どこにでもある普通の家族を軸に繰り広げられる物語。
いつか自分の家族を振り返った時に、なにか共感できる場面や心情がきっとある。
- 普通に生きていくなかで誰にでも起こり得る“絶望”をきっかけに動き出す家族の話
- すべてに共感は出来なくとも、何かしら心に響く場面が誰にでもあると思います
- 見終わったあと少し家族に優しくなれるかもしれない作品
それではさっそく映画『ぼくたちの家族』をネタバレありでレビューしたいと思います。
目次
『ぼくたちの家族』作品情報
作品名 | ぼくたちの家族 |
公開日 | 2014年5月24日 |
上映時間 | 117分 |
監督 | 石井裕也 |
脚本 | 石井裕也 |
原作 | 早見和真 |
出演者 | 妻夫木聡 原田美枝子 池松壮亮 長塚京三 黒川芽以 ユースケ・サンタマリア 鶴見辰吾 板谷由夏 市川実日子 |
音楽 | 渡邊崇 |
【ネタバレ】『ぼくたちの家族』あらすじ
ありふれたひとつの家族、若菜家
外から見ればどこにでもあるような普通の一家、若菜家。
父・克明(長塚京三)と母・玲子(原田美枝子)、長男の浩介(妻夫木聡)、二男の俊平(池松壮亮)の4人家族です。
浩介はすでに結婚しており、妻の深雪(黒川芽以)が妊娠したことを電話で玲子に伝えました。
両家顔を合わせての食事の場で、玲子は唐突に少し妙なことを口走ったりします。
深雪の名をミチルと言い間違えたり、まだ性別がわからないはずの生まれてくる子供が女の子だと決めつけていたり、家族がバラバラになっちゃうなんて嫌だ!と子供みたいに喚いたり。
翌日、食事の場での玲子の様子を異様に感じていた浩介と克明は、玲子を病院に連れて行きました。
検査の結果、脳には確認できただけで白い影が7つ。
普通に生活できているのが不思議なくらいの腫瘍の数だと医師は言いました。
そして、余命という言葉は用いないまでも「1週間が山になる」と言いました。
ちょっと物忘れがあったくらいのことだと思ったのに、唐突に“1週間”という単位を突きつけられて浩介も克明も動揺しました。
唐突に訪れた絶望と、母・玲子(原田美枝子)の異変
玲子の入院生活が始まりました。
病院の側にある中華料理屋で若菜家の男3人が今後について話していると、病院から連絡が入ります。
玲子が取り乱してしまったのです。
俊平に「喫煙所に行こう」としつこく言う玲子を宥めた浩介は、「あなた、誰?」と言われてしまいました。
玲子を宥めるために俊平は喫煙所へと向かい、克明も「二人だけじゃ心配だから」などと言って病室には浩介が一人残されました。
浩介がいつまで経っても戻ってこない3人を探しに病室を出ると、談話室から玲子の楽しそうな話し声が聞こえてきました。
子どもの頃、自分の家族はバラバラで寂しい思いをしていたから、自分は仲良く幸せな家族を築きたいという話をしながら俊平相手に敬語で話すようになっていく玲子。
背後に克明がいるのに「ここにお父さんがいないから言うんですけどね」と切り出し、稼ぎが少ないことや浩介が引きこもりになってしまったために自分がパートを辞めたことで、さらに家計が大変になっていったことを打ち明けます。
友人は年に一度は旅行に行っているのが羨ましかった、自分も一度くらい家族みんなでハワイに旅行に行きたかった。
それでも克明についてきたのは、大好きだから。
そんな本音を、本人がいないようにして、まるで他人に話すように俊平に向けて話しました。
俊平は、そんな母を濁ってなくて赤ちゃんみたいで可愛かったと言いました。
折り重なる絶望と長男・浩介(妻夫木聡)の決心
病院に泊まる克明と交代するために兄弟は家に戻り仮眠を取るのですが、浩介のところに何度も電話がかかってきます。
「母さんが煙草を吸いたいって言うんだけどどうしたらいいか」
「明日会社に行く前に病院に寄ってくれるのかどうか」
そんなくだらないことで何度も起こされ、ろくに眠れなかった浩介は不機嫌に朝を迎えます。
俊平を起こして一緒に病院へ行き、そのまま仕事に向かえば上司からは接待の店を選んでおくように言われ、仕事を終えて帰宅すれば身重の深雪は日よけの帽子は黒とベージュどっちがいいかなんて質問をしてくる。
言い出しにくいながらに玲子のこと、脳に腫瘍が見つかったこと、2人の家庭から治療費に少し回せないかを話しました。
深雪はあからさまに不機嫌になり、淡々と浩介の両親を非難し、2人で苦労して貯めたお金はこれから生まれてくる赤ちゃんのために使いたいと言いました。
その上で治療費がいくら必要なのか教えて欲しい、と冷たく言い放って寝室に行ってしまいました。
そんな中、俊平が家の中を色々探っていたところ、玲子がサラ金で300万以上の借金をしていることが発覚します。
克明は玲子が借金をしていたことを知っていながら、見て見ぬふりをしていました。
そして、自分にも6,500万くらいあると言います。
さらに克明の一部の借金の保証人は浩介になっているので、自己破産したところで1,200万くらいは浩介のところに回るだけ。
それを聞いた浩介は、自分の部屋に行ってしまいました。
また引きこもりになってしまうんじゃないか、またおかしくなってしまうんじゃないかと心配した俊平は、部屋のドアをノックして言葉をかけます。
ドアを開けた浩介は何かを決心したような強い目をしていました。
「ちょっとあそこ行ってくるわ」
そう言って走り出した浩介を、俊平は追いかけました。
着いたのは子供の頃によく訪れた見晴らしの良い高台。
そして「悪あがきしてみる」と言いました。
過ぎていく時間、迫りくる“1週間”
玲子の余命があと1週間と言われてから3日、特に何の指示も出さない医師に兄弟は話を聞きに行きます。
これからどうするべきなのか。
すると医師は「これ以上この病院にいてもらっても処置のしようがないから退院してもらおうかと思っていた」と言いました。
端的に言えば、「家で死ぬのを待て」ということでした。
どういうことなのか問いただせば、手術をするとか抗がん剤を投与するという状況ではないと言い切られてしまいます。
他の病院への紹介状を書いてほしいと頼んでも、どこの病院も万床で紹介することができないから、自分で探してくれと言われます。
浩介は玲子を受け入れてもらえるところを探して大学病院へ行ってみるも、病状は進行していて最初に入院した病院での検査結果も間違ってはおらず、ここまでの病状の患者を受け入れることができないと言われてしまいました。
兄弟それぞれ手分けして何件も病院をあたっては断られ、それでも時間は過ぎていきます。
あるとき会社から出た浩介に、上司が声を掛けました。
母親のことで大変だというのを察した上司が「外回りってことにしておいてやるから、会社に戻らず病院に向かっていい」と言ってくれたのです。
その代わり、今度キャバクラで盛り上げてくれよ、と添えて。
その日、浩介は玲子に「たくさん迷惑をかけて、大変な思いをさせてごめん」と謝りました。
玲子は「そうだっけ?忘れちゃった。最近物忘れがひどくて」と返しました。
そして、玲子は「こういう時こそ笑おう!」と言い、浩介は家族の中で一番頼りになるからと玲子が大切にしているサボテンの世話をお願いしたのでした。
翌日、俊平が訪れた病院で、医師は最初に入院した病院での治療の際にステロイドで失語症が改善したことが引っかかると言いました。
単純な脳腫瘍ではないかもしれないと言うのです。
その場合、悪性リンパ腫の可能性があって、もしそうであれば“何日”という余命ではなくて“5年のスパンで見る”ことができると言いました。
しかし、検査入院をさせるベッドがないと言われてしまいます。
そこに入院することができなくても、余命が延びる可能性に光を見出した俊平は、別の病院で悪性リンパ腫の検査をしてもらえば良いのかどうかを医師に問いました。
その必死さと、もう何件も病院を回っているという俊平に自分の息子を重ねた医師は、自分の知り合いの病院を紹介してくれました。
若菜家に差し込んだ光
紹介された病院に行くと、女性医師が病院での検査結果を見て、やはり悪性リンパ腫の可能性は捨てきれないから明後日から入院できるか?と言いました。
俊平はこの日の出来事を一先ず浩介に報告し、兄弟でファミレスで乾杯しました。
帰宅した浩介は、サボテンに水をあげたときに受け皿の下に封筒を見つけました。
そこには、玲子が克明に向けて真珠のネックレスやアンティークのオルゴール、着物、本家にあるピアノなどお金になりそうなものをリストアップしたものが書き記してありました。
女性医師のいる高輪の病院に入院してからすぐに手術が決まりました。
予定を上回る時間の手術のあと、医師は「悪性リンパ腫で間違いないでしょう」と言いました。
余命は数日ではなく、まだまだ治療の余地がある、ということでした。
1ヶ月後、克明は深雪をレストランに呼び出して1,200万の借金の話をしました。
必ず自分が返し、浩介に迷惑はかけないから見捨てないでやってくれと。
深雪は、俊平からも同じことを言われていました。
1ヶ月前、玲子の手術の当日に。
2人の気持ちを受け取った上で、深雪は「浩介に任せていいと思う」と言いました。
浩介は人知れず外資系の転職先を探して、内定をもらっていました。
給料が上がれば、借金は5年ですべて返せるという話を深雪だけにはしていたのです。
その後、克明は深雪を連れて病院を訪れました。
玲子は深雪の手を取り、お腹に向かって「おばあちゃんですよ」と話しかけました。
『ぼくたちの家族』の感想
“やるせない”の連続だけど共感もできる作品
途中まで、まだ落ちるか、まだ落ちるかっていう畳み掛けるような絶望の連続で“やるせない”が過ぎる話です。
でも、だから俊平が訪れた病院で悪性リンパ腫の可能性を知った時の救われた感が凄い。
そこから繋がっていく克明の借金に関しての、浩介の行動も。
ハッピーエンドかって言われるとどうかなと思ってしまうところもあるけど、どうにもならないことを避けたうえで最善の結末がそこにあるんじゃないかなとは思います。
若菜家に関しては、へらへらしている俊平が一番リアリストで、へらへらしながらハッとするようなことを言うのが印象的です。
浩介が引きこもりになって大変だった時も家族の中にいて、だから玲子の扱いも一番うまい。
物語の中で浩介が引きこもりだった頃のことは特に掘り下げて描かれてはいないのですが、その時からもう家族は壊れていたと俊平が言う場面があるので、どういう状態だったかは割と想像に容易いところかと。
家族に大変な思いをさせてきてしまったから今度は自分がどうにかしなければと途中で切り替える浩介は、長男の責任からそう動いたのか、自分も家族を持ったことで強い人間になったのか。
vito
克明については「おいおい、父ちゃんしっかりしろよ」と思う場面しかなかったですw
玲子から見た他の家族の認識は“家族の中で一番頼りになる”浩介、“あなただけは私に嘘は言わない”俊平、“しんどい思いをしても側にいるほど大好きな”克明なんですよねぇ…。
なんだかんだで、大変な時はきっと玲子の「こういう時こそ笑おうよ」みたいな言葉で乗り越えてきた家族だから、その玲子が駄目になってしまうかもしれないっていう窮地で、やっと“家族”の立て直しができたのかなと思います。
印象に残っている場面など
私は引きこもりの経験こそないものの、長女なので浩介視点で物語を追っていたからか前半はずっとしんどくて、玲子の検査結果が出て両親の借金が発覚して…
vito
朝の情報番組の占いを見ながら俊平が支度をしている場面あたりからが特に印象に残っています。
俊平は新しく玲子を受け入れてくれる病院を探しに行くために支度をしていたんですけど、占いの結果のラッキーカラーが黄色・ラッキナンバーは8で。
vito
この際だから書いてしまうと、その日に訪れた病院が悪性リンパ腫の可能性を見つけてくれたところで、順番待ちの番号札の番号が88だったっていう。
なんだか少し、見ているこっちまで「これはもしかするんじゃないかな?」っていう期待でそわそわする流れでした。
vito
何かの記事で『ぼくたちの家族』に関してリリー・フランキーがコメントした中に、“池松壮亮は人間と子犬の中間みたいな独特の空気感が素晴らしい”みたいな言葉があったんですけど、まさにそれです。
ちなみに話は少し逸れますが、母・玲子を演じた原田美枝子は2019年10月期の日テレ系土曜ドラマ『俺の話は長い』でもニートの母親役を演じています。
vito
『ぼくたちの家族』まとめ
「ぼくたちの家族」原田美枝子さんと長塚京三さんのツーショット取材中に激写。ステキカップル! pic.twitter.com/F4MjXbVVnb
— 映画『ぼくたちの家族』公式アカウント (@bokutachikazoku) March 4, 2014
以上、ここまで『ぼくたちの家族』についてネタバレありで紹介させていただきました。
- 家族ものが好きな人には、問答無用でおすすめします
- 単純明快なハッピーエンドではないからこそ心に残るものがある作品
- 見たあと自分の家族のことを想ったり、声を聴きたくなったりするはず