テレビアニメ『宇宙よりも遠い場所』の監督・いしづかあつこ、アニメーション制作・マッドハウス、キャラクターデザイン・吉松孝博が再結集したオリジナル長編劇場アニメ『グッバイ、ドン・グリーズ!』。
舞台は東京から少し離れた田舎町。
農家の一人息子・ロウマとその友人・トト、やがてロウマと意気投合するドロップの三人が、ひょんなことから山火事の犯人に仕立て上げられてしまい、無実の罪であることを証明するために証拠となる空の彼方へ消えたドローンを探しに行く物語です。
ロウマ役に『鬼滅の刃』の竈門炭治郎や『東京喰種トーキョーグール』の金木研で知られる花江夏樹。
トト役には『進撃の巨人』のエレン・イェーガーや『僕のヒーローアカデミア』の轟焦凍で知られる梶裕貴。
そして、ドロップ役を『ハイキュー!!』の日向翔陽や『魔入りました!入間くん』の鈴木入間で知られる村瀬歩が演じました。
その他にも「<物語>シリーズ」の千石撫子役で知られる花澤香菜など実力派声優陣が揃い、注目を集めています。
また、主題歌を担当するのは人気ロックバンド・[Alexandros]。
過去にも劇場アニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』やゲーム『JUDGE EYES:死神の遺言』など独特の世界観の作品で主題歌を担当しており、今作でも印象深い楽曲で物語を彩りました。
そんな期待値の高い映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』を早速レビューしていきたいと思います。
目次
アニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』登場人物・キャスト
ロウマ(鴨川朗真)/花江夏樹
・東京から少し離れた田舎町に住む農家の一人息子。
・周囲に上手く馴染むことができず、気の置けない友人はトトだけ。
・普段の行動範囲は自転車で行ける距離だけで、修学旅行や課外授業以外では近所から出たことがない。
トト(御手洗北斗)/梶裕貴
・地元で開業し、地域を支えている御手洗医院の後継ぎ。
・幼い頃から医者を目指している秀才だが学校では浮いており、ロウマと二人で“ドン・グリーズ”を結成する。
・東京の進学校に合格し、派手な髪型で東京生活を満喫しているように見せているが……。
ドロップ(佐久間雫)/村瀬歩
・アイスランドからロウマの住む田舎町にやってきた少年。
・高校への進学で一人ぼっちになってしまったロウマと出会って意気投合し、“ドン・グリーズ”の一員に加わる。
・ポジティブで真っ直ぐな性格で、日本にやってきた理由を「宝物を探しにきた」と話す。
チボリ(浦安千穂里)/花澤香菜
・中学生の時、ロウマの住む田舎町に引っ越してきた少女。
・朗らかな笑顔が魅力的で誰からも注目されていた。
・写真が大好きでロウマが一眼レフカメラを持っているのを見て言葉を交わすものの、卒業を待たずに両親の仕事の都合で海外へ移住することに。
【ネタバレあり】アニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』あらすじ
1日目:「“ドン・グリーズ”」
――東京から少し離れた田舎町。
農家の息子であるロウマ(花江夏樹)は高校1年の夏休みを迎え、東京の高校へ進学した親友・トト(梶裕貴)と再会します。
小学生時代から周りに馴染めず浮いた存在だった二人は、山の中に秘密基地を作り、二人きりの“ドン・グリーズ”というチームを結成。
しかし、この夏はアイスランドからロウマの暮らす町にやって来た少年・ドロップ(村瀬歩)も仲間入りし、“ドン・グリーズ”は三人になります。
毎年、隣町で行われる花火大会に同級生たちは揃って向かいますが、ロウマとトトだけは絶対に誘われません。
そのため、二人は手持ち花火や打ち上げ花火を用意して、自分たちだけの花火大会を楽しんでいました。
今年はそんな花火大会を空撮しようと、以前から気になっていたドローンを購入。
ロウマは念願のドローンを手に入れ、張り切っていました。
2日目:「世界を見下ろしてみたいと思わない?」
今年も隣町の花火大会に誘われなかったロウマ。
そんな事情を知ったドロップは、ロウマたちを「ドングリたち」と呼んで馬鹿にしてくる同級生たちにささやかな仕返しをしようと、あることを提案します。
それは、格好良く身だしなみを整えたロウマの両隣を女装したトトとドロップが歩き、同級生に見せつけるように颯爽と通りすがることでした。
男子たちはバッチリ化粧をして胸に風船を詰めたトトとドロップを美女だと勘違いしたまま見惚れ、女子たちは「いいにおいがした」と黄色い声を上げていました。
ドロップは病院にいた時に知り合ったお姉さんからメイクを教わったと言っており、綺麗なウィッグも持っていました。
服もトトの姉のものをこっそり拝借し、同級生たちを欺くことに成功します。
ドロップの提案が上手くいって大騒ぎの三人は花火大会を始めようとしますが、ロウマが町の商店で買った花火は古すぎて火がつかず、ドローンも操縦不能になり行方不明に。
やがてドローンを夜に飛ばすのは違反だと言うトトの心情をよそに、パトカーのサイレンが聞こえてきました。
トトはドローンが見つかってしまったのではと焦りますが、やがて消防車のサイレンも響き渡り、辺りには焦げ臭いにおいが漂ってきます。
どうやら大規模な山火事が発生したようでした。
3日目:「山火事の犯人はドングリたち」
山火事が発生した翌日。
同級生たちが山火事を起こした犯人はロウマたちだとSNSに書き込みます。
火がつかなかった花火の残骸まで把握されており、証拠として写真まで載せられてしまいました。
どうにか現状を打破したいロウマとトトをよそに、ドロップは行方不明になったドローンを探しに行きたいと言います。
そこでトトはドローンで撮影された映像が自分たちの無実の証明になるのではないかと考えますが、それと同時に夜間ドローンを飛ばしていたことや女装していたこともバレてしまうと葛藤します。
しかし、ロウマの全財産を注ぎ込んで購入したということもあり、ドロップはドローン探しに前向きです。
ひとまずロウマがドローンの位置情報を調べてみると、およそ61km先の山中まで飛んで行ってしまったことが判明。
目的地まで一晩かかることがわかってトトは絶望しますが、ロウマとドロップは最早楽しそうにしています。
こうして三人はドローンを探しに行くことに決めました。
4日目:「僕の最後の冒険、見届けてもらわないとね」
ドローン探しの旅に出ることを決めた三人。
まだその向こう側へ行ったことがないトンネルを前に、ロウマとトトは自転車、ドロップはキックスケーターで集合します。
ドロップはキックスケーターを旅の相棒だと言い、自分の最後の冒険を見届けてもらわないといけないと笑いました。
いざ出発したものの、先日の山火事によって予定していた道が通行止めになっていたり、あらゆる場所に調査中の警察や消防がいたりと、旅は思うように進みません。
自分たちが山火事の犯人だと噂されているため、警察に見つかることを恐れたロウマとトトは思い切り道を外れてしまい、迷い込んだ山中で熊に遭遇。
三人は何とか逃げ切りましたが、本格的に道に迷ってしまいました。
それでも諦めず道を切り拓いていくドロップを先頭に進んで行きますが、ついていくロウマとは反対に、トトは焦りや苛立ちを見せ始めていました。
やがて見たことのない風景や語ってこなかった互いの心情を知り、ドローン探しの旅は思いもよらない冒険へと変化していき……。
【ネタバレあり】アニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』見どころ・感想
少年たちの宝探し
物語の核となるのは“宝探し”。
その宝とは、金銀財宝のようなわかりやすいものではなく、形のないものでした。
まず、ロウマとトト、ドロップの三人は、山火事を起こした犯人に仕立て上げられてしまい、無実を証明するためにドローン探しの旅に出ます。
様々なハプニングを乗り越えながら進んでいたように思えましたが、やがて互いにぶつかり合うようになっていきます。
半ば遭難状態で焦り、苛立ちを抱えたトトが痺れを切らし、ドロップに突っかかって口論に。
その中で、高校生にもなって“ドン・グリーズ”なんてダサい、と発言します。
これは冒頭でロウマと再会した時にもトトが言いかけていたことなので、彼の本心ではあるのですが、ロウマを傷つけたくなくて言い出せなかったのでしょう。
立ち去ってしまったロウマを見て落ち込んだ様子のトトですが、ロウマは遠くにはいかないのだとドロップに語り、自身の気持ちを吐露しました。
トトは秀才で医者を目指しており、言うなれば将来有望。
病院の息子として育ち、親の敷かれたレールの上を走ってきました。
本人にもその自覚があり、成長する過程で違和感をおぼえていました。
しかし、ロウマにとってトトは優秀で自慢の親友。
だからこそ、トトはロウマに自分の弱い部分を晒せずにいたのです。
こんな山の中にまで参考書を持ってきたトトを呆れたような目で見つつも、ドロップはトトの今までの努力を感じ取っていました。
そして、このトトとドロップのやり取りは、少し離れた場所にいたロウマにも聞こえていました。
ロウマは初めて聞くトトの弱音に驚きながらも、胸を締め付けられます。
一方で、親友であるトトから遠くにはいかないと評されたロウマは、その言葉の通り自転車でいける範囲でしか行動してきませんでした。
高校進学時もトトから一緒に東京へ行こうと誘われたのを断っており、自ら狭い世界に閉じこもっているように見えます。
そんな中、中学時代の同級生だったチボリ(花澤香奈)を意識し始め、彼女がアイルランドに引っ越して以降、その想いは強くなっていました。
農家の息子であるロウマはどうやら親戚も農家であり、叔父が作ったホウレンソウの名前を付けるよう頼まれ、「ユグドラシル」と名付けます。
“ユグドラシル”とは、北欧神話における世界樹のこと。
チボリが引っ越した先――北欧のことをロウマが調べたのであれば、知っていても不思議ではありません。
この辺りのことは、劇場で配布されている入場者特典『DONGLEES GUIDE BOOK -ドン・グリーズと冒険に出かけよう-』にも記載がありました。
チボリがここではないどこか遠くに、未知の世界に飛び立っていったことで、憧れが増しているようです。
それはロウマが狭い世界しか知らず、自ら外に出て行こうともせず、それでも知らないものを知りたい、見たことのないものを見てみたいと願っているからでしょう。
ドローン探しだって全財産を注ぎ込んだからというのは後付けで、いつもの夏と違うことがしてみたかったから、好奇心が勝ったから、という気持ちが大きかったのではないでしょうか。
このように、自分には何かが足りないという焦燥感や閉塞感、そして先の見えない将来への不安感。
そんな思春期特有の感情を持て余しているのが、ロウマとトトの二人です。
対して、ドロップは不思議な雰囲気の少年。
ポジティブで真っ直ぐで明るくて、可愛らしい見た目で子供っぽいところもあり、それでいてロウマやトトよりも落ち着いた考えを持ち、どこか悟ったような発言をする……。
「最後の冒険」だと言ってみたり、「宝物を探しにきた」と言ってみたり、要所要所でロウマとトトを困惑させますが、どれも文字通りの意味でした。
明確に表現はされていませんが、ドロップは何らかの病気により日本にやって来た段階で余命いくばくもなく、物語後半では亡くなってしまいます。
ロウマとトト、そして私たち観客がこのことに気付く要素は序盤から散りばめられており、ドロップの不思議な雰囲気を助長していました。
女装をした時、病院で出会ったお姉さんからメイクを教えてもらい、ウィッグをもらったと話していた際には、トトが「病院? 美容院?」と聞き間違えていましたが、きっと入院していたのでしょう。
また、ドロップが自身の髪を「せっかくまた伸びてきたから」と伸ばしている様子から、病気の影響で髪がなかった時期があること、ヘアドネーションをしようとしていたことがわかります。
ヘアドネーションは、小児がんや先天性の脱毛症などで頭髪を失った子供のために、寄付された髪でウィッグを作り、無償で提供する活動のことです。
近年、日本でも広まっている活動の一つですが、寄付するためにはある程度の長さが必要なので、男性が実行するには少しハードルが高いかもしれません。
しかし、ドロップが亡くなった後、ロウマとトトは髪を伸ばして二人で美容院へ行き、ヘアドネーションをしたことがわかります。
そして、ドロップが遺した“宝の地図”に気付いた二人は、彼のいたアイスランドへ旅立つのです。
巨大な黄金の滝、そこに虹がかかっていて、近くには何故かポツンと赤い公衆電話が存在している……。
話に聞いた通りのその場所へ見事辿り着いたロウマとトトは、公衆電話が鳴るのを耳にします。
その電話は出た人の宝物が何なのか教えてくれると言われており、ドロップはそれを聞いて日本にやって来たのでした。
二人は慌てて電話に出ようと駆け出しましたが、受話器を取った瞬間に切れてしまい、項垂れたところで二つのことに気が付きます。
それはこの電話の番号に見覚えがあったこと、そして、ドロップの宝物は自分たちの存在だったということです。
かつてチボリがアイルランドへ行ってしまった後、トトは彼女の引っ越し先の電話番号を入手し、ロウマにかけさせようとしていました。
結局、電話が繋がることはなかったと思っていたのですが、実はこの電話が赤い公衆電話に繋がっており、偶然にもドロップが受話器を取って二人の会話を聞いていたのでした。
トトはアイルランドとアイスランドという似た名前の国、その国際電話の国番号を間違えていたのです。
この間違いがドロップを日本に呼び寄せ、彼の宝物である“最後の冒険をともにする友達(=ロウマとトト)”との出会いを生み出し、ロウマとトトが大きな一歩を踏み出すきっかけとなりました。
物語終盤にこういった大きな仕掛けが用意されていたことで、ドローン探しから始まった“形のない宝物を探す宝探し”が無事に完結。
ドロップ亡き未来にも、彼ら三人の絆が続いていくことを強く予感させるラストとなりました。
メインキャストの熱演が光る
思春期特有の焦燥感や閉塞感を描きながら、大自然の中にひっそりとある赤い公衆電話など奇跡のようなファンタジック要素を詰め込んだ今作。
そんなリアルとアンリアルの狭間を埋めるためになくてはならなかったのが、メインキャラクターを演じたキャストたちの存在です。
ロウマを演じた花江夏樹は、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎役で知られており、作品のヒットとともに注目を集めた今話題の声優の一人です。
YouTubeチャンネルも人気が高く若年層の心を掴んでいることもあってか、ロウマのような等身大の少年の役にピタリとハマっていました。
ひ弱で自信がなさそうで、いじめられっ子体質のロウマですが、トトやドロップといる時は至って普通の元気な少年という様子で、その対比がとても自然でした。
ずっと諦めず前を向いて進んできたものの、心が折れてしまって弱音を吐くドロップに対し、「諦めるな!」と熱く想いを伝えるシーンは、多くの人の記憶に残ったのではないでしょうか。
トトを演じた梶裕貴は、『進撃の巨人』のエレン・イェーガー役で知られており、芯の強いキャラクターを演じることが多いように思います。
マイペースで飄々とした刑事やボソッと喋る高校生、可愛らしい高めのトーンのキャラクターもこなす実力派です。
今作のトトは格好つけてみたり、騒いでみたり、お腹を壊してみたり、怒ったり、泣いたり、笑ったりと登場人物の中で一番喜怒哀楽が激しく、忙しいキャラクターに見えました。
それでもコミカルな部分とシリアスな部分、両面でトトの人間性を感じさせてくれましたし、“ドン・グリーズ”の名前の由来を話すシーンでは、自分たちを客観視した台詞が印象的でした。
ドロップを演じた村瀬歩は、『ハイキュー!!』の日向翔陽役で知られており、女性の役もこなせるほどの声域の広さと表現力が特徴的です。
ドロップは明るい高めの声で、見た目と同様に15歳にしては幼い印象を与える少年。
しかし、淡々と考えを語ったり、大事なことを伝えたりする時の声のトーンや話し方はとても大人びています。
そんなドロップのポジティブで真っ直ぐなところ、どこか影を感じさせる儚げなところ、その二面性をあんなに豊かに演じられるのは、村瀬歩しかいない! と思わされる95分間でした。
そして、チボリを演じた花澤香菜は、多くはない登場シーンの中で彼女の独特の存在感を表現していました。
誰からも注目されるのに、みんなの輪の中にいるよりも、一人でカメラのレンズを覗くほうが楽しそうなチボリ。
彼女はロウマたちが探し求めていた「自分では知り得ない自分の宝物」をしっかりと理解していたのかもしれません。
チボリからロウマへ送られてきたメッセージに音声はついていませんでしたが、思わず花澤香菜の声で脳内再生されるほどチボリの雰囲気とマッチしていました。
アニメ映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』まとめ
・大自然を描いたアニメーションが美しい!
・キャスト陣の好演に注目!
いかがだったでしょうか。
urara
入場者特典の冊子も読み応えがあったので、是非劇場へ足を運んでゲットしてみてください。