『アレックス』『エンター・ザ・ボイド』など独特すぎる映像感覚と見る者の倫理観を揺さぶる過激な作品で知られるフランスの鬼才ギャスパー・ノエの最新作!
雪山でダンス合宿をしていたダンサーたち。ひとしきり踊った後の打ち上げの飲み会で、誰かがサングリアに幻覚剤LSDを入れていたためにとんでもない惨劇が巻き起こってしまう…。
- 終始見ている人間をトリップさせようとしてくる映像と編集リズム
- 主人公以外のキャストは全員ダンサー!圧巻のダンスシーンに酔いしれる
- 超現実的カメラワークの長回しでとらえられる阿鼻叫喚の乱痴気騒ぎと地獄絵図!
それではさっそく映画『CLIMAX クライマックス』をレビューしたいと思います。
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目次
『CLIMAX クライマックス』作品情報
作品名 | CLIMAX クライマックス |
公開日 | 2019年11月1日 |
上映時間 | 97分 |
監督 | ギャスパー・ノエ |
脚本 | ギャスパー・ノエ |
出演者 | ソフィア・ブテラ キディ・スマイル ローマン・ギレルミック ソウヘイラ・ヤケブ クロード・ガジャン・マウル ジゼル・パーマー テイラー・カッスル テア・カーラ・ショット |
音楽 | フレッド・カンビエ |
『CLIMAX クライマックス』あらすじ
1996年のある日、著名な振付師によって、人里離れた建物に22人のダンサーが集められる。
建物には電話がなく、携帯電話の電波も届かず、外は雪で覆われていた。
最終リハーサルを終えたダンサーたちは、パーティーを開いて大量のサングリアを浴びるように飲む。
しかし、何者かがサングリアにドラッグを入れたため、ダンサーたちは次々とわれを忘れた状態になる。
出典:シネマトゥデイ
『CLIMAX クライマックス』感想レビュー【ネタバレなし】
意図的にトリップする演出
まず冒頭、雪景色の中を血塗れで進む人物が映されます。
極彩色、というか真っ赤な映画全体のイメージと反して目に優しい雪景色。
しかし、そこで雪景色の上にエンドクレジット流れ出し、いきなり映画が終わりそうになります。
ビックリしましたが、これは『アレックス』などでギャスパー・ノエがやった映画のシーンを逆にさかのぼっていくという掟破りな手法の踏襲のようです。
と思いきや、エンドロールが途中で突然途絶え、今度は古いTVに22人のダンサーたちのインタビュー動画が流されている様子が映ります。
彼らが『CLIMAX クライマックス』の主人公です。
このシーンは画面真ん中にTVがあって、左右の端にいろんな映画のVHSが積まれています。
シライシ
同じように、そこに積まれている映画は『CLIMAX クライマックス』の元ネタになった映画のようです。
『サスペリア』『イレイザーヘッド』に『アンダルシアの犬』『サンゲリア(ゾンビ)』『ポゼッション』に『ファスビンダーのケレル』『ソドムの市』そして、日本映画の名作『切腹』まであります。
おそらく、ノエ監督の趣味でしょう。というか影響を受けた映画ですかね。
シライシ
特に『サスペリア』は『CLIMAX クライマックス』と同じく毒々しい赤の色調が特徴で、分かりやすい元ネタの一つです。
そして、画面では延々とダンサーたちがなぜ踊るのか?なぜ今回の舞台に挑戦するのか?
その他、生い立ちや考え方など様々なことを語っていきます。
このインタビューシーンがやたら長いのです。
ここで登場人物たちの人となりを説明しているのですが、それにしても単調ですし、有名な人がいないので誰が誰だかごっちゃになっていきます。
しかし、見終わってみると、このインタビューぶっ続けシークエンスは、観客をループ感に慣れさせてその後のぶっ飛びトリップ映像に引き込むための導入にもなっていたのではないかと思います。
そして、ここで語られることもちゃんと後の伏線になっている部分もあるので、聞き流すのはおすすめしません。
こんな感じで普通の映画文法とは違う部分がかなり多く、見ていてくらくらしてくるのが『CLIMAX クライマックス』です。
ダンスシーンのかっこよさと錯綜するそれぞれの想いのしょうもなさ
そして長~い全員のインタビューが終わると、いきなり今度は5分超にわたるプロダンサーたちの超かっこいいダンスシークエンスが展開されます。
BGMのセローンの「Supernature」という曲も最高にかっこいい上に、ソフィア・ブテラ以外のキャストは全員本職のダンサーなので動きのキレや全身の可動域がもう人間を超えたレベルに見えてきます。
シライシ
こちらの映像は、もうYouTubeで公開されているのでご覧になっていただいたほうが分かりやすいかもしれません。
どうですかこれ?もはや人間業ではありません。
このダンスシーンで一気に引き込まれ、彼らの実力が否応なしにわかります。
そして映画を見終わってもう一度見ると「こんな才能がある奴らだったのに…」と悲しくなってしまいます。
この縦横無尽なカメラワークも劇中を通して繰り返されます。
しかし、このダンスシーンが終わってもなかなか惨劇には移りません。
宣伝でもさんざん言われているLSD入りのサングリアはダンスが終わるとすぐに出てきます。
みんながさぁ打ち上げだ!となって、そこからカメラが移動するとテーブルが準備されているのですが、そこにサングリアが波波入れられたボウルがあり、期待値が高まります。
しかも、演出家の女性がその場に自分の幼い子供を連れてきているのが分かり、見ている方としては「うわ、子供いるけどまさか…」と不安になってしまいます。
ちなみにこのダンスリハーサルは、なぜか猛吹雪の雪山にある廃墟で行われているという設定でそこも嫌な予感がします。
みんな開放感でサングリアもグビグビ飲んでいき、子供も間違えて飲んでしまい、もう準備完了!なのですが、そこからまた十数分に渡って長~いことみんなが各グループに分かれて「あいつに口説かれた」だの「あいつとヤリたい」だの、兄妹がいて「お兄ちゃんはあんな男許さないぞ!」的な会話をしているのが交互に映されます。
ここも正直まだ誰が誰だかわかっていないので、またループ感によるくらくらが生まれてきます(笑)
しかし、ここにもいろいろ伏線が張られているのです。
シライシ
そして淡々と会話しているように見えて、みんながLSDサングリアの影響で徐々にハイになってきているのがわかります。
ちなみにLSDとはどんな薬物かを説明すると、リゼルグ酸ジエチルアミドの略称で、一応は向精神薬の一種です。
しかし、あまりに作用が強力なため、ごく少量で幻覚を見るなどのサイケデリック状態に陥ってしまうという危険な薬物なのです。
そして持続効果は少なく、体内に摂取されてから10分で最高濃度に達し、しばらくすると排泄や分解作用で治ってしまうそうです。
効能も人によって違い、ある人は恍惚を覚えたり、また反対に恐怖を感じたり、単に不快になるだけの人もいます。
シライシ
話を戻して、グダグダな会話シーンが終わると、そこから今度はダンサーたちがノリノリになって輪を作り、一人一人順番に中心で踊り狂うのを真上から長回しで撮った異様なカットがはじまります。
先ほどのダンス以上にキレキレな動き、かつ普段見ないような真上アングルによって目がおかしくなってきそうです。
そして、そこで映画がはじまって半分くらいなのですが、いきなりキャストとスタッフのクレジットが画面に出てくるのです。
ダンサーの動きのテンションに合わせて短く、そして極彩色にチカチカ変色しながら文字がぼんぼんぶつ切りに出てききます。
シライシ
な、なんだこの映画!?と思っていると、そこからついに『CLIMAX クライマックス』というタイトルにふさわしいバッドトリップ地獄絵図が始まるのです。
長回しによる凄すぎる地獄絵図
LSDで完全におかしくなった22人は、まず無茶苦茶に踊り狂い、そして異常に熱がり出します。
そして症状の軽いメンバーが、みんながおかしくなっていることを指摘、サングリアに何かが入っていたということに気づいて、今度は誰が犯人なのかと疑心暗鬼の探り合いが始まります。
そして、とある人物が「あいつだけ飲んでいないぞ!」と疑いをかけられて、とある非情な目にあわされたり、疑いをかけられた女性キャラがヤケクソで自傷行為に走ったりとどんどん酷い事態に。
おまけに演出家の母親は幼い息子を「ここは危険だから」とみんながいるホールから遠ざけて、事態が収束するまで隠れているようにとある狭い部屋に入れてしまうのですが、それが最悪の結末を迎えてしまうのです。
各キャラはホールで揉めたり、自分の部屋に戻ってまたとんでもないことをしたりと各所で惨事が起きます。
ソフィア・ブテラ演じる主人公のセルヴァは、ラリった状態になりながらも心配して、みんなのところを回っていくのですが、何にもできず事態を悪化させるだけ。
この一連のシーンを登場人物たちよりも少し高い目線で、ずっと長回しで撮っているカメラワークがとにかく凄いです。
LSDの症状が酷くなるにつれて、カメラもグラグラ揺れたり、上下が反転したりと、どんどんトリップしていきます。
しかし、カメラはあくまでもLSDでラリッている登場人物たちだけを映していて、彼らがどんな幻影を見ているのかというような内面に迫った描写は一切ありません。
シライシ
そして場所が変わると同時に、画面の照明が赤になったり緑になったり青になったりと色調もサイケデリックで恐ろしいですし、音響も外の吹雪の轟音、ダンスホールのミュージック、みんなの怒声、悲鳴、暴れる音、泣き叫ぶ子供の声が混然一体になって襲い掛かってきます。
とにかく地獄絵図を作り出すことに余念がない映画なので、ぜひとも劇場で見ていただきたいです。
終盤になると、もうヤケクソになって地面で這いつくばりながら踊っているダンサーたちに合わせてカメラワークもめちゃくちゃになり、もはや何が起こっているのかわからなくなります。
細かい部分は見て確認してください。
しかし『CLIMAX クライマックス』が真に残酷なのは、明け方LSDの効果が切れて、みんなが倒れ込み、何人かは帰らぬ人になっているのを救助隊が発見する場面があるところです。
祭りの後の取り返しのつかなさをこれでもかと見せつけてきます。
シライシ
とにかく人を不快にさせようとしている映画で、いつものギャスパー・ノエ節全開ではあるのですが、実は直接的な残酷描写はほぼない上に、密室で惨劇が起きるホラーとしての一直線に進むプロットはしっかりあるので、彼の映画の中では一番見やすいのでないかと思います。
『CLIMAX クライマックス』まとめ
不快指数未知公開中『CLIMAX #クライマックス』
本作唯一の著名女優 #ソフィアブテラ 推しの方々が散見されますので、ブテラ三昧といきましょう。艶やかでキレッキレでセクシーでぶっ壊れるソフィアちゃんが観られるのは、『#CLIMAX』だけっ❤️#ギャスパーノエ#ウェイウェイしよ#世界的ダンサー pic.twitter.com/r4yeifEHuX
— 映画『CLIMAX クライマックス』 2019年11月1日公開 (@climax_2019) November 7, 2019
以上、ここまで映画『CLIMAX クライマックス』について紹介させていただきました。
何度も見たくなる中毒性のある映画です!
- 観客をバッドトリップさせるために余念なく組み立てられた異様な映画
- ダンスと長回しと色彩がとにかく凄い
- これでもギャスパー・ノエ作品の中では描写控えめで、分かりやすく、見やすい方の作品です
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