映画『カリプソ・ローズ』あらすじ・ネタバレ感想!生きる伝説の歌手の半生と魂を描いた勇気がもらえるドキュメンタリー

映画『カリプソ・ローズ』あらすじ・ネタバレ感想!生きる伝説の歌手の半生と魂を描いた勇気がもらえるドキュメンタリー

出典:『カリプソ・ローズ』公式Twitter

『カリプソ・ローズ』は、御年81歳の現役カリプソ歌手カリプソ・ローズが70歳の時に製作されたドキュメンタリー映画です。

15歳から音楽活動を始め、作った曲の数は800曲以上。

いつしか、カリプソの女王と呼ばれるまでになった彼女の過去、現在、未来を通し、カリプソやソカというカリブ海地域を代表する音楽やアフリカンとして生きる人々の誇りまでも知ることができる作品です。

スクリーンいっぱいに広がるカリブ海に、異国情緒あふれる風景と音楽のせいで、映画館にいるのにも関わらずカリブ海の島々を旅している気分になってしまいます。

カリプソに興味がある人やカリプソ・ローズの人生に興味がある人はもちろんのこと、2020年からのコロナ渦で行きにくくなった海外の空気を感じたい人にもおすすめな1本です。

ポイント
  • 伝説のカリプソ歌手、カリプソ・ローズの半生を描くドキュメンタリー
  • スクリーンいっぱいに広がる風景に、旅をしている気分になれること間違いなし
  • 優しくも力強い歌声と音楽に癒される

それでは『カリプソ・ローズ』をネタバレありでレビューします。

映画『カリプソ・ローズ』作品情報

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

作品名 カリプソ・ローズ
公開日 2021年4月23日
上映時間 85分
監督 パスカル・オボロ
脚本 パスカル・オボロ
出演者 カリプソ・ローズ
マイティ・スパロウ
キム・ジョンソン
ウィンストン・“ジプシー”・ピーターズ
ダーボ・ウノン
デストラ・ガルシア
フェイアン・ライオンズ
デニーズ・プラマー
音楽 ティエリー・ブラネル

【ネタバレ】映画『カリプソ・ローズ』あらすじ・感想


軽やかに社会風刺を歌い上げるカリプソに心惹かれる

あまり日本では馴染みのないカリプソ。

斎藤あやめ

『カリプソ・ローズ』で初めて聞く人も多いのではないのでしょうか。

カリプソとは、トリニダード・トバゴで生まれた大衆音楽で、レゲエのルーツともいわれています。

カリブ海地域を代表する音楽で、4分の2拍子のリズムが特徴です。

1945年にアンドリューズ・シスターズがカバーした「ラム&コカコーラ」の大ヒットにより、その名は世界に広まりました。

最近ですと、ティム・バートン監督の『ビートルジュース』やディズニーの『リトル・マーメイド』などといった人気映画でも、カリプソが使われています。

斎藤あやめ

ですので、トリニダード・トバゴから遠く離れた日本に住む私たちも、もしかすると知らず知らずのうちに耳にしている可能性がなきにしもあらずなのです。

劇中で流れるカリプソのリズムは、大らかでのんびりした雰囲気。

海の近い国の音楽らしい音楽です。

斎藤あやめ

レゲエのルーツともいわれていますが、レゲエよりも、もう少し大らかなイメージがします。

そんな大らかなリズムとは裏腹に、歌われている内容は意外に攻撃的だったり、刺激的だったりします。

実際に劇中でも、ローズがにこやかに歌っている歌の内容が、なかなか激しいものだったということが何度かありました。

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

カリプソのリズムと歌の内容にギャップがあるのには、理由があります。

もともとカリプソの起源といわれているのは、カリンダという攻撃的で批判的な歌詞を持つアフリカの音楽です。

このカリンダは、アフリカを起源としたスティック・ファイティングという競技の最中に、相手を威嚇するために歌われていた音楽だといわれています。

そんな起源を持つカリンダと西洋音楽が融合されてできたのが、カリプソなのです。

カリプソは、カリンダの攻撃性や批判精神を受け継ぎながらも、情報メディアの役割をも担っています。

日常生活の困難や社会的問題、男女問題などといった人間が生きていると必ず鉢合わせる問題を、即興で歌い上げるのがカリプソの特徴です。

4分の2拍子のリズムに乗せられた、鋭い社会風刺に人々は夢中になり、カーニバルが行われるたびに歌われ、カリブのカーニバルの発展とともにカリプソも発展していきました。

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

ローズが歌い上げるカリプソは、ピリッと批判を聞かせたものもあれば、どこかユーモア含んだものまでもあり、実に盛りだくさんです。

そして、即興でリズムを奏でて、やすやすと歌詞を生み出していく様子は、まるで彼女自身が楽器のよう。

斎藤あやめ

「人々の幸せのために、自分を捧げて歌う」と語る、その姿はパワフルであると同時に、どこか神々しさすらも感じさせます。

戦うように歌って生きてきたカリプソ・ローズの半生に勇気付けられる

映画の冒頭から、カリプソ・ローズは笑顔でパワフル。

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

そして、伸びやかにカリプソを歌いあげる姿は、どこまでも明るくチャーミングです。

しかし、彼女が自身の半生を語りだすと、彼女の表情は一転します。

斎藤あやめ

それほど、彼女の半生は波乱万丈なものだったのです。

1940年、カリプソ・ローズことリンダ・マッカーサ・モニカ・サンディ=ルイスは、トバゴ島で生まれました。

映画で、彼女が生まれ故郷の島を訪れるところにも密着しています。

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

幼馴染たちと他愛ない話で盛り上がるローズですが、彼女は子供に恵まれなかった叔父と叔母に引き取られたため、幼くして生まれ故郷を離れ、トリニダード島で育ちます。

10人兄弟の中で、叔母の目に止まったのがローズだったのです。

ローズ自身が語っているように、叔父や叔母はとても良い人たちだったようですが、この幼くして、家族から引き離されたことは、彼女の人生の中にいつまでも消えない傷のように残っているように感じられました。

斎藤あやめ

というのも親元を離れた時のことを語るローズの表情からは、スクリーン越しからでもわかるくらいに、幼い頃、感じた寂しさが滲み出ていてるのです。

実際に彼女もとても寂しかった、母親が恋しかったと語っています。

しかし、彼女がトバゴ島からトリニダード島に移らなければ、カリプソ歌手のカリプソ・ローズは誕生しなかったことでしょう。

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

1955年、それまで別名で歌手活動していた彼女でしたが、カリプソ・ローズとして初のカリプソ曲を発表します。

曲名は「メガネ泥棒」といい、はじめてジェンダーの不公平さを歌い上げたカリプソとして話題になりました。

しかし、デビュー曲が話題になったからといって、カリプソ・ローズの歌手人生は順風満帆ではありませんでした。

当時のカリプソ界は、男性が中心で、女性のカリプソ歌手はローズたった1人。


カリプソのコンテストの名前が「カリプソ・キング」だったくらい、カリプソは男性のものという認識だったのです。

ローズが、日本でいうレコード大賞に値する賞を勝ち取ったはずが、なんと「女だから」という理由で取り消されてしまう始末。

ローズの実力と人気は、誰が見ても明らかなのに、女だからという理由でなかなか認められません。

また、牧師だった父親は、娘の歌手活動には大反対という踏んだり蹴ったりな状況でした。

しかし、ローズはめげたり、女性であることを卑下したりすることなく、ただただ真摯にカリプソに打ち込み、数多くの賞を受賞し続けていったのです。

斎藤あやめ

彼女が受賞した賞を振り返ってみると、「女性として初めて」受賞した賞の多さに驚かされてしまいます。

男性中心のカリプソの世界で女王と呼ばれるほどの地位を築いた彼女の半生は、歌手というよりも、まさにファイターそのもの。

『カリプソ・ローズ』

(C)Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC

しかも、映画では10代のときに受けた暴行が原因で結婚を諦めた事実や、自分たちのルーツや文化への思い、そして移民として生きるアフロ・アフリカンの歴史や胸に秘めた思いなどにも触れられます。

斎藤あやめ

とくに結婚を諦めた理由について語る彼女からは、トバコ島を離れたときと同じ、いや、それ以上の悲しさと辛さ、そして寂しさが感じ取れます。

50年近く経っても、彼女がその時受けた傷が完璧に癒えていないのは明確です。

ただ、その傷含め、たくさんの寂しさも辛さも抱えて歌い続けるからこそ、もしかするとカリプソ・ローズの音楽は今もなお多くの人の心に響くのかもしれません。

映画を見ようが見まいが、カリプソ・ローズを知る人ならば、彼女が男社会で必死に戦うように歌い続けて地位を確立した歌手であることは誰もが認めるところでしょう。

斎藤あやめ

しかし、アフロ・アフリカンとして、そして1人の人間として、信念を持ち続けながら自分のルーツと文化に向き合い、それを受け継ぎ、さらには次の世代に繋げようとする彼女は、もはや歌手という枠を飛び越えてしまっているように思います。

2021年現在、81歳になったカリプソ・ローズ。

まだまだ現役のカリプソ歌手として健在です。

2019年には、世界最大級の音楽フェス「コーチェラ」に史上最年長、また初のカリプソニアンとして出演するといった歴史的快挙を遂げています。

翌年の2020年には、ランスの文化芸術勲章も授与され、歌手として世界的アーティストとのコラボするなど精力的に活動中です。

波乱万丈な人生を戦うように生きてきたローズが、劇中で語る言葉があります。

「生きているうちに、やりたいことはやりなさい。」

斎藤あやめ

彼女だからこそ言える言葉であり、そして彼女だからこそ響く言葉なのではないでしょうか。

映画『カリプソ・ローズ』あらすじ・ネタバレ感想まとめ

以上、ここまで『カリプソ・ローズ』についてレビューしてきました。

要点まとめ
  • 日本ではあまり馴染みがないカリプソやソカなどの音楽の歴史と奥深さが、ただただ面白い
  • 奴隷制度や移民問題、そして男女差別などについても学べて考えさせられる
  • カリプソ・ローズの言葉と笑顔、そして歌声に勇気付けられるドキュメンタリー映画