年代の女性監督が描いた世界は、実際に監督が経験したり見聞きしたことも多く含まれていることもあり、どこまでも現実的でありながら、監督の登場人物たちへの深い愛が感じられます。

結婚、出産、キャリアなど人生のアラサー世代の女性はもちろんのこと、男性にもぜひ見ていただきたい1本です。

ポイント
  • 女性監督が描いた女性たちの姿と本音がリアルすぎる
  • 約70分という見やすさ
  • 人生に悩む女性に優しく寄り添ってくれる1本

それでは、『Eggs 選ばれたい私たち』をネタバレありでレビューします。

映画『Eggs 選ばれたい私たち』作品情報

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

作品名 Eggs 選ばれたい私たち
公開日 2021年4月2日
上映時間 70分
監督 川崎僚
脚本 川崎僚
出演者 寺坂光恵
川合空
三坂知絵子
新津ちせ
湯舟すぴか
みやべほの
見里瑞穂
斉藤結女
荒木めぐみ
鈴木達也
高木悠衣
音楽 小林未季

【ネタバレ】映画『Eggs 選ばれたい私たち』あらすじ・感想


アラサー女性ならば共感すること間違いなしのシーンが盛りだくさん

「あっ、私だ。」

斎藤あやめ

そんな言葉が、本作を見ていると何度も頭に過ぎりました。というのも、主人公たちと年齢も近く、実際にエッグドナーの登録も検討した経験がある筆者にとって『Eggs 選ばれたい私たち』は、決して他人事とは思えない映画だったのです。

実際に映画『Eggs 選ばれたい私たち』を見ていると登場人物や彼らの言動の生々しさにハッとさせられてしまう女性は、少なくないのではないでしょうか。

とくに主人公たちと同じくアラサー世代の女性ならば、思わず頷きたくなる言葉やシーンが多く出てきます。

その中でも、映画冒頭に登場するエッグドナーを希望する女性たちの姿と志望動機は、非常にリアルの一言。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

「こんな人いるよな。」「この人、友達の〇〇に顔だけでなく、言っていることも似ている。」なんてことを考えながら見ていて、ふっと気付いたことがありました。

斎藤あやめ

前述の通り、筆者も過去にエッグドナーに興味を持ち、登録しようとしたことが何度かあります。

はじめは学生の頃でした。

その時は、謝礼目的、そして、海外旅行に惹かれてというのが動機でした。

映画のオープニングにも、同じ考えを持った若めの女性が登場します。

もう少し年を重ねて、登録を考えたときに、筆者の胸にあった思いは、主人公の純子の「自分の人生を振り返った時に後悔を少なくしたい」という言葉に通ずるものがありました。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

さらにドナーとしてのタイムリミットギリギリのころには、とにかく毎月無駄になる卵子がもったいないという思いや自分自身も将来、エッグドナーにお世話になるかもしれないから登録したいという気持ちも芽生えてきていました。

斎藤あやめ

こんな風に、年代ごとにエッグドナーへの動機が変わっていった筆者にとって、冒頭に出てくる女性たち全員が、過去の自分のように思えてならず、かつ、どの言い分も痛いくらいに気持ちがわかるものだったのです。

また、劇中には純子の学生時代の友人たちも登場します。

その生き方はまさに三者三様。

妊娠中の友人もいれば、結婚が決まっている友人や、バリバリ仕事をしながらも婚活中の友人、そして独身主義者の純子と、学生時代は仲の良かった4人組だった彼女たちが、いかにバラバラの人生を歩んでいるかがわかります。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

斎藤あやめ

妊娠中の友人と結婚が決まっている友人2人が、シングルの2人に、結婚についての話題を隠すというエピソードは、アラサーならずしも、女性ならば似たような経験をしたり、されたりしたことがあるっていう人もいることでしょう。

エッグドナーの登録を希望する女性たちに加えて、純子の3人の友人たち、そして物語の主役の純子と葵。

まさに、様々な女性たちの本音と言い分、生き様がスクリーンに生々しく映し出されます。

斎藤あやめ

その一つ一つに嘘がないからこそ、どの女性たちも身近に感じられる映画であり、見ていて「この人、私みたい」と思える人物がきっと見つかる映画となっています。

生きにくくしているのは自分自身?!決めつける主人公たちの姿から感じたこと

劇中で純子は、従妹の葵が同性愛者であることを家族、とくに母親が受け入れてくれるはずがないと決めつけていると指摘します。

確かに、葵は頑なに「受けいられるはずがない」と言い張り、純子の言葉を受け入れようとしません。

また、純子に対しても「同性愛者である自分を気持ち悪がっている」と、過剰に思い込みすぎている=決めつけているようにも感じ取れます。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

斎藤あやめ

観客目線からすると、天真爛漫な葵の言動に対して、少し引いた純子のリアクションの一つ一つを「偏見がある」と非難するのは、少々純子が不憫に思え、かつ葵が自分のことしか考えていない人間にしか思えませんでした。

しかし、決めつけているのは葵だけではありません。

映画を見進めていくと、主人公の純子に対してある疑問を抱きます。

主人公の純子がエッグドナーに登録した理由は、「子供が産めなくなった時に後悔したくなかった」という思いからでした。

確かにエッグドナーに選ばれて、提供した卵子が無事に妊娠、出産となれば、遺伝子的に「母親」になれます。

ただ、劇中にも説明があるように基本的にエッグドナーは、生まれた子供との面会は認めていないところがほとんどです。

にもかかわらず、純子は最初の登録の面談の際に、どこか子供と会うことを望んでいるような雰囲気を示唆させています。

独身主義であり、結婚して子供を持つということはできない。

シングルマザーとなって一人で子供を養っていくことも、現在のお給料では難しい。

純子自身、自分のことをいろいろと考えて出した結論が「エッグドナー」だったのでしょう。

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©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

しかし映画を見ていると、彼女は本当は自分で子供を産んで、その子供を抱きしめたいという思いが強い女性なのではないかという思われる言動があり、またそう思わせるシーンやカットも出てきます。

斎藤あやめ

とくに自分がエッグドナーの候補になったと知った時の葛藤のシーンは、とても印象的です。

理解や納得していたとはいえ、物事が急に現実味を帯び始めたとき、意外な真実や本音が見えてくるということは、多くの人が経験することでもあります。

純子が自分自身の人生を決めつけて、見ようとしなかった本音や思いにはじめて直面するのが、この葛藤のシーンなのではないでしょうか。

不器用なまでに頑なに自分の人生を決めつけている純子に、そのことを優しく指摘するのが学生時代の友人です。

彼女の「そんなに決めつけなくていいのに」という一言には、見ている方が、なぜか救われるような気持ちになります。

そんな友人も、結婚や恋愛とは縁遠い広告系でバリバリと働くキャリアウーマンでありながら、最近になって婚活を始めたという、いかにも現代の女子代表ともいえるタイプの女性。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

純子と、この友人の会話にもまた、共感する女性が多いことでしょう。

斎藤あやめ

女性に限らず、自由に生きられる時代になったといえど、いわゆる「適齢期」というワードや、ライフプランが全く気にならないという人は少ないのではないでしょうか。

それらは、どこか魚の小骨のように、心のどこかでチクチクと刺さっているものです。

アラサー、アラフォーになると、これまでどんなに周りに流されてボンヤリ生きていた女性でも、否応無しに様々な選択が迫られます。

とくにキャリアプランや結婚と違い、妊娠・出産にはタイムリミットがあり、その選択は切実です。

キャリアを取る。キャリアも結婚も。キャリアを諦める。一人で生きていく。二人で生きていく。子供を持つ。持たない。

女性の生き方のバリエーションが増えてきて、その選択も人それぞれです。

どの選択にも「正解」も「間違い」もないはずですし、無理に世の習いや周りの意見に順ずる必要もないはずです。

また、純子のように、頑なに自分の人生を自分で決めつけて、生きにくくしているよりも、どんな未来や出会いでも受け入れるというくらいの心の余裕があった方が、きっとこれからの世の中は生きやすいのではないでしょうか。

斎藤あやめ

映画を見終わった後、どこか自分の「これからの選択」と「未来」に希望が持てる。そんな気持ちになった作品でした。

と言っても、『Eggs 選ばれたい私たち』では、はっきりとした結末を描いていません。

純子がどういう選択をしたのか、そしてこれからするのかも描かれていません。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

ただ、電話をしながら海辺を歩く彼女の姿は、憑き物が落ちたようにすっきりとしており、劇中で度々見受けられた不安定さがすっかり消えています。

斎藤あやめ

そんな彼女の姿は、冒頭の何倍もたくましく、きっとこれからの人生をしっかり歩んで行くはずという妙な安心感を与えてくてくれます。

「選ばれたい」のは女性だけでないからこそ男性にも見て欲しい

斎藤あやめ

私たち人間は生きている限り、誰もが「選ばれる立場」であります。

ですので、本作のサブタイトル「選ばれたい私たち」というダイレクトな言葉は、多くの人の心を惹きつけるのではないでしょうか。

映画の大きなテーマであるエッグドナーも、選ばれないとなれません。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

そして、純子と友人の会話の中に出てくる婚活市場でも選ばれないと意味がありません。

どちらも20代が選ばれやすいという紛れもない事実があり、間もなく30歳を迎える純子の気持ちを暗くします。

斎藤あやめ

劇中に描かれる、この「30代の壁」に関しては、20代後半の女性には、ずっしり胸にくるかもしれません。

『Eggs 選ばれたい私たち』では、主人公の純子と葵をはじめとした「選ばれたい」と願う女性たちや、女性がいかに年齢で選ばれることが多いという描き方がされています。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

確かに、女性の人生は一見すると「選ばれる」ことが多いようにも感じられます。

とくに年齢を基準に「選ばれる」ということは、残念なことによく見聞きする話です。

斎藤あやめ

しかし、果たして「選ばれる」のは女性だけなのでしょうか。

選ばれるということのみに焦点を当てると、人の人生というのは男女に限らず「選ばれる」ことで人生が決まっていきます。

「選ばれるんじゃなく、選べる人間になれ」という叱咤激励の言葉こそありますが、実際のところ受験しかり、就職しかり、ビジネスしかり、恋愛しかり、何においても悲しいかな「選ばれない」と始まりません。

映画の劇中で「20代の女性ばかり選ばれる婚活市場」も、見方を変えれば、男性もその20代の女性たちに「選ばれない」と婚活は成立しません。

むしろ女性よりも男性の方が「選ばれる」ことに対して、シビアな現実が多く待ち受けています。

斎藤あやめ

そう考えると、映画『Eggs 選ばれたい私たち』の登場人物たちの切実な選ばれたいという思いは、男性でも共感しやすいものなのかもしれません。

象徴的なカットが印象的で視覚に訴えかける

『Eggs 選ばれたい私たち』では、70分というコンパクトな上映時間の中で、度々「女性性」をイメージさせる印象的なカットが挟まれています。

卵、浜辺、月経をイメージさせる血などのカットは、少々ダイレクトすぎ、かつ、登場の頻度が多すぎるのも事実ですが、「女性性」「痛み」「辛さ」そして「タイムリミット」を視覚的に訴えるという演出としては、実にインパクトがあるものになっています。

斎藤あやめ

とくに冒頭の卵をかき混ぜるシーンは、卵をかき混ぜるカチャカチャという音とエッグドナー希望者の声とが重なりあい、妙に心をざわつかせ、何かに追われる気分にさせられてしまいます。

また同時に、かき混ぜられてぐちゃぐちゃになっていく卵が、受精することなく無駄になった卵子のようにも見えて、映画の真髄を表現しているかのようにも見えるのです。

ぐちゃぐちゃになった卵のシーンは、冒頭以外にも映画のラストに再び登場します。

『Eggs 選ばれたい私たち』

©「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

斎藤あやめ

そのシーンでも、卵が実に印象的に使われていますので、ぜひ注目してみてくださいね。

映画『Eggs 選ばれたい私たち』あらすじ・ネタバレ感想まとめ

以上、ここまで『Eggs 選ばれたい私たち』をレビューしてきました。

要点まとめ
  • 人生の選択肢に迷う女性に寄り添う映画
  • 生きにくさを感じている男性にもおすすめ
  • 視覚で訴えるカットの印象深さは見事の一言

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