平和な家庭とありふれた愛。
どこにでもあって誰にでも手に入れられそうなものを欲して、殺人犯となってしまった17歳の少年の物語です。
- 舞台演出家として有名な蜷川幸雄が監督を務めた作品
- 原作は『悪の教典』『鍵のかかった部屋』の貴志祐介
- 切なくてやるせない気持ちになる映画が好きな人におすすめ
目次
映画『青の炎』作品情報
作品名 | 青の炎 |
公開日 | 2003年3月15日 |
上映時間 | 116分 |
監督 | 蜷川幸雄 |
脚色 | 蜷川幸雄 宮脇卓也 |
原作 | 貴志祐介 |
出演者 | 二宮和也 松浦亜弥 鈴木杏 中村梅雀 山本寛斎 川村陽介 秋吉久美子 木村雅 渡辺哲 近藤芳正 六平直政 竹中直人 唐沢寿明 中山幸 新川將人 あべこ 小林来 |
音楽 | 東儀秀樹 |
【ネタバレ】映画『青の炎』あらすじ
ただ平穏に暮らしたいだけの少年を脅かす存在
遅刻ギリギリで学校のチャイムが鳴り響く中、ロードレーサーを爆走させて登校する櫛森秀一(二宮和也)は、由比ヶ浜高校に通う2年の優等生です。
昼休みの時間に学校へ来ていない石岡拓也(川村陽介)という生徒の話題になります。
石岡は家族を殴ったという噂が学校中に広まってから、登校することが無くなっていました。
放課後。
秀一は自分の部屋であるガレージに戻ると、引き出しの一番下に酒を隠して、その上の引き出しからテープレコーダーを取り出し、今日あったことや自分の考え・気持ちを吹き込みます。
秀一は世間で増えつつある少年の犯罪事件に対し、自分は他の17歳みたいに感情に任せてナイフで人を刺したりしない、人を殺すにも想像力が必要だと考え「どうすればアイツを消して家族を守れるのか」と思い悩んでいました。
夜、母・友子(秋吉久美子)と妹・遥香(鈴木杏)と楽しく晩御飯を食べていた時、リビングへは入って来ず「酒」とだけ言う男・曾根隆司(山本寛斎)が現れます。
曾根は友子の元夫で10日ほど前から櫛森家に住み着いていました。
友子は誰も飲むはずのない焼酎を曾根のために買っておき、「行くあてができるまでいさせるだけ」だと言います。
どうにかして曾根を家から追い出したい秀一は、法律相談事務所に行きました。
友子が曾根と離婚する時に頼んだ弁護士の加納雅志(六平直政)に相談したかったのです。
秀一の本当の父親は事故で亡くなり、その後友子が再婚した曾根は最初は優しそうな様子でした。
しかし、段々と昼間から酒を飲み、友子や秀一に暴力を振るうようになっていきます。
櫛森家を脅かす曾根を消して家族を守りたいのに、法律はそれを叶えてくれません。
秀一は1人で世界と戦うつもりで曾根の殺害を決意し、入念な犯罪計画を立てるのでした。
チェレンコフ現象
昼間は普通に学校に通い、夜はコンビニでバイトをしている秀一。
その日はお客さんが来なさすぎて暇だったので、ふざけ通しているバイト仲間を帰して1人で店番をすることにします。
そんな中、フルフェイスのヘルメットを被って石岡拓也が店にやってきます。
石岡の学校で広まっている噂は本当ですが、実のところ石岡は家族をナイフで刺そうとしていました。
それを殴る程度に食い止めてナイフを預かったのは、秀一です。
2人は学校中も知らない秘密を共有していました。
あることをきっかけに、成り行きで同じ美術部の福原紀子(松浦亜弥)と水族館デートした秀一。
映画 『青の炎』 https://t.co/UvoTJKRxBR #amebaownd
監督:蜷川幸雄、原作:貴志祐介、脚本:蜷川幸雄、宮脇卓也、撮影:藤石修、編集:川島章正、音楽:東儀秀樹、主演:二宮和也、松浦亜弥、2003年、116分。 pic.twitter.com/Rx59USUr9D— 由比 周也 (@syuya_yui) October 6, 2018
その日のことをテープレコーダーに吹き込んでいると、遥香の叫び声が聞こえてきます。
秀一は金属バットを持って曾根のもとへ向かいましたが、バットで殴るより先に遥香に止められ、その間に友子が帰って来ました。
事態が収まった後、秀一が部屋でうずくまっていると、友子がやってきて曾根を追い出しかねている理由を打ち明けます。
「10年前に曾根と離婚した時に、友子と秀一は籍を抜いたけれど、曾根の実子である遥香だけ籍を抜けていないということ」
「すぐに出て行けと言えば、曾根はきっとそれを持ち出してくるだろうということ」
この2点を伝えた後、友子は続けて「遥香が15歳になったら自分の意思で籍を移せるようになるからそれまでは我慢してくれ」と秀一に言いました。
しかし、怒りも憎しみも抑えきれないほどになっていた秀一は松岡四朗という偽名で私書箱センターを利用し、2日酔いに似た症状が出るシアナミド水溶液を手に入れ、曾根がいつも飲んでいる焼酎に仕込んで体に慣れさせ、いよいよ殺害への1歩を踏み出します。
法医学の本を読み、ふとしたことからきっかけを掴んで考え付いた殺害方法は感電死。
秀一は、罪の意識に毎日うなされることになったとしても、「計画を実行する」と固く誓いました。
計画、実行
その日、秀一は電車で学校へ来たと嘘をつき、美術の授業中に抜け出して、登校の途中で隠しておいたロードレーサーに乗り家に戻りました。
準備しておいた装置を使って曾根を感電死させ、学校を抜け出したのと逆の道を使って戻ります。
放課後、家に帰った秀一は「第1発見者」として通報しました。
後日、警察から連絡があり解剖の結果、曾根は病死と判断されます。
ある雨の日、朝から雨だったのでロードレーサーで登校しなかった秀一は、傘を誰かにとられてしまったという紀子と一緒に帰ることに。
そこで「この間の美術の時間どこに行っていたのか」、「どうして美術室に戻った時、すでに絵の具が乾いていたのか」と2つ質問をされました。
質問を返した秀一は、急いで学校に戻って自分の絵を見返して驚きます。
そういえば…とトリックに使った絵と、曾根を殺すのに作った道具を隠している場所に向かいました。
しかし、そこには隠したはずのものがありません。
その夜、コンビニでバイトしていると石岡がやってきて「金を貸してくれ」と言い出しました。
計画の日に外で秀一を見掛けたから後をつけていたと言う石岡。
直後に曾根が心臓マヒで死んだという噂を聞き、ピンときたと石岡は言います。
秀一は「一週間、時間をくれ」と言いました。
数日後、改めて金を要求してきた石岡に秀一は強盗の提案をします。
自分が働いているバイト先に強盗に入って金を盗めと言いました。
実行は翌日。
秀一は前に石岡から取り上げたナイフに模倣した“ダミー”を凶器として使うように渡します。
その後、秀一は計画通りにフルフェイスで入店し強盗に来た石岡を、たまたま胸にナイフが刺さったということにして殺害してしまいます。
曾根の件で関わりのあった警部補・山本英司(中村梅雀)は、秀一と石岡がクラスメイトであるということがどうしても引っ掛かると、疑いの目を向けました。
防犯カメラを見ても納得のいかない点がありすぎると言いながら、秀一が刺したんだとしても正当防衛になると言う山本に、秀一は「自分がやったんじゃない」と言います。
筋書きとしては悪くないはずなのに、学校で居心地が悪くなってしまった秀一が、美術室で1人でいると紀子がやってきました。
秀一は「部活サボって帰ろうぜ」と彼女を自分の部屋に呼びました。
『青の炎』 松浦亜弥
いま改めて思う。セカイの蜷川による映画史に残る名作にそのフィルムに往時のあややが焼き付いているという事実は我々人類にとりこの上ない幸運だと言えるだろう。そしてこの映画はニノが素晴らしい。なぜか悔しい。#好きな美少年映画を教えあう pic.twitter.com/Yq4VLdVNNE
— essay (@essay0105) February 28, 2019
秀一の選んだ最後
紀子は犬を飼っていました。
秀一は、紀子から何度か聞いていた「寝言を言う犬」の話を聞きたがりました。
最初の内は穏やかに会話していたのですが、ちょっとしたことで語気を荒げたりする秀一の不安定な様子を見て、紀子は「好きなものを順番にノートに書いていくと心が落ち着く」と教えます。
「好きなものが思いつかないときは嫌いなものをノートに書いて、それを焼き捨てればいい」と言いました。
紀子を駅まで送った別れ際、秀一は自分が人を殺したことを告げました。
なんで二宮和也さんはいい人なのかというと青の炎という映画の駅のシーンので松浦亜弥さんとキスをするという場面が予定ではあったのですが二宮和也さんは蜷川幸雄監督に「ここでキスは少し違うのではないですか?」という意見を出し、そのキスシーンは無くなったという話。だから二宮和也さんはいい人 pic.twitter.com/jnsOfzuiYd
— まりのり (@I9dG01Z4RGNz6Gn) January 10, 2019
その頃、警察は曾根と石岡のことについて正しい証拠を掴みつつありました。
そして、山本は秀一に本当のことを話すよう言います。
秀一は友達にちゃんと別れを言いたいから明日話すと言って、猶予をもらいます。
翌日、秀一は普段通りに友子と遥香と朝食を済ませ、普段通りに部屋の電気を消してロードレーサーに乗り学校に向かいました。
美術室にいる紀子に会うために。
紀子は30年後の秀一の肖像画を書いていました。
紀子が警察から秀一についてあれこれ聞かれた時、「美術の時間に抜け出したのは校庭で絵を描いていたからで、自分も外に出て少し話した」と嘘を吐いたことを、秀一は知っていました。
他のクラスメイトも秀一を守るために嘘を吐いたのですが、矛盾だらけでおかしいと警察が言っていたことも…。
警察に捕まったら世間は騒ぐだろうし友子や遥香に迷惑をかけたくないと言う秀一に、紀子は「裁判になっても嘘を吐き続けるから負けないで」と言いました。
美術室を後にした秀一は、その足でロードレーサーに乗り海岸沿いを走ります。
そして、対向車線の大型トラックに突っ込んでいきました。
【ネタバレ】映画『青の炎』感想
17歳の少年の、儚くて危うい一瞬を切り取った作品
私が『青の炎』を見たきっかけは、他でもなく二宮和也が主演だからです。
vito
事務所関係が無かったら絶対に「青の炎」で新人賞を受賞してたと思う。
どこか孤独で繊細で切なくて儚い演技。二宮の演技力が輝いてる作品。硫黄島からの手紙 鉄コン筋クリート の監督は青の炎の演技を見て出演を決めたくらい
俳優としての第1歩になった作品。新人賞取らせてあげたかったなぁ pic.twitter.com/ZbdCEMup5x
— か ふ み や (@kafumiya_0617) March 3, 2017
バッドエンドだし重たい話ですが、割とすんなりと見られたのは、主人公である秀一の思考と一貫しているからかもしれないなぁと思ったりします。
vito
でも、秀一(二宮和也)なりに完璧に練った計画でも、やっぱり17歳の思考と経験値では隙があるんだよねぇと感じました。
単純に深く感情移入するほど人物描写がなかったので、すんなり見られたっていうのもあるかもですけど、この辺りは見る人によるのかなとも思います。
vito
複雑ではあるけれど、世の中に同じような例がありそうな家庭の事情を描いているので、思い当たる節がある人には結構グサグサくる場面があったりもするかもしれません。
秀一だけだったら、曾根(山本寛斎)のことも石岡(川村陽介)のことも隠し通せたかもしれないとも思いました。
vito
そうならなかったのはクラスメイトたちが警察に話した矛盾とかもだけど、紀子(松浦亜弥)の存在が大きかったんじゃないかなと思います。
vito
全てを言葉で伝えなくても伝わってしまう2人だから、秀一が選んだ最後も紀子は気づいてたんだと思います。
vito
好きな場面や印象に残っているところ
冒頭の秀一が目を覚ましてから、外に出るまでの流れが結構好きです。
vito
秀一の部屋はガレージで、物がいっぱいでごちゃごちゃしてるんだけど、ある程度は整頓されていて不思議な感じがします。
vito
外に出る時は、何本かある蛍光灯を出口に向かって1つずつ消していくんですけど、その工程が何か好きなんです。
一瞬、真っ暗になってシャッターを開けると、外の光が一気に入ってくる感じが綺麗で素晴らしい場面でした。
物語の季節が夏だから、日差しとか海岸沿いの道とか青々とした葉っぱとか目に入ってくる景色も鮮やか。
vito
後は、秀一に関わってくる警察の山本(中村梅雀)が、いつの間にかロードレーサーを買って乗るようになっているくだりも好きです。
子どもにゲームを買ってあげるためのお金だったけど、秀一のことを知りたくてロードレーサーを買ったっていう動機と行動が切なく感じました。
vito
印象に残っているのは秀一が紀子に“ちゃんと別れを言う”美術室の場面と、その直前の智子と遥香と朝食を食べているところ。
「お昼までには帰ってくるでしょ?何が食べたい?」って聞く友子に「何でもいい」って返す秀一とか。
「行って来ます」って言う秀一に「行ってらっしゃい」って言わないで、軽めに相槌うつだけの遥香とか。その後、何か言いたげにしながら自分の部屋に向かう秀一とか。
vito
それぞれの一言一言、声の調子、視線とかをすごく細かく繊細に演出していました。
vito
映画『青の炎』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
#面白いと思うかは知ったこっちゃねえが個人的にオススメしたい邦画
『#青の炎』(2003/日)
家族を守るため、完全犯罪を目論んだ高校生を描いたサスペンスの力作。セリフなく決意と真意を伝える、二宮和也19歳の演技力を刮目すべし!です。 pic.twitter.com/EWniylbDqz— 銀色のファクシミリ (@Iin5cjYdKrAm26D) February 21, 2020
以上、ここまで『青の炎』をネタバレありでレビューしました。
- 重いテーマの映画を観たいけど、観た後そんなに引きずりたくない人におすすめ
- 邦画なのにどこか洋画の手法を感じさせる雰囲気のある作品
- 公開時の2003年、この時にしか撮れなかった二宮和也の儚さや透明感を堪能できる作品