『トワイライト』シリーズや『21オーバー 最初の二日酔い』など、様々な作品に出演する俳優ジャスティン・チョンの監督・脚本・主演作『ブルー・バイユー』の見どころをネタバレなしでご紹介します!
涙なしには見られない家族の運命、現実として起きている養子縁組とアメリカの移民政策の問題を痛烈に描く、感動のヒューマンドラマとなっています。
・決して大げさな話じゃない!アメリカで起きている移民問題
・選択の連続なのに、選択すら許されない主人公
・タトゥー、バイク、クライム要素などワイルドな演出も満載
それでは『ブルー・バイユー』をネタバレなしでレビューします。
目次
『ブルー・バイユー』あらすじ【ネタバレなし】
人種差別者によって逮捕されてしまう主人公
タトゥーの彫り師として生計を立てているアントニオ(ジャスティン・チョン)は、韓国出身で3歳のころにアメリカへ養子としてやってきた。彼は妻キャシー(アリシア・ビカンダー)と元夫との娘・ジェシーと3人で仲良く暮らしていた。
キャシーはアントニオとの子を妊娠しており、そのためのお金を稼ぐために、アントニオは新たな仕事を探す。
しかし、移民という出自、前科持ちという経歴から仕事は決まらなかった。
その後、キャシーの通う病院を訪れたアントニオは、ベトナム出身の女性・パーカー(リン・ダン・ファン)と知り合う。彼女もまた、アントニオと同じく長くアメリカで暮らしていた。
ある日、アントニオたちがスーパーで買い物をしていると、キャシーの元夫であり警官のエース(マーク・オブライエン)が、同僚・デニー(エモリー・コーエン)とともにパトロールでやってくる。
ジェシーはかたくなにエースと会うことを拒んでいたことから、両者の間に不穏な空気が立ち込める。するとデニーは、アントニオが移民というだけで難癖をつけ、我慢できずに2人は取っ組み合いとなる。アントニオは取り押さえられ、そのまま連行されてしまう。
はるか昔の手続き不備で強制送還の危機?
キャシーが保釈金を払ったにもかかわらず、アントニオはICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)に引き渡されてしまう。
さらに、アントニオが30年前に組んだ養子縁組には手続き上の不備があり、このままでは強制送還となる事態に陥った。
アントニオに残された道は、処分を受け入れて韓国へ送還され、再度アメリカへの入国を試みるか。
当局と裁判で争うかの2択。処分を受け入れれば、長い間キャシーたちと会うことはできず、裁判で負ければ2度とアメリカに戻ることはできない。さらに、裕福ではないアントニオたちにとって、弁護士への依頼料を払うことも困難であった。
キャシーが自分の両親からお金を借りると訴えるが、彼女の母はアントニオをよく思っていない。
自分と養子縁組をした養父母はすでに亡くなっており、頼るあてのないアントニオは古い仲間とともに、ある危険な計画を実行してしまう。この行為によって、アントニオは裁判とはまた別の問題に直面することになっていく…。
『ブルー・バイユー』感想
俳優ジャスティン・チョンの新たな境地が見られる!
『ブルー・バイユー』で主演だけでなく監督・脚本も務めたジャスティン・チョンは、作中のアントニオ同様、韓国系アメリカ人です。過去にはマーティン・スコセッシが製作総指揮を務めた『リベンジ・オブ・ザ・グリーン・ドラゴン』(14)で主演を務めています。
実在した中国系ギャングの顛末を描いたギャング映画であり、「青龍(グリーン・ドラゴン)」のメンバーとなる主人公・ソニーを演じました。
ほかにもコメディ映画『21オーバー 最初の二日酔い』で、マイルズ・テラーらと主演を務め、誕生日を祝ってもらい泥酔する青年・ジェフを演じました。
『ブルー・バイユー』のジャスティン・チョンは、これまで彼が演じてきた作品とは異なります。父親であり、司法制度に翻弄される過酷な運命に立たされるという、私たちと身近な存在でありながらシリアスな運命を背負わされるキャラクターとなっています。
新たな境地を見せたジャスティン・チョンの力強い演技と、繊細な演出は必見です!
また、家族を引き離す原因を作った人種差別主義者の警察官・デニーを演じるのは、『ブルックリン』(15)で主人公の恋人・トニーを演じたエモリー・コーエン。
こちらでは茶目っ気たっぷりの好青年を演じていたこともあり、終始『ブルー・バイユー』のデニー役を演じているとは気が付きませんでした…。体格もだいぶ大きくなっているし、ものすごい役作りをしています…!比較してみると、見た目もキャラも違いすぎて面白いです。
大げさな話じゃない!アメリカで起きている移民問題
今作は家族が直面する過酷な問題をエモーショナルに描く一方で、実際にアメリカで起きている移民政策や、司法制度の欠陥を痛烈に批判しています。作中でアントニオが強制送還される理由は、彼がまだ幼少期のころ、養父母が手続きを怠ったことが原因でした。
アメリカで養子縁組となった場合、自動的に市民権を得られるのは2000年以降に縁組をした場合のみ。それ以前の場合(正確には1983年2月27日以前に生まれた人物)は、市民権を得るための手続きが必要となります。しかし、その詳細は該当する人物に周知されていませんでした。これにより、作中のアントニオのように、突如として国外退去を命じられる人々が出るようになってしまったのです…。
『ブルー・バイユー』では、こうした移民政策にまつわる問題を訴えています。「知らないほうが悪い!」という声も聞こえそうですが、そもそもアントニオのように3歳から養子としてアメリカに訪れ、書類の手続き不備が養父母によるものだと、この市民権の問題を知る機会がかなり限られるはず。
アントニオの場合は事件がきっかけで、手続きの不備を知りますが、実際は何もしていなくても、突如として国外追放されてしまうことになるのです。
選択の連続なのに、選択すら許されない主人公
【ブルー・バイユー』の作中では、たびたび登場人物たちが選択を強いられる場面が登場します。アントニオが弁護士に突き付けられた「処分を受け入れるか・裁判をするか」の2択をはじめ、娘ジェシーが実の父・エースではなくアントニオを選んだこと。アントニオが病院で出会ったアジア系の女性・パーカーの過去に起きた過酷な選択など…。
しかし悲しいことに、アントニオやパーカーの選択は「よりよくなる」ためのものではなく、「最悪を回避する」ための選択ばかり。そして2人が直面する選択は、本質的に「よそ者」という理由によって、選択肢はあって無いものばかりなのです。実際、アントニオが弁護士から言われた選択肢は、どちラを選んでも国外追放の可能性が高いものでした。
法制度の問題を批判している以上に、本来人間であれば誰しも平等に与えられるべき選択の余地すら与えられないことも、今作が訴える大きな問題と言えるでしょう。
タトゥー、バイク、クライム要素などワイルドな演出も満載
繊細なヒューマンドラマにも見える『ブルー・バイユー』ですが、細かい演出はかなりワイルドです!バイクで町を疾走するアントニオの姿や、タトゥーの彫り師としてガサツな仲間とつるむシーン。そんな仲間たちと引き起こす”ある事件”…。
取り上げる「移民政策」の問題はシリアスなのに対して、演出はワイルドで退屈しないものばかり。劇中で流れる音楽や、時折アントニオが思い返す原風景の美しさもすばらしいです。導入部では「見る映画を間違えたか…?」と錯覚するほど美しいものでした…。個人的には、ストーリーは全く異なりますが『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(12)に近い演出を感じました。
『ブルー・バイユー』あらすじ・感想まとめ
・エンドロールでも衝撃を受けるアメリカの移民政策問題
・「平等な選択の余地」にも考えさせられる作品
・タトゥー、バイク、クライム要素など退屈しない演出もよい
以上、ここまで『ブルー・バイユー』をレビューしてきました。
韓国系アメリカ人の俳優であるジャスティン・チョンだからこそ、ストーリーとキャラクターに説得力を持たせられた本作。家族が法によって引き離されそうになるストーリーは涙なしに見れません…。
ヤマダマイ