『サマータイムマシン・ブルース』や『踊る大捜査線』シリーズの本広克行が、『攻殻機動隊』『機動警察パトレイバー』シリーズで知られる押井守原案の『夢みる人』を映画化。
本広、押井、小中和哉、上田慎一郎による実写映画レーベル・“Cinema Lab(シネマラボ)”の第1弾で、映画好きに送る実験的な作品となっています。
台詞のほとんどが役者たちのアドリブで構成される即興劇のスタイルを取り、フレッシュなメインキャストたちの自然な演技が楽しめる作品です。
役者だけではなく映画監督としても活躍する小川紗良が主演を務め、とある大学の映画研究会が自主制作映画を撮影するというストーリーを引っ張ります。
押井守原案『夢みる人』といえば、不朽の名作アニメ映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を思い浮かべる人が多いと思いますが、どのように本作とかかわってくるのでしょうか。
今回、映画『ビューティフルドリーマー』をネタバレありでご紹介します。
目次
『ビューティフルドリーマー』作品情報
作品名 | ビューティフルドリーマー |
公開日 | 2020年11月6日 |
上映時間 | 75分 |
監督 | 本広克行 |
脚本 | 守口悠介 |
出演者 | 小川紗良 藤谷理子 神尾楓珠 内田倭史 ヒロシエリ 森田甘路 斎藤工 秋元才加 瀧川英次 升毅 伊織もえ かざり 池田純矢 飯島寛騎 福田愛依 |
音楽 | 菅野祐悟 |
【ネタバレ】『ビューティフルドリーマー』あらすじ
いわくつきの作品
先勝美術大学は来る文化祭に向けて熱気を帯び、学内は準備をする学生たちで溢れ返っています。
そんな中、映画研究会の部室にはいつも通りのまったりとした空気が流れていました。
ただ一人、“部室の片隅にある何か”の夢を見たサラ(小川紗良)だけは落ち着かない様子。
思い立ったサラは捜索を始め、夢で見た通り部室の片隅で何かを見つけます。
それは古い脚本と演出ノート、そして1本の16ミリフィルムでした。
部員たちはフィルムを回して上映会を始めますが、その内容は冒頭のみで途切れています。
撮影の途中で頓挫してしまったのだろう、と何事もなく片付けを始める部員たちですが、サラだけは違いました。
その脚本、『夢みる人』に魅了されたサラは、自分たちでこの作品を撮ろうと提案します。
しかし、今まで一度も映画を撮ったことのない部員たちは、あまり乗り気ではありません。
そこでサラは部員たち一人一人に向いている仕事をあてがいます。
しっかり者でものづくりが好きなリコ(藤谷理子)にはプロデューサー、映研の中でも特に映画好きで機材に詳しいカミオ(神尾楓珠)にはカメラマン、ムードメーカーでタフなウチダ(内田倭史)には録音、お洒落でサバサバした性格のシエリ(ヒロシエリ)には衣装とヘアメイク、そして明るく打たれ強いモリタ(森田甘路)には全部!といって助監督や照明など様々なことを任命。
そもそも映画が好きな部員たちはサラから提案された担当を聞いてその気になり、『夢みる人』を撮ることを決めます。
その頃、サラと同じように「部室の夢を見た」と言って突然やって来た映研OBのタクミ(斎藤工)によると、『夢みる人』はいわくつきの作品。
撮ろうとすると必ず何かが起きて、最後まで撮影されたことがないといいます。
作品が完成させまいとしている呪いなのだと…。
不気味がる者、全く気にしない者がいる中、映研は『夢みる人』の撮影に取り掛かりました。
挑戦の始まり
まずはオーディションを行い、役者を集めます。
ギャラなしのボランティアにもかかわらず、かつて国民的アイドルグループに所属していた女優のアキモトサヤカ(秋元才加)、かつて“五色の戦士が戦う番組”でヒーローを演じていたイケダジュンヤ(池田純矢)、かつてヒーローに変身する医師を演じていたイイジマヒロキ(飯島寛騎)など豪華なメンバーが集まってきました。
足りない分の役者は部員たち自身で補いながら、『夢みる人』の撮影は順調に進んで行きます。
…と思いきや、雲行きが怪しくなってきました。
プロデューサーのリコに許可を取らず、製作資金を無駄遣いする部員たちがいたために、監督のサラがこだわりたかった戦車のシーンがボツになりかけます。
その中で、ラジコン研究会から戦車のラジコンを借りてきて撮影するという案が出たので、実際に借りてくることに。
モリタが撮影のためにラジコンの操作を練習し始めますが、その途中でラジコンを踏みつけ、壊してしまいました。
それでは今度はレンタルしたらどうか、とレンタルの戦車を現地へ撮影しに行くことに。
カメラマンのカミオが行くという意見を押し切り、ラジコンを壊してしまった罪悪感を抱えるモリタが一人で向かいました。
現地では元自衛官タレントのカザリ(かざり)が案内してくれることになり、モリタはカザリの美貌に舞い上がります。
帰ってきたモリタが自信満々に映像を披露すると、舞い上がっていたせいか逆レックしており、戦車が映る前に映像が途切れていました。
罪悪感を抱えていたモリタはショックを受け、呪いだと言って暴れ出します。
今までモリタが失敗しても責めることのなかった部員たちですが、これにはさすがにうんざり。
さらに、準備していたクラウドファンディングも失敗。
資金は底をつき、トラブルが続きます。
しかし、めげずに撮影を続ける映研一同。
手作り感満載の『夢みる人』ですが、上がっていく部員たちの技術や役者たちの名演によって、作品として成り立ち始めました。
突然の出来事
無事に中打ち上げを迎え、より一体感が生まれてきた撮影現場。
そんな中、リコは隠れて電話をするなど、何やらこそこそするようになりました。
みんなの前ではいつも通り明るく振る舞っていますが、どこか不安げな表情です。
一方、サラはどんどん作品にのめり込んでいき、どことなく周りが見えない状態になっていきます。
物語中盤から役者としても参加するようになっていたリコは、サラと台本の読み合わせをしました。
その時、サラは台詞にある登場人物たちの名前を自分たちの名前に置き換えて、「ずっとみんなと映画を撮っていたい」と幸せそうに話します。
リコは複雑な表情でその言葉を聞き、それでも何でもない風を装いました。
多くのトラブルを乗り越えながら続けてきた撮影もいよいよ終盤に差し掛かり、映研の部員たちは劇中の大事なシーンを撮っています。
夢と現実の狭間にいるような幻想的なシーンで、出演はリコとタクミの二人。
タクミ越しに遠くにいるリコを映すシーンの撮影は上手くいき、カットがかかります。
サラはタクミに話し掛けられ、他の部員たちもそれぞれの仕事に取り掛かっていました。
そうして誰もが気がつかないうちに、リコは忽然と姿を消していました。
ビューティフルドリーマー
リコが姿を消し、音信不通となってしばらく経ちました。
撮影はそのまま中断され、他の映研の部員たちは何となく部室に寄り付かなくなっていました。
みんなが集まらなくとも毎日のように部室に通い続けていたサラは、ある日カメラを手に学内を歩き回ります。
まだ映画を撮ることを諦めていないサラの思いは行き場を失い、それはサラの纏ったアンニュイな雰囲気に表れていました。
部室に入っていくサラを見かけたカミオは、サラの後を追って久しぶりに部室へ向かいます。
二人はカメラをいじりながら来年の話をしました。
3年生の二人は翌年に就職活動を控えていましたが、サラは進路を決めかねているため、まだ何もしていないと話します。
一方で、カミオは『夢みる人』を通して撮影の楽しさや奥深さを知り、本格的にカメラの勉強をすることにしたそうです。
二人はお互いの健闘を祈り合います。
すると、カミオは「みんなまだ諦めていない」と言いました。
それはつまり『夢みる人』の撮影を諦めていないのは、サラだけじゃないということを表していました。
カミオに連れられて部室を出ると、中庭ではウチダ、シエリ、モリタが待っており、ラストシーンで使う予定だった校舎の模型を準備しています。
製作資金を集めるために撮影と並行してアルバイトに励んでいた一同ですが、撮影が中断されてからもそれを継続し、この模型を用意したそうです。
サラが驚いていると、大きな荷物を持ったリコが走り込んできました。
そして、突然姿を消したことや連絡が取れなかったことを慌てた様子で謝ります。
「もう一度映画を撮りたい」という気持ちで再び集まった映研の部員たちは、こうして撮影を再開させることに。
『ビューティフルドリーマー』というタイトルが書かれた小さな看板を渡されたサラは、笑顔でそれを校舎の模型に掲げるのでした。
【ネタバレ】『ビューティフルドリーマー』感想
“Cinema Lab(シネマラボ)”とは
“Cinema Lab(シネマラボ)”とは、本広克行、押井守、小中和哉、上田慎一郎による映画実験レーベルのことで、エイベックス・ピクチャーズとプロダクション・アイジーが製作幹事を務めています。
1961年から1980年代にかけて活動した映画会社・“日本アート・シアター・ギルド(ATG)”に影響を受けているということで、シネマラボの第1作となった『ビューティフルドリーマー』はATGの第2期にあたる「低予算での映画製作」に直結するよう感じます。
監督の作家性を最優先させ、予算に制限がある中で実験的に行われる映画製作…。
今回は本広監督なりの「実験」として即興劇のスタイルが採用されています。
urara
映研が撮っていた作品の元ネタは?
映研の面々が撮影していた『夢みる人』。
これは押井守が監督を務めた不朽の名作アニメ映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』であることがわかります。
劇中には『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を観たことがない方にとっては、何が行われているのかわからないような演出もありました。
urara
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は日本のアニメにおけるループものの元祖といっても過言ではない作品で、夢と現実の境が非常にわかりづらい演出がなされています。
今回の『ビューティフルドリーマー』では、その世界観を実写で再現しようと奮闘する映研の映画作りの様子が映し出されていました。
『うる星やつら』のヒロイン・ラムに相当するカーチャ役の役者には青いカツラを被らせ、「~だっちゃ」とお馴染みの語尾を付けた台詞を喋らせています。
『うる星やつら』を観たことがない人でも、さすがにこれはラムちゃんだとわかるのだと思いますが、その他のキャラクターやシーンも実に忠実に、ユニークに再現されていました。
特にアヤメ先生役の秋元才加の演技は素晴らしく、『うる星やつら』のサクラ先生がそのまま飛び出してきたかのような再現度でした。
このような楽しみ方は原作を知らないと難しいのですが、本作は原作者に原案を書き下ろしてもらった本広監督による『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の二次創作だと考えたほうが良いでしょう。
urara
原作を知っているから笑えたり、共感できたり、リスペクトを感じることができるのです。
実際に『ビューティフルドリーマー』内の『夢みる人』は、原作へのリスペクトを熱く感じることができる作品でした。
「なるほど、そのシーンをそうやって表現するのね」と、感心してしまうはずです。
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では、「まだ原作のほうを知らないよ」という方は、どのように本作を楽しめるのか。
次の項で考えてみました。
映画好きの心をくすぐる
映研一同は当たり前かもしれないですが映画好き。
urara
『夢みる人』の脚本がいわくつきだ、呪いだと言われれば、やれ『エクソシスト』だ、『死霊館』だと騒ぎ立て、フィルムを回して上映会をしようとすれば、『ニュー・シネマ・パラダイス』を思わせる台詞を呟いたりします。
その他にも、「『ブレードランナー』って知ってますか?」という質問に「迷路のやつ?」と返されれば、「それ『メイズランナー』ね!」と突っ込むなど、高度な映画ネタが何気なく続きます。
撮影においても『キャリー』に倣ってデ・パルマカットに挑戦したり、トリュフォーの撮り方について語ったりと、映研の面々がかなりの映画好きだということがわかります。
「リドリー・スコットって絶対猫好きだよね」という台詞が聞こえてくれば、『エイリアン』に猫が出てきたなと考えさせられます。
urara
『夢みる人』の原作である『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』を知らなくても、映画が好きな人ならクスッと笑ってしまうシーンが多々あるのではないでしょうか。
さらに、メタ構造の作品内でメタ構造の作品を撮っている状況、そして監督を務めるサラの口から出る「メタメタ構造」という言葉。
urara
即興劇が魅力的
即興劇がテーマの一つとなっている『ビューティフルドリーマー』。
フレッシュなメインキャストと豪華な脇役が織り成すエチュードは魅力的です。
主演の小川紗良は実際に監督も務める役者。
映研を引っ張る監督役でしたが、映画を作っている時の真剣なまなざし、映画のことを考えている時の目の輝き、好奇心と知性を感じさせる表情は、まさにフィクションとノンフィクションの境をなくしていました。
urara
そんな映研を支えたのが、豪華な脇役たち。
本作はキャストの役名が本名と一緒なのですが、脇役俳優たちはその経歴まで現実と同じ設定です。
例えば、AKB48グループの卒業生である秋元才加は元国民的アイドルグループ所属。
ヒーロー作品出身の池田純矢、飯島寛騎はヒーローを演じたことがあると紹介されます。
映研OBのタクミ役で出演した斎藤工はイレギュラーな存在ですが、劇中で「自身が監督を務めた作品がフィルムフェスティバルで受賞した」と言っており、これは実際に斎藤の身に起きた出来事です。
urara
オーディションで早口言葉を言わされて噛んだり、禿のカツラを被らされたりと、かなりユーモアに富んだ役どころでしたが、とてもユニークで物語に厚みを出していました。
『ビューティフルドリーマー』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
映画『#ビューティフルドリーマー』
ただいま絶賛公開中👏全国で順次公開中✨️
最新の劇場情報はこちら🎬https://t.co/Asx9DJNAlN pic.twitter.com/1Aq0SWEAoO— シネマラボ第1弾『ビューティフルドリーマー』公式 (@cinemalab_jp) November 11, 2020
いかがだったでしょうか。
監督の本広克行といえば『サマータイムマシン・ブルース』や『幕が上がる』など青春映画のイメージがありますが、今回の『ビューティフルドリーマー』はその2作品に続くタイトルとなったのではないでしょうか。
『ビューティフルドリーマー』は2020年11月6日より公開中。
ぜひご覧ください!