『コンテイジョン』は2011年の映画です。
今さら9年前の映画を取り上げた理由ですが、賢明な皆様ならばもうお判りでしょう。
今、巷を騒がせている新型コロナウイルス (COVID-19)の感染拡大と大いに関係があるからです。
わが国でもついに緊急事態宣言(非常事態宣言)が布告され、いよいよ状況は深刻さを増してきました。
『コンテイジョン』の劇中で起きたことが現実とことごとく一致していることが話題になっています。
記事を書くために筆者も久しぶりに見直したのですが、あまりにもリアルすぎて少々寒気がしたことを告白しておきます。
そんな恐ろしい映画『コンテイジョン』とはどんな作品なのでしょうか。
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目次
『コンテイジョン』作品情報
作品名 | コンテイジョン |
公開日 | 2011年11月12日 |
上映時間 | 106分 |
監督 | スティーブン・ソダーバーグ |
脚本 | スコット・Z・バーンズ |
出演者 | マリオン・コティヤール マット・デイモン ローレンス・フィッシュバーン ジュード・ロウ グウィネス・パルトロー ケイト・ウィンスレット ブライアン・クランストン ジェニファー・イーリー サナ・レイサン ジョシー・ホー |
音楽 | クリフ・マルティネス |
『コンテイジョン』概要・あらすじ
『コンテイジョン』は「致死率25-30パーセントという凶悪な未知のウイルスのパンデミックが起きたらどうなるか?」をシュミレーションした映画です。
劇中のMEV-1ウイルスに対して現実世界のコロナウイルスの致死率は5パーセント程度と推定されており、毒性の強さにはだいぶ違いがありますが「接触感染または飛沫感染する」「病状の重さは感染者の健康状態や経済状態、その土地の水の衛生状態に左右される」など現実に起きているコロナウイルスと多くの点がよく似通っています。
あらすじ
香港での商用を済ませたベス・エムホフ(グウィネス・パルトロー)は元恋人と関係を持つためにシカゴに立ち寄ります。
その2日後、ミネアポリス郊外の自宅でベスがけいれんを起こし意識を失います。
ベスの夫ミッチ・エムホフ(マット・デイモン)は慌てて病院に運びますが、医師の治療も空しくベスは死因不明で亡くなります。
失意のミッチが自宅に戻ると留守を頼んでいたベビーシッターが狼狽しています。
養子のクラークがそっくりな症状ですでに息絶えていました。
ミッチは隔離されますが、検査の結果、未知の病気に免疫があることが判明し解放されます。
しかし、これは人類全体を巻き込む騒動の始まりに過ぎませんでした。
未知のウイルスによるパンデミックはその後、世界へと拡大していき…。
ニコ・トスカーニ
『コンテイジョン』とコロナウイルス騒動の共通点
都市でパンデミックが起きる
『コンテイジョン』のMEV-1ウイルスは香港を発生源にして拡大していきます。
2002年から2003年にかけてパンデミックが発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)が中国の広東省発祥で、広東省に隣接する香港で多くの感染者が出たことがまだ記憶に新しかったのでしょう。
香港は札幌市とほぼ同じ面積に700万人が生活する、世界最高クラスの人口密集地です。
患者ゼロ号がマカオのカジノに寄っていた描写がありますが、マカオは山手線内側の半分ほどという極小の面積に60万人以上が居住する香港以上の過密都市です。
ウイルスのパンデミックという現象には二つの要素が強く関わっていますが、その一つが「都市化」です。
パンデミックの歴史は意外と浅く、エジプトのミイラのあばたから推定して、天然痘の登場は紀元前1600年ごろ。
おたふくかぜは紀元前400年ごろ、ハンセン病は紀元前200年ごろです。
ニコ・トスカーニ
チャタル・ヒュユクの人口は最大で1万人程度だったと推測されていますが、その後、都市文明はさらに発展。
紀元前3000年ごろのウルク(現在のイラク)は人口4万人、紀元前1500年ごろのテーベ(現在のエジプト)は人口6万人に達していたと言われています。
21世紀初頭の現在、世界最大の都市圏は東京都市圏で人口は3,500万人を超えます。
人口が多いということは、それだけ一か所に集まる人の数が多くなるということです。
ニコ・トスカーニ
グローバル化でパンデミックが拡大する
『コンテイジョン』の中でマット・デイモン演じる患者ゼロ号の夫がケイト・ウィンスレット演じるCDC調査官エレン・ミアーズ医師からの聞き取りで「シカゴに行っていた」ことを殊更に強調していましたがシカゴは北米第三の大都市であることに加え、シカゴ・オヘア空港という北米最大級のハブ空港があります。
オヘア空港は2005年までは離着陸回数が世界一だったという、名実ともに世界最大級の空港です。
また、「複数都市のウイルス検体が一致した」と幾つかの都市の名前が挙がっていますが香港、ロンドン、東京、カイロなどの大都市に混ざってフランクフルトとアブダビいう微妙な規模の都市が出てきます。
フランクフルトは人口70万人程度の大都市ならぬせいぜい中都市ですが、この街の名前が挙がっているのがリアルです。
地方分権が好きなドイツは首都ベルリンに一極集中をさせておらずドイツ最大の空港はフランクフルトにあります。
しかもフランクフルトはドイツ経済の中心地であり、世界中からビジネスマンが集まる金融街で、ヨーロッパの交通の要所です。
アブダビも人口100万に満たない微妙な都会ですが、アラブ首長国連邦の首都であり、ドバイのせいでちょっと影が薄いですが南極大陸以外のすべての大陸に空路があるハブ空港があります
空港は多くの人が集まる場所であり、クラスター感染の危険度が非常に高い場所です。
加えて世界中に感染が拡大する要因になりうる重要な存在です。
ですので、シカゴ、フランクフルト、アブダビの名前が挙がるのは至極当然のことと言えます。
こうしたところから感染拡大が起きるのはグローバル化の副作用と言えるでしょう。
歴史を振り返ると、14世紀に起きたペスト(黒死病)の大流行が人類史上初の世界的パンデミックで、これはまさしくグローバル化の産物です。
ペストはそれ以前にも何度か流行した記録が残っていますが、いずれも一地域レベルのものでした。
アントニヌス帝時代(2世紀)にローマで発生した「アントニヌスのペスト」、ユスティニアヌス1世の時代(6世紀)に東ローマで発生した「ユスティニアヌスのペスト」は古代におけるパンデミックの代表例として知られています。
参考までに言うと、2世紀のローマは人口100万人(150万人とも)言われており、パンデミックの条件である「都市化」の要素が実現していました。
14世紀になるとユーラシア大陸の東西を結ぶ陸路貿易が確立されます。
ニコ・トスカーニ
これにより中国から西ヨーロッパまでが繋がることとなりました。
14世紀のペストは中国が発生源と言われていますが、中国を出発したペストはノミを媒介とし、ノミがついた毛皮が中央アジアを通ってヨーロッパへと到達。
東中西アジアからヨーロッパまで跨る世界規模のパンデミックにして、歴史上最悪のパンデミックが発生しました。
ニコ・トスカーニ
空路と陸路の違いはあれど世界的パンデミックが起こる仕組みは中世も現代も同じと言えます。
今、感染者が出るたびに感染者がどこに行って誰と接触したかを当局が血眼になって調査しますが、それだけグローバル化は感染を広める要因になっているということです。
仮設の病院ができる
『コンテイジョン』劇中でアリーナに医療テントを建てて仮設の病院を作るという描写がありました。
感染者増加中のニューヨークではセントラルパークに医療テントが建てられています。
日本でも緊急事態宣言が出たことで、各都道府県が所有者の許可なく土地・建物を活用できるようになりました。
ニコ・トスカーニ
医療関係者が感染する
劇中で調査に奔走していたミアーズ医師ですが、奮闘のさなか自らが罹患してしまいます。
病状は重症化し、無念にも力尽きます。
これが劇中の中盤当たりで、ここに来て観客は事態の深刻さを改めて印象付けられます。
医療関係者は治療の最前線にいるわけですから、当然、二次感染のリスクにさらされます。
黄熱病の研究中に自らが罹患し、無念の最後を遂げた野口英世(1876-1928)など特に有名な例でしょうか。
現実でも『コンテイジョン』の医療監修を担当したイアン・リプキン医師が新型コロナウイルスに感染したとの報が入ってきています。
ニコ・トスカーニ
買占めが起きる
ボトルウォーター、缶詰、クラッカーなどの保存食。
電池、懐中電灯など非常用品の買い占めが起きる描写があります。
『コンテイジョン』ではスーパーの棚が空になり、終いには暴動まで起きていました。
現実でも買い占めは起きており、スーパーの棚がやや寂しくなっています。
死者数が特に多いイタリアでは、パスタが品薄というニュースが入ってきています。
Northern Italy residents cleared the shelves at a supermarket amid the coronavirus outbreak. https://t.co/xMp8tL2r9c pic.twitter.com/l8LYD63BKy
— USA TODAY (@USATODAY) February 24, 2020
普段マスクをしない人がマスクをするようになる
普段からマスクをする習慣があるのは日本、韓国、中国、台湾ぐらいで、欧米人は体調が悪くてもマスクはしません。
ニコ・トスカーニ
ですが、劇中でも中盤を過ぎたあたりからマスクをしている人の割合が明らかに増えています。
これまで欧米では、マスクは医療従事者や病人といった特殊な属性の人だけに必要なものとみなされていた。眉をひそめられる恐れがあったマスクの着用によって、新型コロナウイルスから身を守れることが理解されてきている。 pic.twitter.com/qG45tUbcSH
— China Xinhua News (@XHJapanese) April 7, 2020
ニコ・トスカーニ
今は、ニュース映像を見ると国に関係なく皆、マスクをしています。
現状がそれほどの異常事態ということですね。
デマが広がる
現実では「コロナウイルスは熱に弱いからお湯を飲むといい」というデマが拡散しました。
『コンテイジョン』では「レンギョウ由来のホメオパシー療法が効く」というデマが拡散します。
デマは何であれ悪質ですが、このデマは極めて悪質です。
ニコ・トスカーニ
ホメオパシーは18世紀末のドイツを発祥とする代替医療の一種で、「特定の病気を起こす物質をその病気の治療に使う」「毒を以て毒を制する」理論に基づくものです。
突き詰めるとワクチンもその理屈に基づいているので、大きな間違いな無いように見えますがホメオパシー療法の理屈はこの先がトンデモです。
ホメオパシーのレメディ(薬)は原因物質を蒸留水で極限まで希釈したものです。
なぜかと言うと、有効成分は薄めれば薄めるほど効果が高いと信じられているからです。
レメディ濃度はCで表され、1Cは100倍希釈を意味します。
一般的なレメディは30Cで、これは「100倍希釈を30回繰り返したもの」を意味します。
ニコ・トスカーニ
ホメオパシーの信奉者は「レメディは有効成分の記憶を持っている」というトンデモ説を唱えていますが、レメディがただの水であることは常識的に考えて明らかでしょう。
ホメオパシーは医学的にまったく出鱈目であることが証明されていますが、今もって効果があると信じている人が一定数存在し、代替医療の代表格として存在感を発揮しています。
インチキ超能力者を山ほど告発してきたマジシャンのジェームズ・ランディは講演会でホメオパシーの睡眠薬レメディを致死量まで飲むというパフォーマンスを幾度となく披露していますが、ランディは90歳を過ぎた今もピンピンしています。
ホメオパシーのレメディを飲んでも害はありませんが、薬効もありません。
ニコ・トスカーニ
ロックダウンが起きる
『コンテイジョン』ではまず学級封鎖が起きます。
続いて外出ができなくなり、町中が空っぽに。
ミッチは娘をつれてミネソタ州から隣のウィスコンシン州へ移動しようとしますが州境が閉鎖され移動できなくなります。
現実でもコロナウイルス感染の中心地である中国・武漢はいち早く封鎖されました。
感染が拡大するヨーロッパでもイタリアがロックダウンし、スペインも先日全土でロックダウンが発表されました。
東京も近くロックダウンになるのではないかという噂が出ています。
ニコ・トスカーニ
ウイルスが変異する
『コンテイジョン』ではワクチン開発に励むCDCの研究者たちが「ウイルスが変異した」という恐ろしい事実を述べます。
ニコ・トスカーニ
人は一度かかった病気には免疫ができ、その病気には二度とかからなくなるのは家庭の医学レベルの話ですが、病原菌には人間の抗体が認識する「抗原」と呼ばれる部分を変異させ、人間の免疫システムを騙す種類のものがあります。
ウイルスとして特に身近なのはインフルエンザウイルスですが、インフルエンザが毎年のように流行するのはインフルエンザウイルスが変位するからです。
新型コロナウイルス(COVID-19)に「新型」とついているのは、従来のコロナウイルスが変異した新しい型のウイルスであることを意味しています。
終息する
劇中で最初の感染から130日ほど経過してワクチン開発の目途が立ち、ようやく人類は秩序を取り戻し始めます。
凄く時間がかかっているように見えますが、開発から治験、認可、生産体制の確立という過程を経なければならないため新薬の開発には一般的に数年がかかると言われています。
ニコ・トスカーニ
そう考えると『コンテイジョン』のワクチンは相当なスピードで出来上がっていると言えますね。
ウイルスを保存する
『コンテイジョン』の終盤で豚インフルエンザ、SARSと並んで終息したMEV-1を冷凍保存する描写がありました。
なぜ、そんな危険なものを保存するかというと研究のために必要だからです。
複数回にわたり猛威を奮った天然痘は20世紀になって根絶されましたが、天然痘ウイルスはアメリカとロシアの研究機関で厳重に保管されています。
感染源が家畜
映画は人類がある程度の秩序を取り戻した様子を描いた後、ラストシーンとしてウイルス感染1日目を描写します。
劇中でブルドーザーが木をなぎ倒し、コウモリが飛んで逃げて行く。
1匹が豚小屋に飛び込み、バナナのかけらを落とし、そのバナナをブタが食べる。
ブタが屠殺されて、それを調理したコックがカジノでベスと握手をして、ウイルスが彼女に感染すると描写されています。
ニコ・トスカーニ
家畜は人類の進歩に大いに役立ってきましたが、その一方で人類の脅威にもなってきました。
ペットや家畜などの動物から人間に感染する病気は数多ありますが、その中には天然痘、インフルエンザ、結核、マラリア、ペスト、麻疹、コレラなど深刻な症状を引き起こすものも含まれます。
これらはもともと、動物がかかるものでしたが、今では人間だけに感染し動物は感染しないようになっています。
近年でも2002年から2003年に流行したSARSは食用コウモリが感染源と推測されていますし、2009年に流行した豚インフルエンザは文字通り豚が感染源と推定されています。
ニコ・トスカーニ
パンデミックの歴史:人類は感染病・ウイルスにどう対処してきたか?
『コンテイジョン』は映画の一要素としてWHOとCDCの職員が、感染症対策に翻弄する姿が描かれています。
もはや映画とは直接関係の無い話ですが、映画の中で起きた出来事の答え合わせをするだけだと救いが無いので、人類がどのようにパンデミックに対処してきたのか歴史を紐解いておきたいと思います。
医学の父ヒポクラテス
原初の医学は≒迷信でした。
古代ギリシャにおいて病気は「神様からの罰」と解釈されており、医者の仕事は患者から見た夢の内容を聞き、その解釈を伝えることでした。
しかし、医学を迷信から科学へと進歩させたのもまた古代ギリシャ人でした。
医学の父と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460年ごろ-紀元前370年ごろ)は、古代世界において医学を劇的に進歩させた人物です。
ヒポクラテスはスピリチュアリズムに頼ることなく、患者の症状を観察し、臨床と観察を重んじる経験科学へと発展させた偉人です。
ヒポクラテスは鍛冶屋が病気に罹りにくいことことから、体を温めることが予防に繋がると考え入浴を推奨しました。
野菜や果物を食べたほうが健康にいいことを発見し、水や空気や土壌が綺麗な地域では感染症が少ないことに気付き、体を清潔にし、街路を綺麗にすることを提唱しました。
ニコ・トスカーニ
ヒポクラテスの処置は一定の効果を発揮し、ペストの流行を食い止めた記録も残っています。
こうして科学としての西洋医学の歴史が始まります。
ヤブ医者だらけの中世
古代ギリシャ以降もヨーロッパは度々パンデミックに襲われることになります。
特に前述した14世紀のペスト(黒死病)のパンデミックは史上最悪と言われており、死者数は全世界で2億人。
ヨーロッパだけでも全人口の4分の1~3分の1にあたる2500万人が死亡したと推定されています。
中世ドイツの伝承であるハーメルンの笛吹き男も、ペストのパンデミックで多くの子供たちが亡くなった事件が伝説化したものだという説があります。
この暗黒時代に、ペストに対処するための専門の医師、「ペスト医師」が誕生します。
ペスト医師は医者であると同時に公僕でもあり、患者であれば貧富の差なく治療を施し、感染者の記録を残しました。
さて、立派な公僕である彼らが行った治療法はというと…主に瀉血でした。
ニコ・トスカーニ
なぜ血を抜くかと言うと、病気は四つの体液のバランスが崩れるというによって起きるという、いわゆる四体液説が信じられていたから。
血を抜く=汚れた体液を体の外に出すことで四体液のバランスを戻せると考えたわけです。
この理論の基礎となったヒポクラテスは偉人でした。
理論を発展させて四体液説を唱えたローマのガレノス(129年頃-199)も解剖学を進歩させた偉人です。
ですが、彼らの理論には致命的に誤っているものも少なからずありました。
四体液説は現代人の我々からすると、思わず二度見するぐらいのレベルで絶望的に誤った理論です。
ニコ・トスカーニ
彼らには治療の効果を測定する…現代で言うところの臨床試験の発想が無く、出鱈目な仮説に立脚した治療を行い、それが間違っているかもしれないと疑う考えがありませんでした。
治療法の効果を測定して、効果が見られないなら治療を止める、または治療法を変えるという至極当然の発想がないので、誤った治療法に歯止めがかかることもなし。
おまけにギリシャ伝来の医療は重宝されたため、ヒポクラテスが間違っているという発想もなかったのです。
ニコ・トスカーニ
瀉血は根底となる四体液説が致命的に間違っているので、効果などあるはずもありません。
しかも瀉血が主要な治療法である時代は中世が終わって近世まで続きます。
アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントン(1732-1799)が風邪をこじらせて亡くなったのは有名な話ですが、ワシントンを診察した医師たちが選択した治療法は瀉血でした。
当時アメリカ医学会最高の権威だったベンジャミン・ラッシュ(1745-1813)も瀉血の効果を疑わなかった1人で、これらの事実からも当時の医療レベルが伺えます。
ニコ・トスカーニ
人類は有効な手を打てず、14世紀のペストのパンデミックは1347年〜1351年にかけて甚大な被害を出し、ペストは以降も断続的にヨーロッパを脅かすことになります。
北里柴三郎(1853-1931)がペスト菌を発見するのはそれから500年以上後のことです。
ニコ・トスカーニ
12世紀、アラビアに由来する蒸留技術でワインを蒸留した「燃える水」をイタリアの錬金術師が生み出します。
「燃える水」の蒸留技術はスペイン、フランスにも渡り「命の水」と命名されました。
ニコ・トスカーニ
なぜ蒸留酒が「命の水」などという大層な名前を戴いていたと言うと、ワインには万病をいやす作用があると中世ヨーロッパ人が信じていたから。
なのでアルコール濃度を蒸留で濃くすれば薬効も高まると思ったわけです。
ニコ・トスカーニ
また、ペストは別名黒死病とよばれていました。
罹患すると内出血が起きて皮膚が黒ずむためです。
そこで「黒いもの食べれば治るんじゃね?」という天然ボケ発想で中世のヴェネチアではイカスミ料理が好んで食べられていました。
イカスミはアミノ酸が豊富に含まれており、旨味の塊のような食材で結果的に彼らは価値のある食材を開拓したことになります。
医学革命が起きた19世紀
ニコ・トスカーニ
大航海時代以降、船乗りたちは壊血病という厄介な問題に悩まされていました。
何百年も続いた問題の解決法が18世紀になってようやく提示されます。
1747年、ジェ-ムズ・リンド(1716-1794)というスコットランド人の医師が、壊血病に罹った水兵を6つのグループに分け、それぞれに全く異なる治療法を施すという実験を行います。
リンドは壊血病の原因が「ビタミンCの欠乏」であることなど知らなかったので、治療法は完全にあてずっぽうでしたが、レモンとオレンジを与えたグループが劇的な回復を見せました。
リンドの実験は一度忘れられましたが、1780年になってギルバート・ブレーン(1749-1834)という著名な医師の目に留まり、ここにようやく壊血病の治療法が確立されます。
ニコ・トスカーニ
そこから少し時は下り、1809年、アレキサンダー・ハミルトンというスコットランド人の医師が、患者を1つのグループに分け、グループの1つには瀉血、他の2つには全く異なる治療法を施す比較対象実験を行います。
結果、瀉血を施されてしまったグループは他のグループの10倍以上の死者が出ました。
ハミルトンの実験結果は発表されず100年以上日の目を見ませんでしたが、その後フランス人医師のピエール=シャルル・ルイ(1787-1872)ら先駆者の活躍により、19世紀にもなってようやく瀉血の効果は否定されます。
ニコ・トスカーニ
衛生状態と病気の関係です。
当時、不衛生が病気の原因になるという発想がありませんでした。
中世ヨーロッパ人はたまにしか入浴しなかったし、排泄物はその辺に投げ捨てていました。
ニコ・トスカーニ
その常識を覆したのがフローレンス・ナイチンゲール(1820-1910)。
彼女は看護師の地位を向上させた人物ですが、功績はそれだけにとどまらず医学そのものの進歩にも多大な貢献をした本物の偉人です。
ナイチンゲールは不衛生が病気の原因になるという仮説を立て、赴任先となったトルコのスクタリ病院でそれを実践しました。
院内を清掃し、清潔なシーツを使い、まともな食事を出し、定期的に換気をする。
ニコ・トスカーニ
彼女の努力は実を結び、赴任から1年もしないうちに、患者の死亡率が40パーセント以上低下するという劇的な結果を残しました。
ナイチンゲールは統計学を使ってその結果を可視化し、彼女の方法論はやがて有効な方法として一般的にも認められるようになります。
ニコ・トスカーニ
『コンテイジョン』でもローレンス・フィッシュバーン演じるエリス・チーヴァー医師が「こまめに手を洗ってください」とメディアに出演して訴えていましたが、チーヴァ―医師もまたナイチンゲール女史の功績を受けついているわけですね。
ようやくパンデミック対策にも合理的な手法が用いられるようになります。
先駆者たち同じように合理的な発想でコレラのパンデミックと戦ったのがイギリス人医師のジョン・スノウ(1813-1858)です。
19世紀のイギリスは度々コレラのパンデミックに見舞われていました。
最初は1831年、二度目は1849年で一度目は2万3000人、二度目は5万3000人の犠牲者が出ました。
スノウは瘴気(未知の毒ガスが空気中に広がる現象。これもヒポクラテス由来)がコレラの原因であるという当時一般的だった説に疑いを持っていました。
ニコ・トスカーニ
麻酔の先駆者だったスノウは毒ガスならばどんな影響が出るか知っていました。
コレラの原因が毒ガスなら地域住民全般に影響が出るはずですが、コレラは感染者を選んでいるように見えました。
ニコ・トスカーニ
そして、1854年のパンデミックの時、「ロンドンの特定エリアで感染者が爆発的に増加しているという」彼の仮設を裏付けるような情報が情報がもたらされました。
スノウは、その地区の井戸が汚染されていることを疑い始めます。
彼は死人が出た場所を地図で一つ一つマーキングしていくことにしました。
結果、疑惑の井戸を取り囲むように病気が発生していることに気付きます。
さらに調査を進めると、その井戸水を使っていたコーヒーショップの客がコレラに感染し、自前の井戸を使っていた近くの救貧院と、自前の製品を飲んでいた近くのビール工場では感染者無し。
離れたエリアに住んでいたにも関わらず感染した女性は、もともと疑惑の井戸の近くに住んでいたことが判明しました。
スノウは疑惑の井戸からポンプのハンドルを外すことを管理局に要請、ほどなくしてコレラの流行は収まりました。
ニコ・トスカーニ
続いてロベルト・コッホ(1843-1910)とルイ・パスツール(1822-1895)によって細菌学の基礎が築かれ、ドミトリー・イワノフスキー(1864-1920)によってウイルスが発見されます。
19世紀、人類は病原菌と戦う武器をようやく手に入れたのでした。
『コンテイジョン』と感染病・パンデミックの歴史まとめ:いつかは終息すると信じて
2011年に公開された映画『コンテイジョン』。
日本ではまったくヒットしなかった。
当時の日本人は、パンデミックの恐怖にリアリティを持てなかったのだろう。
だが今観直すと、この映画はまるで予言のようなリアルさがある。
(松谷創一郎 @TRiCKPuSH)https://t.co/oVaXlk1ZGF
— ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア / 世界各国に広がるニュースサイト (@HuffPostJapan) April 3, 2020
『コンテイジョン』では130日以上経ってようやく人類は秩序を取り戻しますが、14世紀に伝搬したペストが以降、何十年にも渡ってヨーロッパで断続的に猛威を振るったのに比べれば比較にならないほど大きな進歩です。
コロナウイルスの死亡者は増加の一途を辿っています。
ニコ・トスカーニ
犠牲者を数だけで見るのは良くないですが、それでも14世紀の世界的パンデミックに比べれば遥かに少ない数値です。
700年近い間に世界の人口は爆発的に増えていますので、人口比も考慮に入れると劇的な改善と言っていいでしょう。
ニコ・トスカーニ