同じ「7月26日」という日を、順番にさかのぼる物語です。私たちは切ないとわかっていながら、二人の「別れ」から「出会い」までの6年間を見守っていきます。
・主演の二人は意外にも初共演
・何も起きない日も描いている
それでは『ちょっと思い出しただけ』をネタバレなし・ありでレビューします。
目次
『ちょっと思い出しただけ』あらすじ【ネタバレなし】
2021年7月26日、ステージ照明の仕事をしている佐伯照生(池松壮亮)は34回目の誕生日を迎えます。
この日も変わらず、いつもの道を通って仕事場へ。
一方、タクシー運転手をしている野原葉(伊藤沙莉)はミュージシャンの男(尾崎世界観)を乗せて夜の街を走っています。
途中でトイレに行きたいという男を降ろして、葉もタクシーの外へ。
どこからか聞こえてくる音に吸い込まれるように歩いていくと、視線の先にはステージで踊る照生の姿がありました。
『ちょっと思い出しただけ』ができるまで【ネタバレあり】
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』
『ちょっと思い出しただけ』には、映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』(ジム・ジャームッシュ監督)を感じる部分がたくさん出てきます。
前もって観ておくと、3割増しで世界観を楽しめると思います。5つの都市で、同時刻に走るタクシー。運転手と乗客の物語をオムニバスで描いた、1991年の作品です。
タクシーの外に足が残っている状態でドアを閉めようとしたり、乗客の話に腹が立って急ブレーキをかけたり、酔って騒ぐ乗客たちに声を荒げたり。
同じ場面が出てくるたびに、「これはヘルシンキ編だ」などと思い出しながら観ていました。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』本編の映像も、少しだけ流れます。照生と葉が誕生日ケーキを食べながら観ているのは、ロサンゼルス編です。
5つの都市のなかで、最初のロサンゼルス編だけでも観ておくといいかもしれません。伊藤沙莉がウィノナ・ライダーに、高岡早紀がジーナ・ローランズに見えてきます。
主題歌『ナイトオンザプラネット』
クリープハイプの尾崎世界観が、映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』をもとに書き上げた新曲です。ミュージックビデオの監督は、松居大悟が担当。映画と同じく、伊藤沙莉がタクシードライバー役で出演しています。
松居大悟監督は、尾崎世界観から送られてきた『ナイトオンザプラネット』の原曲を聴いたときに「これは長編映画にできるぞ」と思ったそうです。そして、この曲が最後に流れる映画の台本を考え始めたと語っています。
お笑いコンビ・アンタッチャブルのネタ作りのエピソードを、ふと思い出しました。柴田英嗣がツッコミを先に考えて、山崎弘也がそれに合わせてボケとネタの構成を考えていくスタイル。
最後を先に決めたからといって面白いものができるとは限りませんが、とても興味深いです。
『ちょっと思い出しただけ』を楽しむ【ネタバレあり】
チラシビジュアル 8種類
ひとつの作品に対して、チラシが8種類もあるなんて驚きです。そして、『ちょっと思い出しただけ』と劇場公開日が近い『誰かの花』(奥田裕介監督)のチラシも同じく8種類。競っているのでしょうか、ただの偶然でしょうか。
8種類も作るなら、照生と葉だけではなく他の登場人物のチラシもほしかったです。LINEを交換している葉と康太(屋敷裕政)や、照生の誕生日ケーキを用意しているマスターの中井戸(國村隼)。理容師役・篠原篤のチラシがあったなら、私は必ず手に入れると思います。
劇場オリジナルドリンク
せっかくなので、劇場オリジナルドリンク「照生と葉の思い出ソーダ」を飲みながら作品を楽しみました。
味はもちろん “甘酸っぱい” の一言で終わるのですが、ひとつ驚きの発見がありました。
ドリンクの一番上にあったチョコソースが、100分くらいかけてカップの底に到達。
照生が「伝えたら、壊れちゃうんじゃないかと思って」と言っている物語の後半、私の口の中にチョコソースが入ってきました。
照生と葉が初めてキスをする幸せのシーンで、私もしっかり甘さを感じていたわけです。よく混ぜないで飲んだという、ただそれだけの話なんですけどね。
劇中使用アイテム
シネ・リーブル池袋では、パンフレットやTシャツ販売の他に “劇中で使用したアイテム” が展示してありました。『ちょっと思い出しただけ』には欠かすことのできない、部屋の壁にかかっていた時計。あとは、照生の誕生日に葉がプレゼントしたバレッタです。
他の映画館にも展示物があるのではと思い、調べてみました。
●ジュン(永瀬正敏)が座っていたベンチ
●葉が着用していたタクシー会社の制服
●花火シーンで着用していた照生・葉の衣装
黄色いベンチは、なんと実際に座って記念撮影OK。私はベンチよりも、照生と葉が『ナイト・オン・ザ・プラネット』を観ているときに使っていたソファーに座ってみたいです。
動画配信サービスを利用して自宅でゆっくり映画を観るのも好きですが、映画館で実際に使われた衣装や小道具を見て余韻に浸るのもいいですよね。
『ちょっと思い出しただけ』感想【ネタバレあり】
ミンティアのプロ
インタビュー記事を読んでから映画館に行ったので、ミンティアのシーンが楽しみでした。“タクシー運転手は、ノールックで1粒のミンティアをシャッと出せるはず” というのが、松居大悟監督のこだわり。
伊藤沙莉は何度もシャカシャカしないと1粒が出せなくて、NGを連発したそうです。そんな監督こだわりのシーンは、数秒で通り過ぎていきました。
ちなみに、ミンティアやフリスクに口臭を消す効果はあまり期待できないそうです。食べ過ぎに注意しましょう。
「夏、始まりましたわ」
居酒屋で合コンをしていた葉は、タバコを吸いに店の外に出ます。なかなか火をつけられないでいると、見知らぬ男・康太がライターを貸してくれました。
店の外は薄暗いので、会話をする二人の表情はほぼわかりません。でも、そのほうが夏の夜特有の湿った空気を感じられるような気がして好きでした。
松居大悟監督は、最後の「夏、始まりましたわ」というアドリブ以外は脚本通りだと語っています。
葉は敬語で返答していたはずなのに、気づけばタメ口でツッコんでいたり。「LINEは多いほうがいいから」という康太の強引な言葉に、素直に従ってみたり。テンポ良く進む会話に、思わず声を出して笑いそうになりました。
物語の最後に、葉と康太は結婚して子供もいることがわかります。元カノである伊藤沙莉が別の男性と家庭を持つというだけで、『ボクたちはみんな大人になれなかった』(森義仁監督)が頭から離れません。
『ちょっと思い出しただけ』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
・切ないのにニコニコしてしまう
・渋川清彦を見逃しそうになる
以上、ここまで『ちょっと思い出しただけ』をレビューしてきました。
しましろ