『ベッカムに恋して』や『英国総督 最後の家』でお馴染みのグリンダ・チャーダ監督が、脚本・製作も務めた新作映画が『カセットテープ・ダイアリーズ』です。
1980年代のイギリスでパキスタン移民の少年ジャベドが音楽に影響を受けて成長していく姿を描いたさわやかな青春ドラマ映画の本作は、ジャーナリストのサルフラズ・マンズールの回顧録が原作となっています。
ブルース・スプリングスティーン本人の協力で未発表曲を含めた楽曲も多数使用されているので、「ボス」のファンはそれだけでも見て損なしでしょうが、もちろんまったく詳しくなく聞いたことのない人でも、問題なく楽しめる作品に仕上がっています。
ブルース・スプリングスティーンの歌詞の力は初めて映画で曲に触れる人にも、間違いなく伝わるものなのです!
さわやかな青春音楽映画であり、ホームドラマでもある『カセットテープ・ダイアリーズ』は老若男女問わず共感、感動できる傑作です。
- ブルース・スプリングスティーンの詩の偉大さは時代も人種をも越える!
- 時代背景を少し知っておくと物語に入りやすいです。
- 青春、音楽、友情、家族愛、すべて詰まった感動作です。
それでは『カセットテープ・ダイアリーズ』をネタバレありでレビューします。
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目次
『カセットテープ・ダイアリーズ』作品情報
作品名 | カセットテープ・ダイアリーズ |
公開日 | 2020年7月3日 |
上映時間 | 117分 |
監督 | グリンダ・チャーダ |
脚本 | サルフラズ・マンズール グリンダ・チャーダ ポール・マエダ・バージェス |
原作 | サルフラズ・マンズール |
出演者 | ヴィヴェイク・カルラ ヘイリー・アトウェル ロブ・ブライドン クルヴィンダー・ジル |
音楽 | A・R・ラフマーン |
『カセットテープ・ダイアリーズ』あらすじ【ネタバレなし】
舞台は1980年代のイギリスの田舎町、ルートン。
パキスタン系の少年ジャベドはこの夏からハイスクールに入学することになっている16歳。
幼い頃に誕生日プレゼントとして、同じ誕生日に生まれた幼なじみで親友のマットにもらった日記帳に、ジャベドはずっと感情を吐き出すような詩を書き綴っていました。
しかし親友のマットには恋人ができ、思い切り青春を楽しんでいる中、ジャベドはどうしようもない鬱憤を抱えていました。
マットのバンドに詩を提供しているものの、それは社会への不満、政権への批判するものばかりで、マットにはもっと違うものをと言われています。
パキスタンの家庭の伝統やルールに息が詰まりそうになり、町の人たちからも偏見の目を向けられる日々の中、特に高圧的な態度で自らの意見を押し付けてくる父親マリクへの反発は募るばかりのジャベド。
そんな中、ジャベドはハイスクールで同じ移民のループスから一本のカセットテープを渡されます。
それがジャベドとアメリカのロックシンガー、ブルース・スプリングスティーンの音楽との出会いでした。
まるで自分のことを歌っているようなブルースの歌に、ジャベドは夢中になります。
そんなある日、父親マリクが工場を解雇され、そのことで家庭内に少しずつ不和が生じるように。
父親が自分の話を聞かず、将来進む道も決めつけようとすることで、ジャベドの父親への不満はますます高まっていきます。
そして、ある事件をきっかけに、親子の間には決定的な深い溝が生まれてしまい…。
【ネタバレ】『カセットテープ・ダイアリーズ』感想
主人公ジャベドは80年代のイギリスで生きる移民2世の高校生
『カセットテープ・ダイアリーズ』の主人公はパキスタン系の少年で、両親はパキスタンからやって来た移民です。
1950~60年代、イギリスは繊維工場などの労働力確保のために、積極的に移民を勧誘していました。
くりす
現在イギリスではパキスタンやインド、バングラディシュ系の住民が300万人以上いると言われていますが、積極的に勧誘されて海を渡って来た彼らが何の問題もなく当時受け入れられたかと言うともちろんそんなことはありませんでした。
主人公・ジャベドがハイスクールに通っている1987年頃のイギリスの首相は鉄の女マーガレット・サッチャーです。
メリル・ストリープ主演で『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』という映画も製作されたサッチャーですが、1980年代はサッチャリズムという経済政策が推し進められていた時期になります。
しかし国営事業の民営化や規制緩和で政府機能を削減し、金融部門も外国資本の参入を認めた結果、市場は外国資本に奪われてしまいました。
緊縮財政はインフレ抑制に成果はあったものの、ポンドが高騰したために輸出産業に打撃を与え、長期の不況と失業率の上昇を招き貧富の格差が拡大しました。
リヴァプールなど工業地帯の都市では失業率が激増し、どん底の状態に陥ったことを考えれば、白人労働者階級が反移民感情を持つ背景もわかってきます。
同時に大都市をはじめ、イギリス各地で移民二世が多かった黒人の若者の暴動が起こっており、その背景には失業・貧困、白人による嫌がらせなどが絶えなかったことも窺えます。
くりす
『カセットテープ・ダイアリーズ』でも、ジャベドたちが嫌がらせを受けるシーンは何度も描かれています。
大人たちからだけでなく、小さな子どもたちからの侮蔑もあり、周囲の目が気になる日々を送っています。
ジャベドが常に閉塞感を感じ、鬱屈した思いを抱えるのも当然の環境です。
本作の舞台は30年以上前でありながらも、描かれた社会問題は現代にも通じるものでもあります。
しかしグリンダ・チャーダ監督は社会を問題視するよりも、そんな状況下で何を学べるか祝福すべきと考えているそうで、悲観的なことの多い世界だからこそ楽観的でいないとという監督の思いが作品からは伝わってきます。
くりす
幼い頃からそばにいた友人、良い影響を与えてくれるガールフレンド、才能を認めてくれる教師、隣人の男性、自分と同じような境遇の新しい友人。
くりす
ブルース・スプリングスティーンの音楽は確かに衝撃的で、ジャベドに大きな影響を与えましたが、人が成長するにも夢を追うにも、周囲の支えや理解があってこそと本作は教えてくれます。
鍵となるのはブルース・スプリングスティーン
『カセットテープ・ダイアリーズ』で重要な鍵となるのが、ブルース・スプリングスティーンの音楽です。
ブルースは1949年9月23日ニュージャージー州フリーホールドで生まれたアメリカの国民的アーティストであり、ロック界のボスと呼ばれる伝説的なロックシンガーです。
グラミー賞を20回受賞、他にもトニー賞、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞も受賞していてロックの殿堂入りも果たしています。
2020年7月現在までで、全世界トータル・アルバムセールスは1億3,500万枚を突破しているというまさに大物。
くりす
世代的に40代後半以上、洋楽が好きだった人たちにはファンも多かったはずですが。
そんな今も現役のブルースの曲は年代問わずストレートに胸に響きます。
たとえブルース・スプリングスティーンを知らなくても、主人公が初めて曲を聞いた時の感動、衝撃を共に体験できるような歌詞の力を存分に引き出す脚本と演出なので、何の問題もありません。
くりす
等身大の曲で、まるで自分の心の声を代弁してくれているようだと熱狂し心酔する若者が多かったブルース。
ジャベドはまさにその一人で、ブルースの素晴らしさに夢中になるあまり、周囲の人々が見えなくなる時もあります。
それほどまでではなくても、運命的な出会いをした曲に大きく心動かされた瞬間や、まるで叫びだしたいような感情に突き動かされた経験が誰にでも一つや二つはあるのではないでしょうか。
音楽を愛する人、音楽の持つ力を信じる人には共感を覚えずにはいられない感動作です。
くりす
青春映画でありながら家族ドラマでもあり、誰もがどこが響くモノを感じるはず
音楽に人生を変えられたジャベドの成長を描いた青春映画でありながら、親子の衝突と和解への道をも描いた『カセットテープ・ダイアリーズ』。
本作が一番心に刺さるのは今まさに思春期の子どもがいる、もしくは自分の元から旅立った子どもがいる親の世代かもしれません。
遠い昔、親や社会に反発を覚えていた過去があり、そして今は親が子どもを愛する故の気持ちが、痛いほどわかる世代です。
将来の夢を頭ごなしに否定され、父親に反発する息子と自分が苦労したからこそ息子には安定した未来を望む父親、どちらの気持ちもわかると涙腺がどうにも緩んでしまうのです。
若者世代はきっとジャベドに感情移入をするでしょうし、それが当然で父親のマリクにイラ立つでしょうが、本作の脚本はマリクの弱さや家族への愛情を感じられるシーンを折り込んでいて、決してただ高圧的で身勝手な親としては描いていません。
親も悩み傷付く一人の人間であり完ぺきではない、そんな等身大の姿が描かれているのです。
くりす
家族のために懸命に生き愛情もちゃんとある、しかし子どもの夢をまったく聞かないなど、正しくない面もある父親マリクもジャベドとの衝突で成長しています。
子どもを愛するからこそ自らの考えを押し付けるのでなく、信じて背中を押すようになるのです。
ジャベドも自分を変えた曲に違う意味を感じられるような成長をとげ、光にくらんでいた目で自らの周囲を見られるようになります。
まさに王道、理想のような結末に着地しますが、本作はこれでいいではなく「これがいい」という素晴らしい終わり方です。
誰もが幸せで敗者もいない。
くりす
十代の少年ならではの悩みや苦しみに共感したり若さを羨ましく思い、親の苦悩に胸を痛め、言葉として伝えることの大切さ、音楽が持つ力を改めて知る『カセットテープ・ダイアリーズ』。
社会や家族、夢について考えさせられると同時に、若者たちには共感を、大人世代にはノスタルジーを感じさせる最高の青春映画です。
原題『Blinded by the Light』、日本語では「光で目もくらみ」というタイトルがどういう意味なのかわかるクライマックスでの伏線回収はお見事。
くりす
『カセットテープ・ダイアリーズ』あらすじ・ネタバレ感想:まとめ
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\ 絶 賛 公 開 中 ‼️ /
僕の人生に光を与えてくれたのは、#ブルース・スプリングスティーン の音楽だった❗️
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心に着火🔥‼️ お待ちしております
劇場情報はコチラ⬇️https://t.co/pUOmNsWyot
※音アリです pic.twitter.com/GFzo3v249B
— 映画『カセットテープ・ダイアリーズ』公式🇬🇧 絶賛公開中🎧🎶 (@417cassettemv) July 4, 2020
以上、ここまで『カセットテープ・ダイアリーズ』をレビューしてきました。
- 人生に必要なものに「音楽」を挙げる人は共感すること間違いなしの青春音楽映画です。
- 40半ば以上のお父さん、鑑賞のお供にハンカチ用意して下さい。きっと泣かされますよ。
- 普遍的なテーマと大衆に向けられたボスの歌が見事にマッチしていて、相乗効果で心を揺さぶられます。