テレビドラマで最もメジャーなジャンルは何でしょうか?
ニコ・トスカーニ
刑事ドラマは警察、もしくは警察に類する捜査機関の人間が主人公になっています。
物によっては、関係者以外ではあまりなじみのない用語や習慣が描写されていることもしばしば。
今回は刑事ドラマ、もしくは刑事モノの映画を見る上で、知っておくと便利な用語や制度、組織などの豆知識について解説します。
目次
刑事ドラマを見る時に役立つ豆知識を解説
警察と検察
警察と検察は、治安維持において欠くことができない存在です。
アメリカの歴史的な長寿ドラマ『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』(1990-2010)の冒頭で、毎回流れていたナレーションはその流れを端的に物語っていました。
“In the criminal justice system, the people are represented by two separate, yet equally important groups: the police, who investigate crime, and the district attorneys, who prosecute the offenders. These are their stories.”
「刑事法体系には等しく重要な二つの独立した組織がある。犯罪を捜査する警察、そして容疑者を起訴する検察。これは彼らの物語だ。」
刑事ドラマは基本、刑事が主人公です。
刑事は事件を捜査して証拠を集め、逮捕状を請求して容疑者を逮捕します。
そして、警察が逮捕した容疑者を検事が起訴し、裁判を行い量刑が定められます。
ほとんどの刑事ドラマは逮捕までしか描かれませんが、『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』では刑事ドラマとしては異例なことに、検察官も主要人物としてレギュラーで登場していました。
ニコ・トスカーニ
『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』は毎回一話完結の形式で、事件発生から裁判の結審までを描いており、刑事法体系という治安維持の要となる流れを知ることができます。
また、同作は登場人物の私生活に関する描写をほとんど省いており、刑事法体系の一連の流れが極めて高い純度で描かれているのも特徴。
事件発生→捜査→逮捕→起訴→裁判という流れは民主的な法治国家であれば基本は同じなので、『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』だけでも刑事ドラマを見るのに必要な基礎知識を勉強できます。
同シリーズは山ほどのスピンオフ作品が制作されましたが、2021年時点ではほとんどが終了。
現在は、第一のスピンオフ作品である『LAW & ORDER – ローアンドオーダー – :性犯罪特捜班』(1999-)のみが継続中ですが、2021年より新スピンオフ『Law & Order: Organized Crime(原題)』が開始予定です。
『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』は日本では決して有名とはいいがたい作品で、ディスクも部分的にしか出ていませんが、アメリカではエミー賞を受賞し現役刑事からも「リアル」と評価された名作です。
また、警察ではなく検察を主人公にした作品として『LAW & ORDER:Trial by Jury(原題)』(2005-2006)、『SHARK カリスマ敏腕検察官』(2006-2008)、『女検察官アナベス・チェイス』(2005-2007)、『Chicago Justice(原題)』(2017)などがありましたが、いずれも短命に終わりました。
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日本だと映画も制作された『HERO』(2001、2014)が検察を主人公にしていましたね。
また、映画化された『推定無罪』(1990)は法廷サスペンスの傑作として名高い名作ですが、原作者のスコット・トゥローは元シカゴ地区連邦検察局の検事補を務めていた経歴の持ち主です。
管轄
ここで言う管轄とは、地理的な行政区分による警察の管轄を指します。
アメリカを舞台にした作品を見るうえで、まず知っておくべきことは大雑把な行政区分です。
アメリカ合衆国は、50の州が連合してできた連邦国家です。
国家として合衆国憲法がありますが、合衆国憲法よりも州法の方が優先される傾向にあり、さながら州が一つの国家のような様相を呈しています。
刑事ドラマでも時々描写されますが、刑罰に対する考えも違い、死刑制度を存続させている州もあれば、廃止、もしくは形骸化している州もあります。
マリファナは日本では地域に関係なく違法ですが、アメリカでは州によっては(医療用などに用途が限られる場合もありますが)合法です。
一番大きな行政区分である州(state)の下に郡(county)があり、さらにその下に市(city)がある状態。
ニューヨークやロサンゼルスのような大都市では市の下で、さらに地区ごとに警察の管轄が分かれています。
また、これらの行政区分とは別に自治連邦区プエルトリコ、海外領土のグアム、首都のワシントンD.Cが属するコロンビア特別区(D.CはDistrict of Columbiaの略称)などが存在します。
そして、警察における一番下の管轄区分が分署(precinctまたはdistrict)です。
分署は各市の各地域を担当します。
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『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』の刑事たちは、ニューヨーク市警察27分署(架空の分署)の殺人課の所属。
同作と世界観を共有する『シカゴ・P.D.』(2014-)の刑事たちは、シカゴ市警察21分署(こちらも架空の分署)の特捜班の所属です。
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分署の管轄を跨ぐと市警察の出番になります。
『LAW & ORDER:犯罪心理捜査班』(2001-2011)のオープニングでバックに映っていた”One Police Plaza(1PP、ポリスプラザ一番地)”はニューヨーク市警察本部の所在地で、これは『LAW & ORDER:犯罪心理捜査班』の刑事たちが所属する重要事件捜査班(MCS)がニューヨーク市警察本部に本拠を置いていることに由来します。
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市を超えると郡の管轄になります。
郡の管轄は保安官(sheriff)である場合が多いですが、前述のとおりアメリカは州によって制度が異なる場合も多く、郡警察が置かれている州もあります。
マイアミ・デイド郡を管轄とするマイアミ・デイド郡警察が、よくテレビドラマに出てくる例ですね。
有名なところだと『CSI:マイアミ』(2002-2012)が、その例として挙げられます。
町や村など市以外の管轄になるエリアも、保安官の担当です。
そのため、田舎が舞台の作品はとりあえず保安官が出てくる場合が多いです。
そこから郡の管轄を跨ぐと、州捜査局の出番。
これも州によって警察(police)だったり、別の名前の組織が管轄してたりします。
『TRUE DETECTIVE』(2014-)の第1シーズンはルイジアナ州警察、第3シーズンはアーカンソー州警察の刑事が主人公でした。
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『メンタリスト』(2008-2015)ではカリフォルニア州を管轄とするCBIという架空の組織が出てきましたが、現実ではカリフォルニア・ハイウェイパトロールが該当します。
州捜査局の管轄を超えると、大ボスである連邦捜査局、映画、ドラマに頻繁に出てくるおなじみFBI(Federal Bureau of Investigation)の出番です。
FBIは全米を管轄とします。
また、これは捜査機関ではなく諜報機関ですが、海外での事案はNSA(国家安全保障局、National Security Agency)とCIA(中央情報局、Central Intelligence Agency)の領分です。
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最近だと、Amazonでモダンにリメイクされたトム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』(2018-)がその例でしょうか。
フィクションに出てくるCIAは大抵テロの脅威と戦っていますが、実際のところアメリカ国内のテロ事件に対応するのはFBIです。
『24 -TWENTY FOUR-』(2001-2014)、『24: Legacy』(2017)に登場するCTU(テロ対策ユニット)は架空の連邦組織で、FBIとCIAの機能を兼ね備えた組織として描かれていました。
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日本の場合だと、大きな管轄の差として、警視庁と警察庁の違いがあります。
警視庁は東京都を管轄とする警察組織です。
『相棒』(2000-)の特命係はじめ、東京を舞台にした刑事ドラマの刑事は例外なく警視庁の所属です。
警視庁の英語名は”Metropolitan Police Department”、直訳すると「首都警察」です。
東京は日本の首都ですが、警視庁は東京を管轄としているので、まんま首都を管轄する警察組織という実態を表しているわけですね。
「ロンドン警視庁」と訳されている、もしくはスコットランドヤードの通称で知られるイギリスの警察組織も正式名は”Metropolitan Police Service”で、こちらも首都ロンドンを管轄とする実態を(厳密にはちょっと違いますが)表しています。
東京以外の各道府県は道警察、府警察、県警察の管轄になります。
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警察の部署
犯罪には様々な種類があります。
ニコ・トスカーニ
さらに言うと、窃盗は捜査三課、暴力団などの組織犯罪は捜査四課の領分です。
世界有数の低い犯罪発生率を誇る日本に対し、アメリカの犯罪発生率は日本の15倍とも20倍とも言われており、犯罪の種類も多種多様。
それに対応し、様々な分野に対応する捜査機関や部署が存在します。
警察組織で最も多様な専門分野を持っているのが、ニューヨーク市警察です。
『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』本家は殺人事件を担当する殺人課の刑事でしたが、スピンオフ作品で今や本家を超える長寿シリーズになった『LAW & ORDER – ローアンドオーダー – :性犯罪特捜班』の刑事たちはspecial victims unit(性犯罪捜査班)の所属です。
この部署は現実のニューヨーク市警のSpecial Victims Division(特殊事件捜査部)と、Special Victims Squad(特殊事件捜査隊)に相当し、性的暴行、児童虐待あるいはそれに類する事件を担当します。
ニューヨーク市警察には多数の部署が存在し、犯罪の捜査を行うのはDetective Bureau(刑事局)です。
NYPDには全部で20以上のbureauがあり、その下にdivision(部)やsquad(分隊)やunit(係)が存在します。
殺人課も性犯罪特捜班も刑事局配下の組織で、刑事局の配下に人質事件の交渉を行う部署、失踪人を捜索する部署、コールドケース(解決が困難と判断され捜査が中断されている事件)を担当する部署、人身売買を捜査する部署、違法な銃器売買を担当する部署などが存在。
また、ニューヨーク市警察のユニークな部署として、地下鉄を管轄とする部署やタクシーの防犯を行う部署などがあります。
刑事とは別に『CSI:科学捜査班』(2000-2015)で注目されるようになったのが鑑識(CSI, Forensic)です。
鑑識は物的証拠を採取し、科学的に分析を行う地味で地道な仕事を行う捜査員です。
各警察で組織編成が異なり、ロサンゼルス市警ではTechnical Investigation Division (TID)とForensic Science Division (FSD)、ニューヨーク市警察ではCrime Scene Unit(CSU)がドラマのCSIに相当します。
ちなみに、ドラマでは数時間で現場検証が終わっているかのように描かれていますが、これは演出で、実際の現場検証は数日かかります。
また、あんまり描写されませんが、足跡も大事な証拠なので検証の際は靴にカバーをかけ、証拠の汚染を防ぐために防護服を着ます。
『クローザー』(2005-2012)、『相棒』の刑事はちゃんと靴にカバーをしていました。
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あと『CSI』や『科捜研の女』(1999-)のように、鑑識や法医学研究員が尋問や聞き込みに立ち会うことはあり得ません。
尋問や聞き込みに立ち会うと、客観的な分析に支障が出てしまうためです。
また、『監察医 朝顔』(2019-)でお馴染みの監察医は、監察医務院に所属する医師、もしくは大学の法医学教室が担当しています。
行政解剖を実施する監察医は警察の所属ではありませんが、刑事ドラマでお馴染みの存在ですね。
ニコ・トスカーニ
分野の違いとは別に、特殊部隊も存在します。
代表例がSWATです。
SWATとはSpecial Weapons And Tactics(特殊武装・戦術)の略で、人命救助や凶悪犯対処のために1967年にロサンゼルス市警察で編成されたのが始まりです。
ロサンゼルス市警以外にもSWATという名称の特殊部隊を編成している組織はありますが、もちろん組織によって名前が異なります。
ニコ・トスカーニ
ESUは、SWATの機能にレスキュー部隊としての機能を加えたような感じの組織です。
日本の警察だとSAT(Special Assault Team)とSIT(Special Investing Team)が特殊部隊に相当します。
警察学校
「学校」と呼ばれていますが、警察学校は学校法人ではなく、警察官養成のための職業訓練校です。
警察学校の生徒は在学中でも、地方公務員法に基づき給与が支給されます。
ニコ・トスカーニ
警視庁の上級幹部候補(いわゆるキャリア組)は警察大学校に行きますが、ノンキャリアの警察官は各都道府県警の警察学校に行きます。
テレビドラマ『教場』(2020)の警察官たちは神奈川県警の警察官なので、彼らが教えを受けているのは神奈川県警の警察学校です。
日本の場合は警察官採用試験に合格し、警察官として採用されてから警察学校に行きますが、アメリカの場合は逆で、「ポリスアカデミー」「ポリススクール」を修了してから採用試験を受けます。
ニューヨーク市警察にはTraining Bureauの下にNYPD Police Academyがあり、同部門がリクルートや教育を行っています。
警察の階級
日本の警察では、まず巡査からスタートです。
我々が日常的に接することも多い、いわゆる交番や駐在所のお巡りさんはこれです。
その上に巡査部長→警部補という階級がありますが、国家公務員I種試験に合格して警察庁に採用されたいわゆるキャリア組は、警部補からスタートします。
警部補は、交番の所長など小さなユニット単位の責任者として活躍します。
『相棒』の杉下右京刑事(水谷豊)はキャリア組なので警部補からスタートしているはずですが、過去の事件の責任を取らされる形で出世コースから外れているため、ベテランなのに一階級(警部補→警部)しか昇進していません。
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階級の話は『踊る大捜査線』シリーズで描かれていましたが、映画版以降はそういうリアルな描写が引っ込んで、ほとんどファンタジーみたいになってしまっていたのが残念です。
アメリカの場合も一番下の階級は巡査(officer)ですが、各警察によって階級制度が異なります。
ロサンゼルス市警の場合、巡査にI、II、III、III+1の4等級の階級があり、階級によって待遇が変わるのです。
ニューヨーク市警察の場合、巡査と刑事(detective)は同じ階級扱いですが、detevtiveにはグレード3からグレード1までの階級があり、階級が上がるごとに給料も上がります。
その上が巡査部長(Sergeant)、巡査部長の上が警部補(Lieutenant)、警部補の上が警部(Captain)…というあたりは日本と変わりません。
『LAW & ORDER – ローアンドオーダー – :性犯罪特捜班』に第一シーズンから出続けているオリヴィア・ベンソン刑事(マリシュカ・ハージティ)は、初登場時detective(刑事)でしたが、20年の間に巡査部長→警部補→警部と昇進して、最新シーズンでは性犯罪特捜班を束ねる立場になっています。
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アメリカの警察と副業
日本では警官に限らず、公務員の副業は禁じられています。
ニコ・トスカーニ
しかし、アメリカでは公務員が副業を持つことが普通に認められています。
なのでエキストラとして本物の警官が映画やドラマに出ることもありますし、現役の刑事がドラマや映画でアドバイザーをすることもあります。
フィクションの世界だと、『ホミサイド/殺人捜査課』(1993-2000)に登場するボルティモア市警察の刑事はバーを経営していました。
『L.A.コンフィデンシャル』(1997)のジャック・ヴィンセンス刑事(ケヴィン・スペイシー)はテレビドラマのテクニカル・アドバイザーをしていましたし、『BOSCH/ボッシュ』(2015-)のハリー・ボッシュ刑事(タイタス・ウェリバー)は自身の担当した事件が映画のモデルになったことによる臨時収入で、豪邸に住んでいます。
ニコ・トスカーニ
連邦政府の法執行機関
アメリカには警察とは別に、専門分野を持った捜査機関も存在します。
『NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班』(2003-)『NCIS:LA 〜極秘潜入捜査班』(2009-)『NCIS: ニューオーリンズ』(2014-)で有名になったNCIS(アメリカ海軍犯罪捜査局、Naval Criminal Investigative Service)はアメリカ合衆国海軍省傘下の法執行機関です。
また、こちらはフィクション作品で見たことがありませんが、陸軍にもCID(アメリカ陸軍犯罪捜査司令部、United States Army Criminal Investigation Command)という法執行機関が存在します。
そのほかに麻薬関連の事件を扱うDEA(アメリカ麻薬取締局)、逃亡犯の追跡、捕縛を行うUnited States Marchal(連邦保安官)、大統領警護の仕事で知られていますが、もともとは偽造紙幣の摘発を行うために創設されたシークレットサービス、違法な火器、爆発物、アルコール飲料・タバコ類の流通を捜査するATF(アルコール・タバコ・火器および爆発物取締局)などがあります。
警察は市などの各自自治体に属しますが、これらの組織は国土安全保障省や司法省に所属する連邦政府の法執行機関です。
ニコ・トスカーニ
FBIは30,000人を超える捜査員、職員が所属する巨大組織で、同じく巨大組織であるニューヨーク市警察と同じように分野が細分化されています。
『FBI 失踪者を追え!』(2002-2009)は失踪人の捜索、『ホワイトカラー』(2009-2014)は知能犯罪、『CSI:サイバー』(2015-2016)はサイバー犯罪を捜査する部署が主人公になっていました。
そのFBIの部署でも最も特殊なのではと思われるのが、プロファイラーの所属するBAU(行動分析課)です。
BAUは少数精鋭のエリートチームで、『クリミナル・マインド FBI行動分析課』(2005-2020)で描かれていたように、要請があれば全米各地どこにでも赴き、地元の捜査機関と協力して事件を捜査します。
そのBAUの前身であるBSUが主人公のドラマが、『マインドハンター』(2017-)です。
ニコ・トスカーニ
先進諸国の銃規制
ヨーロッパ、オセアニア、日本などの先進諸国で、銃による犯罪が起きることはそうそうありません。
理由は簡単で、これらの国では簡単に銃が手に入らないように厳しい規制が法律で定められているからです。
日本で銃を撃とうと思ったら警察の射撃訓練、自衛隊、狩猟、射撃競技ぐらいしか選択肢がありません。
ニコ・トスカーニ
銃による犯罪はめったに起きないので、日本の警察官の大半は一度も発砲することなく退官するのが普通です。
その銃規制が厳しい日本よりも、さらに銃規制が厳しい銃嫌い国家がイギリスです。
どのぐらい銃嫌いかというと、警察官ですら銃を携帯していないぐらいの銃嫌いです。
イギリスで銃を撃ちたければ、狩猟、軍隊、警察の特殊な部隊、射撃競技ぐらいしか選択肢がありません。
ニコ・トスカーニ
そのイギリス警察の姿を限りなくリアルに描いたテレビシリーズが、『第一容疑者』(1991-2006)です。
本作は数ある英国製刑事ドラマでも特にリアルなことで知られる作品で、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)が新人の研修用資料に採用していたこともあるほどです。
アメリカの刑事ドラマでは銃を構えた刑事が犯人を逮捕しに行くという場面が逮捕シーンの定番ですが、『第一容疑者』に出てくる刑事は逮捕の時も丸腰で、持っているのは逮捕状だけです。
ニコ・トスカーニ
実際の警察官はペーパーワークが主な仕事らしいです。
田舎の警察署を舞台にしたイギリス映画『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2007)ではペーパーワークをしている描写が大量に出てきましたが、エドガー・ライト監督はトニー・スコット風の演出でペーパーワークをスタイリッシュに見せていました。
同作のクライマックスでは銃撃戦がありましたが、田舎には狩猟の文化があるので田舎の方が都会よりも銃が多いらしいです。
ニコ・トスカーニ
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アメリカの捜査機関と銃
度々銃乱射事件が起きているアメリカですが、銃規制は全くと言っていいほど進んでいません。
ニコ・トスカーニ
アメリカでは犯罪に銃はつきものなので、警察やFBIなど、アメリカの法執行機関の捜査官はほぼ例外なく武装しています。
普段は携帯性の高い拳銃(ハンドガン)を持っていますが、法執行機関がハンドガンを採用する場合、基本は「38口径以上」の「オートマチック拳銃」です。
「口径」は銃口の直径のことを指します。
厳密には全然違いますが、銃の威力は口径に比例するので実行制圧力を考えて「38口径以上」という基準になっているようです。
38は38/100インチ口径のことでこれは約9mmです。
ニコ・トスカーニ
ハンドガンには、リボルバーとオートマチックの2種類があります。
リボルバーは回転式の弾倉がある19世紀からの古典的なハンドガン、オートマチックは20世紀以降に主流になった弾丸の発射と空薬莢の排出を同時にやってくれる近代的なハンドガンです。
基本的にオートマチックの方が装弾数も多く、弾丸の再装填にかかる時間も短いため、軍隊でも警察でも、現代ではオートマチックが主流です。
刑事ドラマでも現実のニュース映像でもよく見かけるのが、グロック社のハンドガンです。
実際、ニューヨーク市警察は勤務用ハンドガンとして、グロック19、スミス&ウェッソン M5946、シグ・ザウエル P226の三種類を認めています。
グロックは銃把の形が独特で、スライド部分が体の側に突き出た形になっています。
ニコ・トスカーニ
FBIも型番は違いますが、グロックとスミス&ウェッソンとジグ・ザウエルのハンドガンを採用しています。
軍隊では第一次世界大戦時点でオートマチック拳銃を採用していましたが、警察が本格的にオートマチックを採用するには時間がかかりました。
ニューヨーク市警察の刑事が出てくる映画は山ほどありますが、飛び切りリアル志向な映画だと『フレンチ・コネクション』(1971)、『セルピコ』(1973)あたりでしょうか。
これらの作品に登場する刑事は、リボルバーを使っています。
1980年代は、警察におけるリボルバーからオートマチックへの転換期でした。
『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)のアクセル・フォーリー刑事(エディ・マーフィ)はオートマチックのFN ブローニング・ハイパワーを使っていましたが、実際のビバリーヒルズ警察の刑事はリボルバーを使っていました。
『ダイ・ハード』(1988)のジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)はオートマチックのベレッタM92Fを使っていましたが、当時、米軍がコルトガバメントからベレッタにハンドガンを変更したばかりだったので最先端を行っていたわけですね。
『LAW&ORDER/ロー・アンド・オーダー』に1992年から2004年まで登場していた名物キャラクターのレニー・ブリスコー刑事(ジェリー・オーバック)はリボルバーを使っていましたが、ニューヨーク市警察では1987年7月1日までに警察官であったものに限っては、リボルバーの使用も認められているそうです。
ブリスコー刑事はベテランの設定だったので、1987年以前からニューヨーク市警で働いていたのでしょう。
なお、リボルバーは実効制圧力はオートマチックに劣りますが、内部構造が単純であるため弾詰まり(ジャム)が起きづらいという利点があります。
SF作品ですが、『攻殻機動隊』シリーズのトグサ刑事が、リボルバーを愛用している理由として語っていた通りですね。
また、銃の構え方にも、メソッドがあります。
主に二種類で、ウィーバースタンスとアイソセレススタンスです。
ウィーバースタンスは銃を両手で持ち、体を半身にする構え方です。
両手持ちすることで銃を撃った時に反動で重心がブレないようにし、体を半身にすることで相手に向ける体の面積を極力減らすことを狙いにした構えです。
『24 -TWENTY FOUR-』シリーズのジャック・バウアーは右腕をまっすぐ伸ばし、左手を右手の下に置く古典的なカップアンドソーサーの構えで、典型的なウィーバースタンスです。
そして現代において、主流なのはアイソセレススタンス、もしくはアイソセレススタンスとウィーバースタンスの中間の構えです。
アイソセレスとは二等三角形の意味で、体を半身にするウィーバースタンスと違い、両肘を軽く曲げて体は正面を向き、体と両腕で二等辺三角形を作るようにして構えます。
ニコ・トスカーニ
また、体を半身にするウィーバースタンスは腕をまっすぐ伸ばすため、利き腕の反対側に銃口を振りにくいという欠点がありますが、腕を伸ばさないアイソセレススタンスは左右どちらでも狙えます。
刑事ドラマでも、今ではこっちが主流になってる気がします。
『シカゴ P.D.』の刑事たちは、アイソセレスとウィーバーの中間のスタンスという感じですね。
また、レストポジションの際は銃口を下に向けるのがセオリーで、銃口を上に向けているのはフィクションの演出です。
ニコ・トスカーニ
最近の刑事ドラマは大体、レストポジション時に銃口は下というルールを守っている気がします。
刑事ドラマを見る時に役立つ豆知識を解説:まとめ
以上、いかがでしたでしょうか?
警察を初め捜査機関は特殊な世界で、関わりの無い人種にとっては想像のつきづらい世界です。
調べてみるとその刑事ドラマがどのぐらいリアリティへのこだわりを持っているかわかるので、ドラマを見る時も色々発見があります。
楽しみ方も変わりますので、読者の皆様もこの記事を読んだ後は色々調べてみてはいかがでしょうか。
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