2018年に開催された第90回アカデミー賞の国際長編アニメーション賞にノミネートされたほか、世界中の映画祭で高い評価を得た『ブレッドウィナー/生きのびるために』。
タリバン政権下のアフガニスタンを舞台に、父親と家族を助けるために髪を切り少年になった11歳の少女の物語を描きます。
原作は映画版の脚本も担当しているデボラ・エリスの「生きのびるために」。
『ソング・オブ・ザ・シー』『ブレンダンとケルズの秘密』を手がけたカトゥーン・サルーンがアニメーション制作を担当しました。
「タリバンてなんなの?」「アフガニスタンてどうなっているの?」という人にこそ鑑賞してほしい名作です。
マルコヤマモト
目次
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』作品情報
作品名 | 『ブレッドウィナー/生きのびるために』 |
公開日 | 2019年12月20日 |
上映時間 | 94分 |
監督 | ノラ・トゥーミー |
脚本 | アニータ・ドロン
デボラ・エリス |
出演 | サーラ・チャウドリー
ソーマ・チハヤー アリ・バドシャー シャイスタ・ラティーフ |
音楽 | マイケル・ダナ
ジェフ・ダナ |
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』あらすじ
家族を守るために11歳の少女は少年になった
2001年アメリカ同時多発テロ後のアフガニスタン、カブール。
11歳の少女パヴァーナは戦争で片足を失った教師の父親、母、姉、まだ幼い弟とともに小さなアパートの一室で暮らしていました。
パヴァーナは物語を作ることが大好きな少女で、幼い弟・ザキのお気に入りは、村から盗まれた種を取り戻すために危険な象が住む山へ冒険に出る少年(スリマン)の物語でした。
ある日、市場で身の回りのものを売ったり読み書きをの商売をしていたパヴァーナと父親を見つけたタリバン兵が近づいてきて、「女は顔を隠せ」と迫ります。
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タリバン兵はかつて父親の教え子だったようですが、今ではイスラム原理主義にすっかり感化され人が変わったようでした。
共に行動していた大柄な兵士が宥めたことによってその場はことなきを得ましたが、後日タリバン兵士たちが突然パヴァーナの家にやってきて父親を刑務所まで連行したのです…。
原因は女性への教育が禁じられているなかで父がパヴァーナに本を読んで聞かせていたからという理不尽なものでした。
女性だけで外へ出ることを許されないタリバン政権下のアフガニスタンで、家に男性がおらずなすすべがなくなったパヴァーナ一家。
刑務所へ父親を迎えに行こうとしてタリバン兵に暴行を加えられた母親を放っておくことができず、パヴァーナは家族を守るために自分の髪を短く切って少年のふりをすることを決意します。
亡くなった兄・スリマンの服を着て男の子として街へ出たパヴァーナは、初めて人間扱いされたことに対して喜びを感じていました。
別の日に再び街へ出たパヴァーナは、自分と同じように男の子のフリをして働くショーツィア(デラワ)という少女と出会い、絆を深めるように。
またパヴァーナは読み書きの仕事で知り合ったタリバン兵のラザクに、刑務所に囚われている父親を助けたいと打ち明けます。
するとラザクは、水曜日に刑務所にいる自分の甥を訪ねるようにと教えてくれました。
しかしその頃、困窮する状況に耐えきれなくなった母親は、何とか家庭に男性を迎え入れようとパヴァーナの姉をまた従兄弟の嫁に出すことを決意したのです。
姉の結婚の事実を知ったパヴァーナはもうすぐ父親を助け出せるかもしれないのにと困惑。
急いで家を出たパヴァーナはショーツィアに別れを告げ、父親が収監されている遠く離れた刑務所まで向かいます。
パヴァーナが家を出た直後にまた従兄弟がやってきて「戦争が始まるぞ!いますぐ逃げるんだ!」と、姉と母、弟を半ば無理やり車に乗せて行きました。
刑務所へ到着したパヴァーナはラザクと会うことができ、父親を助け出すよう必死に頼みます。
パヴァーナが少女であるという正体を知ったラザクは彼女の行動に心を動かされ、父親の救出を約束。
「日がくれる前に自分が戻らなければ1人で遠くへ逃げろ」と言って牢に収監されたパヴァーナの父親を迎えに行きました。
隠れてラザクを待つパヴァーナは、少年・スリマンの物語を紡ぎながら自分を鼓舞します。
アメリカによる攻撃が今まさに始まろうとしている時、離れ離れになった家族は再会できるのでしょうか…?
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』感想【ネタバレあり】
アフガニスタンで何が起こったのか?
2021年、アメリカ軍の撤退を機に再びイスラム原理主義組織・タリバンが政権を奪ったアフガニスタン。
空港に集まった人々がアメリカ軍の飛行機に飛び乗る人々、飛び立とうとする飛行機から落下する人、赤ちゃんを撤退するアメリカ兵に預けようとする人々など、さまざまな衝撃映像がニュースで流れました。
旧政府の大統領は国外へ逃亡し、実質政権がないアフガニスタンを再び統治したタリバン。
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1979年、アフガニスタンを侵攻しようとするソ連に対抗するために当時のムジャヒディンと呼ばれる若者の兵士たちに軍事支援をしていたアメリカ。
その際ソ連は敗戦しますが、ソ連侵攻の際にパキスタンへ逃げ込んだ難民たちに対し、イスラム原理主義の集団が厳格なイスラム教を教え込んでいたことがタリバンの始まりとなります。
当時様々な人種が混在し混乱していたアフガニスタンを支配したのがタリバンでした。
2001年に起きたアメリカ同時多発テロの首謀者であるアルカイダのウサマ・ヴィンラディンを匿ったためアメリカと対立することになり、その後20年にわたる戦争が始まるわけです。
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』は、2001年の同時多発テロ後のアフガニスタンの首都・カブールを舞台にした物語なので、タリバンの兵士たちがそこらじゅうで市民たちを見張っています。
その後始まったアフガン戦争によってアメリカ軍はタリバンをカブールから追い出したものの、2021年のアメリカ軍撤退を機に再びタリバン政権が息を吹き返してしまいました。
2021年のアメリカ軍撤退は事実上の敗戦ということ。
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タリバン政権下は誰にとっても地獄
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』を観て驚いたことは、アフガニスタンの女性には生活する上での権利が全くないということ。
女性1人では外出はおろか、男性同伴でないと買い物に出かけることもできない。
女性だけで出ようとするところを見つかればタリバン兵に鞭で撃たれる。
男性と一緒に外出する際には全身を覆うブルカという青いヴェールを被らないといけない。(視界がとても遮られる)
読み書きを習うことも学校へ行って学ぶことも許されていませんでした。
また、父親がタリバンに連行され女性しかいなくなってしまったパヴァーナの一家では家族を守るためにまだ若い姉が親戚と結婚させられるなど、映画を観ているだけでも地獄のような暮らしぶりに辛さと吐き気を催すほどでした。
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しかし地獄であるのは女性だけではありません。
パヴァーナの父親のように身体が弱く戦えない人間は淘汰され、街で威張り倒していたタリバンの青年兵士もまだ結婚もしないうちに戦場へ連れて行かれたり、埋められた地雷によって命を落とす人も居る。
タリバン政権下のアフガニスタンは間違いなく誰にとっても地獄でしょう。
そんな状況の中で生きのびるためにパヴァーナやショーツィアのように、男の子のふりをして必死に家庭を守る女の子は多かったのでしょうか?
バレた時のリスクを考えると恐怖でしかありませんが、それでも生きのびるための彼女たちの知恵と勇敢さには心動かされました。
スリマンという少年の物語を語ることで自分を鼓舞したり人々を勇気づけるパヴァーナ。
そして人々を勇気づける少年・スリマンの物語に隠された亡き兄の死の真実、架空の物語が現実に結びついていく展開には、美しいアニメーションも相まって素直に感動しました。
父を助けたパヴァーナは、その後姉や母、弟たちと再会できたのか。
パヴァーナとショーツィアは約束通り20年後にビーチで再会できたのか。
「怒りではなく言葉で伝えて」「花は雷ではなく雨で育つ」という最後の言葉が印象的。
マルコヤマモト
SNSでのみんなの感想・評判
本日一本目の映画 #ブレッドウィナー
タリバン政権下の女性がどのような扱いを受けているか日本人にも解りやすく描かれた映画。
この映画の通りならアフガンの女性って完全に詰んでませんか?ストーリーも綺麗にまとめられて見応えがありました。
明日(9/12)まで大須シネマさんで上映されてます。 pic.twitter.com/M5UxeMSQ8a— エレ (@r_eleniak) September 11, 2021
今アフガンで何が起こっているのか?
これを見るとよくわかります。
お子様でも安心してご覧になれる映画です。映画「ブレッドウィナー」を大須シネマで。 https://t.co/xgw8MpKIbB pic.twitter.com/MoJcMtuwsg
— 三上 光之 (@mkmtrain) September 7, 2021
アフガニスタンのニュースを見るたびに暗澹とした気持ちになる。皆さんこちらの映画をぜひご覧ください。Netflixで見れます。。。https://t.co/7CIE9hUBYN
— ヒロ🇹🇼 (@WyBuBECEcapkfYn) September 8, 2021
アフガンの女性への弾圧がよくイメージできるアニメ映画。男家族がいない家庭はほんとにどうしてるんだろうと思った。政府はどこに向かいたいんだろう。見終わってどこかもやっとした。 https://t.co/qgLoLq1zYY
— @saijo_v2_読了垢 (@SaijoV2) September 9, 2021
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』は現在Netflixで視聴できますが、昨今のアフガン情勢から今作を再上映する劇場も増えています。
可愛らしい絵柄、美しいアニメーションからは想像し難いほど過酷な物語ですが、知恵を振り絞って困難を生き抜くパヴァーナやショーツィアからは力強さを感じ、勇気をもらいました。
マルコヤマモト
映画『ブレッドウィナー/生きのびるために』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
怒りではなく、言葉を伝えて。
花は雷でなく、雨で育つからー。家族のために髪を切り”少年”になった、
アフガニスタンの11歳の少女の
勇気あふれる物語。少年になって目にした新しい世界とは?
家族たちの運命は…?映画 #ブレッドウィナー
12/20より恵比寿ガーデンシネマほか
全国順次公開🎥 pic.twitter.com/Wb4j2TV0SO— 映画『ブレッドウィナー』公式アカウント (@breadwinner_jp) December 8, 2019
マルコヤマモト
正直アフガニスタンで何が起こり今何が起こっているのかを勉強したいという一心で鑑賞しましたが、これほど心が締め付けられる作品だとは思っておらずショックが大きいです。
悔しい、悲しい、そんな複雑な感情が自分をずっと支配していました。
タリバン政権が復活したアフガニスタンですが、もちろん彼らの政府に女性の要職はいませんし女性の権利の保証もありません。
マルコヤマモト
また過去に軍事支援をしつつも戦争を仕掛けたアメリカや、タリバンを生み出したパキスタンなどアフガニスタンを取り巻く国々が生み出した罪も多いことから、簡単には片付けられそうにない問題でゲッソリしてきました。
マルコヤマモト
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