『ブラック・クランズマン』あらすじ・ネタバレ感想!痛快な潜入捜査映画でありながらヘビーなメッセージ性

出典:映画.com

『ブラック・クランズマン』はKKKを出し抜く痛快なコメディサスペンスですが、今も米国や世界に溢れる差別の問題を突きつけてくる一作でした。

KKKとは?
クー・クラックス・クラン(略称:KKK)とは、アメリカの秘密結社、白人至上主義団体のことです。
ポイント
  • 史実を元に大胆に改変した自由奔放な物語
  • ブラックムービーの伝統に則った賢い黒人と騙されるアホな白人の描写が笑える
  • 潜入捜査物の醍醐味、バレるかバレないかのサスペンス
  • 一件落着と思いきや、最後に提示されるメッセージで全く安心できず終わる攻めた映画

それではさっそく『ブラック・クランズマン』のレビューをしていきたいと思います。

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『ブラック・クランズマン』作品情報

『ブラック・クランズマン』

出典:映画.com

作品名 ブラック・クランズマン
公開日 2019年3月22日
上映時間 128分
監督 スパイク・リー
脚本 スパイク・リー
デヴィッド・ラビノウィッツ
ケヴィン・ウィルモット
チャーリー・ワクテル
原作 ロン・ストールワース『BlacK Klansman』
出演者 ジョン・デヴィッド・ワシントン
アダム・ドライバー
ローラ・ハリアー
トファー・グレイス
コーリー・ホーキンズ
ヤスペル・ペーコネン
ポール・ウォルター・ハウザー
ライアン・エッゴールド
音楽 テレンス・ブランチャード

【ネタバレ】『ブラック・クランズマン』あらすじ・感想


冒頭で提示される強烈な差別の問題とカウンター運動

冒頭、アメリカ南部の奴隷搾取体制時代を懐かしむ悪名高い名作『風とともに去りぬ』のワンシーンが流れます。

その次に、南北戦争後に白人たちが集まって選挙に行く黒人を殺害していた団体KKKを讃えた、さらに悪名高い名作映画『國民の創生』が流れる中、アレック・ボールドウィンが演じる白人至上主義者の学者が、黒人との人種の壁が消え始めている当時の状況を嘆いて「白人の国が脅かされている。我々の子供が劣等人種と勉強を強いられている!黒人を排除すべきだ!」と主張します。

スパイク・リー監督自身が身を置いてきた映画業界が、作品で差別に加担してきた歴史を忌憚なく糾弾するオープニングで、この映画の攻めた姿勢が伝わってきます。

そして舞台は1972年のコロラドに飛び、新米警察官のロン・ストールワースが地元の警察署に就職する場面に飛びます。

所内で唯一黒人の彼は、黒人の権利拡大を掲げる過激派団体“ブラックパンサー党”のリーダーのクワメ・トゥーレが演説をする集会への潜入捜査を命じられます。

ロンが聴衆に紛れて聞いていると、トゥーレは演説で「自分が黒人であることと向き合うべきだ。そして黒人であることを誇れ!黒人は美しい!」といい「ベトナム戦争で人を殺すくらいなら、黒人を射殺する悪徳警官を殺した方がマシだ!」と主張します。

ロンがその後、トゥーレに黒人と白人の戦争は避けられないのか」と聞くと、彼は「その時は必ずくる。準備をして待つんだ」と答えるのです。

このシーンはとても重要です。

ロンはしばらくして、いきなり新聞の広告を見てKKKに募集の電話をかけ、白人の差別主義者になりすまし始めます。

唐突といえば唐突に見えますが、序盤の醜悪な白人至上主義者の主張に続いてクワメ・トゥーレの演説の描写があるので、この映画がやりたいことはレイシズムとブラックパワーの戦いだとしっかり提示してくれていますし、ロンが行動を起こすことを決意した理由もわかります。

序盤の2つの演説は、劇中の白人至上主義者たちと黒人たちの心情を事細かに説明してもいるので集中して聞いていただきたいです。

とくにトゥーレの演説は聞いているアフロヘアの黒人たちの顔が何人もクロースアップで映されて、黒人一人一人が当事者意識を持っているのが強調されるのでより忘れがたいものになっています。

またトゥーレが演説している後ろで

COLORADO STATE COLLEGE

BLACK STUDENT UNION

と二行に分かれて書かれた弾幕が下がっているのですが、その文字がトゥーレの頭で一部隠れて左側に、

COLOR

BLACK

という二単語が強調されて表示されているように見えるのも映画的にうまい演出です。

バレるかバレないかのサスペンス

ロンが突発的に始めてしまった潜入捜査ですが、黒人が実際にKKKたちに会えるわけがないので、同じ署の先輩フリップがロン・ストールワースとしてKKK団に入っていきます。

電話口では黒人のロン本人、実際に会うのは白人のフリップ刑事というこの異色コンビでの潜入捜査というのがまず斬新です。

そしてサスペンスを盛り上げるポイントとして、リップもただの潜入捜査官というだけでなく、KKKから黒人と同じくらい差別される存在であるユダヤ系だということがあります。

KKKの中にはフェリックスという一番過激派の人種差別主義者で疑り深い男もおり、フリップは何度もピンチになります。

ただハラハラするだけでなく、KKKの人間たちも、電話口のロンの口調を聞いても全く黒人だと気づかないし、ユダヤ系かどうかも見ただけでは判断できていないのが笑えると同時に、差別というものの馬鹿らしさが伝わってきます。

エンタメとして終わらせてくれない現実へのメッセージ

本作は実話をもとにしていますが、大きな改変ポイントがあります。

実際に潜入捜査が行われた時期が1978年だったのに対し、今作の舞台は1972年になっています。

これは70年代前半が、いわゆるブラックムービーと呼ばれる賢い黒人が馬鹿な白人たちを出し抜くエンタメ映画が流行っていた時期だからです。

ブラックパワーのカルチャーの潮流が最高潮の時代を舞台に、実際に起きたブラックムービーのような出来事を映画化するという贅沢な企画なのです。

エンタメとしてとても良くできており、笑えるシーンも多く終始楽しめます。

しかし、スパイク・リー監督は今作で「映画で何かが分かったような気になるなよ」ということを言っていると思います。

ブラックムービーは虐げられてきた黒人たちが白人たちにやり返すさまを見てスカッとするためのもの。

またオープニングや終盤のKKKの集会で上映される『國民の創生』は、白人至上主義者たちの行動を正当化して気持ちよくなるための映画です。

正直どっちも偏っていて何か問題を解決してくれるようなものではありません。

本作もラストはKKKたちを見事に出し抜いて物語としてはとても痛快に終わりますが、観客を安心して帰らせてくれないおまけが最後の最後についています。

1972年の物語は唐突に終わり、2017年にアメリカのシャーロッツビルという町で起きた、白人至上主義の集会とそれに反発したデモ隊が衝突し、反差別デモ側の女性が1人死亡、多数の負傷者が出た悲劇の事件の実際の映像が流れます。

デモ隊に向かって乗用車が突っ込んでくるショッキングな瞬間です。

そして現在のKKKの姿が映り、事件に対して「白人至上主義者たちもデモ隊もどっちもどっちだ」と事態を矮小化するようなコメントをしたトランプ大統領も出てきます。

オープニングでは、差別に加担するフィクションを作ってきた過去の名作映画を流し、ラストでは今までアメリカ社会が差別を野放しにしてきた結果の実際の事件映像を流すという対比は強烈です。

「過去の話の映画で小さな留飲下げてどうするんだ!?現実はもっとひどいぞ!」と言われているようで、冷や水をぶっかけられた気分になりますが、それゆえにこの映画のことを忘れがたくなります。

この憶することないメッセージが本作を唯一無二の映画にしています。

『ブラック・クランズマン』まとめ

以上、ここまで『ブラック・クランズマン』について感想を述べさせていただきました。

要点まとめ
  • 潜入捜査でいつバレるかわからない状況にハラハラしつつ、気づかない馬鹿白人たちに爆笑
  • 映画が差別に加担してきた歴史も批判する攻めた作品
  • エンタメでありながらラストには現実に目を向けざるを得ないメッセージが突きつけられる

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