ふわふわの金髪で制服を着崩した女子に人気のバンドマンと、直毛の黒髪で眼鏡という見るからに真面目な秀才男子・正反対の2人の高校生が小さなきっかけで恋しあう、まじめなラブストーリー。
- 高校生という思春期のなかで恋しあう少年たちを描いた作品
- 監督は『君に届け』『坂道のアポロン』『四月は君の嘘』で絵コンテや原画に携わった中村章子
- 全国30スクリーンと小規模公開ながら初週2日間の国内映画動員ランキングで初登場第9位にランクインしました
それでは『同級生』をネタバレありでレビューします。
目次
映画『同級生』作品情報
作品名 | 同級生 |
公開日 | 2016年2月20日 |
上映時間 | 60分 |
監督 | 中村章子 |
脚本 | 中村章子 |
原作 | 中村明日美子 |
出演者 | 野島健児 神谷浩史 石川英郎 |
音楽 | 押尾コータロー |
【ネタバレ】映画『同級生』あらすじ
高校2年生、夏。
合唱祭の練習中、草壁光(神谷浩史)は眼鏡の優等生・佐条利人(野島健児)が口パクをして歌っていないことに気付きました。
その日の放課後、バンドの練習に向かおうとした草壁は教室にお弁当箱を忘れたことに気付いて取りに戻ります。
そこにいたのは佐条でした。
佐条は教室で一人、合唱祭で歌う歌を練習していました。
草壁がクラスでの練習中に思った“ヤル気がなかった”わけではなく、佐条は眼鏡の度があっていなくて教室の前に貼り出された楽譜が見えなかったから“歌えなかった”だけでした。
草壁は勢いで、課題曲の練習に付き合うと言い出します。
自分はバンドをやっているだけあって楽譜は読める、人知れず努力している佐条の力になれる、そんな勢いで。
合唱祭の前日、佐条は「ほんと助かった今まで。ありがとう」と草壁にソーダをおごりました。
2人で並んで飲んでいる時に草壁は不意に、歌を頑張ったのは担任の原センこと原学先生(石川英郎)のためかと聞きました。
佐条はその問いに驚いてペットボトルから手を放してしまい、地面に転がっていくそれを草壁が拾おうとします。
ほぼ同時に佐条も屈んで拾おうとした時、物理的な距離が近づいた瞬間。
草壁は佐条にキスしました。
合唱祭の本番中、練習している間のあれこれを思い出していた草壁は感極まって泣き出しステージから逃げるように去って行きます。
それを追う佐条を見てクラスメイトたちは「本番中なのに」とか「ドラマみてぇ」とか野次を飛ばしました。
飛び出したきり戻ってこない2人を探しにきた教師たちの声を聞きながら、2人は用具室の中で2度目のキスをしました。
秋の田の、かりほの庵の苫をあらみ
同じ年で同じ高校に通い、同じクラスにいる2人。
けれど草壁はふわふわの長い髪で色も明るく一見すればヤンキー系、佐条は短い直毛の黒髪に眼鏡という見るからに真面目な生徒。
“ジャンル”が違う2人が一緒にいるのを妙に思ったクラスメイトが草壁にそれを指摘するのを、教室の外で佐条が聞いていました。
ある日の昼休み、草壁が進路のことで原先生と話している時、先生もまた2人のことを話題にあげました。
そして「俺はあいつのことを1年の時から知ってた」と言いました。
原先生から放課後にある次の進路指導の順番の佐条に声をかけておいてくれと言われ、教室に戻った草壁は声をかけようとしますが無視されます。
その態度につい「ちょっと自意識過剰なんじゃねーの?」と大声を出してしまい、ハッと我に返った時すでに遅し。
取り繕うように用件を伝えたところで小さく短い返事が返ってきただけでした。
進路指導にて、うかない顔をしていた佐条は原先生から「ふられちゃった?」と切り出されます。
そして男同士で付き合うというのはどういうことかわかっているのかと聞かれます。
佐条は頭の中で、クラスメイトが話していた“ジャンル”が違うじゃんという言葉を繰り返していました。
そしてそそのかすように原先生が佐条にキスしようとしたところで、帰ったはずの草壁が進路指導室に駆け込んできました。
草壁は佐条の手を引いて走り出し、一言「ごめんね」と謝りました。
そして「俺と付き合ってください」と言います。
佐条は原先生から言われた言葉を思い出していました。
ばかと大馬鹿
3年生になりクラスが離れた2人。
草壁は佐条を、自分が他校の生徒と組んでいるバンド、ズコックの解散ライブに誘います。
金曜で予備校があると一度断ろうとした佐条ですが、オールナイトイベントだから出番は1時で予備校が終わってからでも来られると言われて行くことにします。
普段の生活になじみのなさすぎるライブハウスという空間で、佐条は手違いでビールを手にズコックのライブを目にします。
そして終わったあとほろ酔いでぼんやりしていると近くでズコックのファンらしき女の子たちが「最後なんだから想いを伝えた方がいい」みたいな話をしているのを耳にしました。
彼女たちについていくと草壁のファンだという女の子が連絡先を聞き、隠れて聞いていた佐条は2人が繋がってしまうのを嫌だと思いましたが草壁は軽々しく「いいよ」と言いました。
苦しくなって、ヤケになった佐条はライブハウスを出てビールを飲み干し公園で寝転がります。
途中かかってきた草壁からの電話は全部無視。着信拒否。もうやめにしよう、いまなら忘れられる、なかったことにできる。そう思っていたところに公衆電話からかかってきた着信にうっかり出てしまったところで、草壁が走ってきて見つかってしまいます。
佐条はさっきまで女の子にモテモテだった草壁に「自分みたいな暗くてガリ勉で眼鏡の、男といて楽しいのか」と聞きます。
草壁は「佐条が一番だ」と返しました。
二度目の夏
付き合い始めて一年、いまだキス止まりの関係に人知れずもやもやしていた草壁は原先生のところに行って唐突に「男同士でのヤリ方」を聞きました。
そんな会話の途中、原先生は口を滑らせて佐条の志望校が京大であることを言ってしまいます。
京大、京都。
草壁たちのいる東京から離れた場所。
進路のことを佐条本人に聞けば、父親が京大出身だからという理由で何となくそうすることになっていた、と言いました。
草壁は原先生からではなくちゃんと佐条から聞きたかったのに、きっとこんなイレギュラーがなければずっと知らないままいつか離れていったのかもしれないと思います。
そんな思いで、佐条は決まっていることを変える気もなく、だからといってそのことで揉めるのも嫌で、なんとなくそのままフェードアウトしていくつもりだったんだろうと言われて、佐条は草壁を引っ叩きました。
佐条からしてみれば草壁も未来について、進路についてさえ何も話してくれない。
そう言ったところで草壁は「そうだよな、俺たちお互いのこと全然知らんもんな」と吐き捨てるだけでした。
売り言葉に買い言葉のような流れで2人はしばらく会うのをやめてしまいます。
それぞれに夏休みを過ごして8月、全国模試の日。
佐条は会場に向かう電車の中で草壁の言葉を思い出して追い込まれハンカチで口を押えて座り込んでいました。
そこに草壁から電話がかかってきます。
佐条の意識はそこで途切れて、気付いた時には電車のホーム。
気を失った佐条の名前を呼び続けていたのは草壁でした。
高校入試の時、電車に乗れなくて志望校全部落ちたことがトラウマになっている佐条は“また”繰り返してしまったと自分を責めそうになります。
そこで会わない間、秋田でバイクの免許を取ってきていた草壁が会場まで送ると言い出します。
2人乗りのバイクでお互いの気持ちを打ち明け合って、到着したのは模試が始まる5分前。
佐条は初めて自分からキスして「行ってくる」と言いました。
模試を終えた佐条は外で居眠りしながらずっと待っていた草壁のところに向かいます。
模試の手ごたえはもはやどうだって良くなっていました。
どんな未来だとしても、側に草壁がいるならそれでいいと思えるようになっていました。
映画『同級生』感想
もどかしいほどに、まじめな恋の話
『同級生』はざっくり言うと男子校というシチュエーションで不良っぽい雰囲気の生徒と真面目でしかない雰囲気の生徒がささいなことをきっかけに距離を縮めて恋に発展するという甘酸っぱい話。
そこに上乗せで生粋のゲイの担任教師、進路という避けようのないものが絡んで切なさとかもどかしさ、苦しさみたいなものが程よく入り込んできます。
vito
草壁光を演じたのは神谷浩史、アニメにそこまで詳しいわけじゃない私でも色んな作品で聞いている声の人。
『進撃の巨人』のリヴァイとか『ONE PIECE』のトラファルガー・ローの人って言えば頭に浮かびやすいでしょうか。
vito
キャラの設定に関しては主軸の2人が正反対なのが凄く良い。
見た目も周りからの印象も性格も真逆。
vito
もうちょっと踏み込んだところで書くと、夏休みのあたりで草壁が免許を取りに合宿に行くところで、一緒に行った子と佐条のことを話す場面があるんですけど。
その子からしてみたら草壁は“女の子に対して来るもの拒まず去るもの追わず”みたいなイメージだったのに、だったからこそ、佐条と付き合っているっていうのがしっくりきてるみたいなことを言うんです。
vito
一見チャラくて遊んでそうな子の初恋相手が真面目な同級生。
その、真面目な同級生である佐条は映画の中ではそこまではっきりとした描写がないものの同性愛指向を自覚している子という設定です。
1年の時に原先生が好きだったという過去もあったり。
原先生も原先生で佐条に惹かれていたけど教師と生徒という線を引いて、手を出さないっていうポリシーのある人。
というのを知った上で見ると、原先生との場面の意味が深まるかもしれないですね。
あとストーリー進行が夏、とか秋、とか項目で別れているので漫画を読んでいるみたいな気分ですらすら見られるのも心地よかったりします。
vito
『同級生』の好きな場面など
一番好きな場面は、模試に向かう佐条が気を失っている間に見ていた夢。
vito
レモンイエローのリボンが欲しくなる。
何に使うでもないにせよ。
あとは前の項目でも書いたけど原先生と佐条の場面も好きです。
vito
大人が子供に手を出そうとしていることをありありと感じるっていうか。佐条が1年の頃に想いを寄せていたわけで、原先生も好きだったわけで。
だから原先生は弱っている佐条に手を出そうとしてしまったし、佐条も拒もうとしなかったのかなぁ…とか考えてしまう非常にオイシイ場面です。
結局、草壁が乱入して未遂に終わるんですけど。
どちらかというと草壁よりも佐条に感情移入して見ていたので佐条絡みの場面ばかり印象に残っているんですがライブハウスで隠れて草壁とファンの子とのやりとりを聞いている場面とか、模試に向かう電車のなかで記憶の中の草壁の言葉に自分の気持ちをぶつけている場面も好きです。
まったく同じではないけど割と自分の身に覚えがあるというか、暗いところに引っ張られてしまう感覚みたいなものが上手に描かれていると思います。
vito
草壁に感情移入する人、どちらにも特に移入せずに見る人、それぞれどういう場面にグッとくるのか気になるところです。
ちなみに原作では続編やスピンオフにあたる作品も出ているので、草壁と佐条や原先生のその後もそちらで描かれていたりします。
映画『同級生』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
本日の一枚。どのシーンをみてもほっこり。自然とにやけてしまうんです・・・。 #同級生 pic.twitter.com/mboXz1Ny92
— 同級生 (@doukyusei_anime) February 17, 2016
以上、ここま『同級生』をレビューしてきました。
- 手彩のタッチで描かれるやわらかくて繊細なアニメーション
- 情景の色使い、節々での言葉のセンスとか目にも耳にも心にも響くものが多い作品
- 思春期の少年たちの揺れ動く感情、甘酸っぱくてまっすぐな恋にグッとくること間違いなしです