ミステリーの女王、アガサ・クリスティによる名作『ナイルに死す』を原作とし、同じくクリスティ原作の『オリエント急行殺人事件』を手掛けたケネス・ブラナーの監督・製作・主演で映画化。
エジプトのナイル川をめぐる豪華客船の中で美しき大富豪・リネットが何者かに殺害される事件が発生し、彼女の結婚を祝うために集まった乗客全員が容疑者に……。
名探偵であるエルキュール・ポアロは“灰色の脳細胞”を働かせて事件の真相に迫っていきますが、その結末はこれまで数多くの難事件を解決してきたポアロの人生さえも、大きく変えることになります。
物語の主人公で名探偵のポアロ役をケネス・ブラナーが、ポアロの友人・ブーク役をトム・ベイトマンが演じ、それぞれ前作『オリエント急行殺人事件』からの続投となりました。
さらに、第一の被害者であるリネット役に『ワンダーウーマン』などで知られるガル・ギャドット、リネットの夫・サイモン役に『君の名前で僕を呼んで』で一躍話題となったアーミー・ハマーがキャスティングされ、そのほか前作にも負けない豪華キャストが顔を揃えています。
早速、そんな映画『ナイル殺人事件』をレビューしていきたいと思います。
目次
- 1.映画『ナイル殺人事件』登場人物・キャスト
- 1.1エルキュール・ポアロ/ケネス・ブラナー
- 1.2リネット・リッジウェイ・ドイル/ガル・ギャドット
- 1.3サイモン・ドイル/アーミー・ハマー
- 1.4ジャクリーン・ド・ベルフォール/エマ・マッキー
- 1.5ブーク/トム・ベイトマン
- 1.6ユーフェミア/アネット・ベニング
- 1.7ロザリー・オッタボーン/レティーシャ・ライト
- 1.8サロメ・オッタボーン/ソフィー・オコネドー
- 1.9ルイーズ・ブールジェ/ローズ・レスリー
- 1.10ドクター・ウィンドルシャム/ラッセル・ブランド
- 1.11アンドリュー・カチャドリアン/アリ・ファザル
- 1.12マリー・ヴァン・スカイラー/ジェニファー・ソーンダース
- 1.13ミセス・バワーズ/ドーン・フレンチ
- 2.【ネタバレあり】映画『ナイル殺人事件』あらすじ
- 3.【ネタバレあり】映画『ナイル殺人事件』見どころ・感想
- 4.映画『ナイル殺人事件』まとめ
映画『ナイル殺人事件』登場人物・キャスト
エルキュール・ポアロ/ケネス・ブラナー
・世界一の名探偵。
・明晰な頭脳と鋭い洞察力によって数多くの難事件を解決してきた。
・ベルギー人で、トレードマークは独特な口ヒゲ。
リネット・リッジウェイ・ドイル/ガル・ギャドット
・莫大な財産を持つ美しいアメリカ人女性。
・夫であるサイモンとともに新婚旅行でエジプトを訪れている。
・財産がある限り周囲の人々を信用できず、サイモンと出会って真実の愛を知るが……。
サイモン・ドイル/アーミー・ハマー
・リネットの夫。
・リネットとの結婚で逆玉の輿に乗った色男。
・リネットの親友であるジャクリーンは元婚約者。
ジャクリーン・ド・ベルフォール/エマ・マッキー
・リネットの親友で、サイモンの元婚約者。
・ドイル夫妻の新婚旅行を執拗に追い回す。
・フランスの上流階級の生まれだが、現在は貧しい暮らしをしている。
ブーク/トム・ベイトマン
・ユーモアのセンス溢れるポアロの友人。
・ポアロの調査中は補佐役を務める。
・友人であるリネットの結婚式に参加するため、母とともにエジプトへ。
ユーフェミア/アネット・ベニング
・ブークの母親。
・結婚式に参加しつつ、画家としてエジプトの絵を描いている。
・ブークに対しては過保護な面が強い。
ロザリー・オッタボーン/レティーシャ・ライト
・シンガーであるサロメの姪で、敏腕マネージャー。
・機知に富み、野心家な一面も。
・リネットの友人で、ブークとも親しい様子だが……。
サロメ・オッタボーン/ソフィー・オコネドー
・アメリカ人のブルースシンガー。
・ドイル夫妻の結婚式でパフォーマンスするために雇われた。
・ダイナミックな歌声で、ポアロをはじめ多くの人々を魅了する。
ルイーズ・ブールジェ/ローズ・レスリー
・リネットのメイド。
・リネットに献身的に尽くしながら、自身も上流階級の一員になりたいと願っている。
ドクター・ウィンドルシャム/ラッセル・ブランド
・リネットの元婚約者。
・紳士的な貴族で、物腰柔らかな医師。
アンドリュー・カチャドリアン/アリ・ファザル
・リネットのいとこ。
・リネットの莫大な財産を管理している。
マリー・ヴァン・スカイラー/ジェニファー・ソーンダース
・リネットの後見人で、名付け親。
・富豪だったが、財産を手放して共産主義者となる。
・気性が激しく、虚弱体質。
ミセス・バワーズ/ドーン・フレンチ
・スカイラーの看護師兼付き人。
・株の大暴落により、資産を失った過去を持つ。
【ネタバレあり】映画『ナイル殺人事件』あらすじ
美しき花嫁の死
大富豪の娘であるアメリカ生まれの美女、リネット・リッジウェイ(ガル・ギャドット)は、莫大な遺産の相続人となります。
そんなリネットの親友であるジャクリーン・ド・ベルフォール(エマ・マッキ―)は彼女をクラブに呼び出すと、自分の婚約者が失業中のため、リネットの屋敷で雇ってほしいと頼みました。
そして、その婚約者であるサイモン・ドイル(アーミー・ハマー)と引き合わせると、リネットとサイモンは一目で惹かれ合ってしまい、ジャクリーンから離れるようにして結婚してしまいます。
やがてドイル夫妻はエジプトへ新婚旅行に出掛けますが、行く先々にジャクリーンが現れ、執拗に追いかけ回されることに苛立っていました。
その頃、名探偵であるエルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)もエジプトにやって来ていました。
ポアロはそこで盟友のブーク(トム・ベイトマン)と偶然再会し、彼の友人であるリネットの結婚式へ参加することに。
実は、ポアロはジャクリーンがリネットとサイモンを引き合わせた夜、そのクラブに居合わせており、彼らの三角関係の行く末を目撃することとなります。
ポアロはドイル夫妻に頼まれたこともあり、ジャクリーンを窘めようと試みますが、彼女は聞き入れないどころか、22口径の小さな拳銃をチラつかせました。
そこで、ポアロはドイル夫妻に新婚旅行を中止して屋敷へ帰るよう忠告しますが、彼らはジャクリーンから逃げるようにしてナイル川を遡る豪華客船・カルナック号に乗り込むことにします。
しかし、リネットは人々の目を盗んでポアロのもとへやって来ると、忠告通り屋敷に帰りたかったと零します。
彼女は巨額の富を手にしているために、周囲からの嫉妬や欲望の目に晒され、誰も信じられなくなっていたのです。
そんな折、ドイル夫妻の命を狙ったかのような事件が起き、さらにはジャクリーンが客船に乗り込んできました。
不穏な空気の中、ついに事件が起こります。
泥酔したジャクリーンをサイモンが挑発するかたちで口論になり、ジャクリーンがサイモンの脚を撃ってしまったのです。
そこへ居合わせたブークと、リネットの友人であるロザリー・オッタボーン(レティーシャ・ライト)は助けを求めて奔走します。
そして、呼び出された医師・ウィンドルシャム(ラッセル・ブランド)がサイモンを介抱し、看護師のミセス・バワーズ(ドーン・フレンチ)がヒステリーを起こしたジャクリーンを部屋に連れて行きました。
そんな騒動が起きた翌朝、リネットが寝ている間に頭を撃ち抜かれ、死んでいるのが発見されます。
凶器はジャクリーンが持っていた拳銃のようですが、その拳銃は彼女がサイモンを撃った後、どこかへ消えてしまいました。
さらに、ジャクリーンはバワーズの看病のもと、一晩中部屋にいたことがわかっています。
では、誰がリネットを殺したのか……容疑者は乗客全員でした。
リネットのいとこで財産管理人でもあるアンドリュー・カチャドリアン(アリ・ファザル)。
リネットと過去に何かあったらしいサロメ・オッタボーン(ソフィー・オコネドー)。
リネットに自身の結婚を破断にされたというメイドのルイーズ・ブールジェ(ローズ・レスリー)。
リネットの元婚約者であるウィンドルシャムに、リネットの父に何か恨みがありそうなバワーズ。
そして、リネットの名付け親で後見人でありながら、上流階級を嫌悪している共産主義者のマリー・ヴァン・スカイラー(ジェニファー・ソーンダース)。
そのほか、夫のサイモンや友人であるロザリーとブーク、ブークの母親で息子とリネットを引き合わせた張本人でもあるユーフェミア(アネット・ベニング)。
皆がリネットと知り合いで、何か秘密を持っているようでしたが、それぞれにアリバイがありました。
ポアロは一人一人と話をして犯人を見つけようとしますが、再び船内で事件が起こり……。
【ネタバレあり】映画『ナイル殺人事件』見どころ・感想
人は“愛”のためなら何でもする
ナイル川を遡る豪華客船・カルナック号を舞台に巻き起こる殺人事件と、その裏にある愛と欲望のドラマ……。
ケネス・ブラナー版『ナイル殺人事件』は、ミステリー作品というよりも人間ドラマに重きを置いた映画となりました。
ミステリーの女王であるアガサ・クリスティは、そう呼ばれるにふさわしい上質なミステリーをこの世にいくつも残しましたが、その一方で愛憎劇を描くのに長けていました。
知的でいて、事件を解決するためならば冷徹な名探偵、エルキュール・ポアロ。
彼の謎解きを軸に様々な人間たちの表情を描きましたが、これは原作でも、ブレナーにとっての前作『オリエント急行殺人事件』でも同様でした。
しかし、今作でのポアロはどこか人間臭く、知的で冷徹とはかけ離れていたように思います。
そのようにして、ブレナーはオリジナルの解釈でポアロの人間性に迫っていました。
舞台となる豪華客船に乗っているのは、略奪婚によって幸せな花嫁となった美しき大富豪・リネットと、その夫となったサイモン。
元婚約者だったサイモンを親友であるリネットに奪われ、ストーカーと化したジャクリーン。
リネットの元婚約者である医師・ウィンドルシャムに、リネットの莫大な財産管理を行っているいとこのアンドリュー。
さらに、リネットの名付け親で後見人のスカイラーと、彼女と同性愛の関係にあるお抱え看護師・バワーズ。
上流階級に強い憧れを持ち、リネットに婚約を破断させられたメイドのルイーズ。
そして、前作から引き続き登場したポアロの盟友・ブークが、過保護な母親・ユーフェミアとともに乗船。
リネットの友人であるロザリーと恋仲でありながら、彼女が異人種であることを理由にユーフェミアからは反対されています。
ロザリーの叔母でシンガーのサロメは、ブークやポアロに対して好意的ですが、リネットの亡き父親とは過去に一悶着あった様子。
皆にアリバイがあり、秘密がある中で、ポアロはいつものように全員を犯人と疑って対話していきます。
“愛”という大きなテーマを描くうえで、驚かされたのは冒頭のシーン。
白黒で第一次世界大戦時の映像が映し出されれば、スクリーンを間違えたかな? と観客に思わせるほどの作り込み。
そこでポアロが独特な口ヒゲを生やすようになるきっかけのエピソードが描かれ、前作でも少し触れられていた若き日のポアロの恋人・カトリーヌが登場します。
戦争で顔に大怪我を負ったポアロの、その痛々しく残る傷跡を受け入れた彼女は、口ヒゲを生やせばいいと励ましたのです。
ポアロにとっての愛のかたちは、そんな亡き恋人の存在でした。
こうして見ると乗船している全ての人物がそれぞれの愛のかたちを探し、自身の思う愛を信念に行動しているように思えてきます。
愛のために殺人を犯し、愛のために嘘をつき、愛のために結婚を反対し、愛のために身代わりになろうとする……。
「愛のために人は何でもする」という台詞が出てきますが、それは愛するためなのか、愛されるためなのか、どちらなのでしょうか。
真犯人を見つけるために、盟友・ブークのことさえ疑わないと気が済まないポアロは、その結果としてブークを失います。
ブークは重要な事実を隠し、ポアロに嘘をついていましたが、それはロザリーと結ばれて幸せになるためでした。
ポアロもそれをわかっていたので、ブークには真っ当に生きてほしかったのです。
遺体となったブークの前で、ロザリーはポアロを厳しく非難しますが、ポアロがブークの幸せを願っていたのと同じように、ブークもポアロの幸せを願っていたと話します。
ロザリーはポアロの人間性に否定的な上、ブークの死を避けられなかったポアロを恨んでいるかもしれません。
それでも、愛するブークが幸せを願うほど懇意にしていたポアロを、ただ見放すことは出来なかったのだと思います。
ポアロはラストシーンで、初めてサロメの歌を聴いたあのクラブを訪れますが、立派な口ヒゲを全て剃り落としており、素顔を晒したその顔では馴染みの店員にも気付かれません。
その夜もステージ上ではサロメが魅力的な声で歌を紡いでいましたが、彼女はポアロに気付いたでしょうか。
口ヒゲを無くしたのは、亡き恋人への愛を隠す必要がないと考えるようになったのか、亡き盟友への贖罪のために素顔を晒すようになったのか。
はたまた、どこか好意を寄せていたように思うサロメに、素顔の自分で会いに来たのか。
どちらにせよ、そこには世界一の名探偵ではなく、ただのエルキュール・ポアロという人間としての姿があったように思います。
しかし、真実はポアロのみぞ知るところです。
次回作への意思表示?
オリジナル要素や原作からの改変点が目立った今作。
ポアロが口ヒゲを生やすようになったエピソードをはじめ、時代背景はそのままに異人種間恋愛や同性愛について言及され、ところどころ現代風になっています。
原作でのサロメは白人の作家でしたが、黒人のブルースシンガーに変更されており、ポアロがその歌声に魅了されている設定辺りはかなり良いアレンジだと思いました。
他にも、スカイラーとバワーズが同性カップルであることをサラッと匂わせたり、ブークとロザリーが異人種間恋愛の果てに駆け落ちしようとしていたり。
彼らが自分たちらしい幸せを手にしようとしている姿を描いていました。
人は愛のためなら何でもする、というテーマのもと、それらが自然に描かれていたことが印象的でした。
そんな脚本や演出へのこだわりはもちろん、美しいエジプトの景色を映し出すドローン撮影やCGを使った映像にも力が入っていました。
ナイル川でワニや魚が捕食するシーンを挟み、大きなテーマである“愛”とは別の“欲望”を弱肉強食の自然界からも取り上げていたことも魅力的。
荘厳な音楽もエジプトの大自然と歴史を感じさせ、エンドロール中も良質なエンターテイメント作品を観たのだと感じさせてくれる良い時間になりました。
さらに、原作にてポアロが自身の優れた頭脳を指す時に言う「灰色の脳細胞」という台詞が前作に引き続き使われており、前作のラストシーンで『ナイル殺人事件』を匂わせていたことが思い出されます。
それならば、今作でも次回作について言及していたか? と問われれば、思い当たるのはポアロが引退後にかぼちゃの品種改良をしたいと語るシーンです。
クリスティによるポアロシリーズ第3作目にあたる『アクロイド殺し』という作品では、引退後のポアロがかぼちゃ作りをしている様子が窺えます。
そのため、次回作への意思表示とも思えるのですが、『アクロイド殺し』は所謂叙述トリックを用いた作品。
映像化するのは、なかなか難しいことでしょう。
しかし、ブラナーはクリスティ原作の映画作りに意欲的な様子を見せていますので、まだまだ続編が期待できるかも……。
ということで、次回作の製作に期待したいと思います。
映画『ナイル殺人事件』まとめ
・豪華絢爛なキャストに見惚れる
・映像美と音楽にも注目!
いかがだったでしょうか。
urara
是非、劇場でご覧ください。