『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』は、ライアン・マーフィー制作総指揮のホラー作品第2弾。
人間の深層心理に深く入り込む恐怖に焦点をあてた『アメリカン・ホラー・ストーリー』の世界観を、そのままに、役者を変えず、時代背景や設定を大きく変えた、新しいスタイルを世に送り出した野心作です。
シーズン1の「呪いの館」から続投のジェシカ・ラングとエヴァン・ピーターズ、前に見た役者陣の役柄のシャッフル、新たな役者たちも加え、ホラー要素はパワーアップ!
残虐で残酷、スプラッター要素も加え、ライアン・フマーフィー作品らしくミュージカル仕立てのシーンの挿入もあり、怖いだけでなく、かなりひねりの利いた斬新なシリーズです。
・誰が正気なのかわからない
・抜け出せない恐ろしい世界
・誰にもでも潜む狂気
それでは『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』をネタバレなしでレビューします。
目次
『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』あらすじ・感想
カトリック教会の運営する精神科病棟
1964年、3人の女性を殺した連続殺人犯の「ブラッディ・フェイス」を当局から預かることになったカトリック教会の運営する精神科病棟のブライヤークリフ・マナー。
新聞記者として名を上げたいと、ラナ・ウィンターズ(サラ・ポールソン)から取材をさせて欲しいと、施設管理者のシスター・ジュード(ジェシカ・ラング)に、頼むところから物語は始まります。
連続殺人犯に興味をもつのは危険だと、ラナを軽くあしらったシスター・ジュートのもとに、裁判を受けられるか精神鑑定をする間だけ預かった「ブラッディ・フェイス」こと容疑者のキット・ウォーカー(エヴァン・ピーターズ)。
容疑者のキットとの面談をブライヤークリフ精神科病棟で行う精神科医のスレッドソン医師(ザッカリー・クイント)も到着し、事件は世間の注目を大きく集めていたのでした。
自分が無罪で、宇宙人に誘拐をされたと主張を続けるキットを、シスター・ジュードは鞭で打ち、常駐医のアーデン医師(ジェームズ・クロムウェル)は、実験という名のもとにキットを切り刻む悪夢のような実態だったブライヤークリフ。
そんな恐ろしい秘密を知らず、新聞記者としての野心のために「ブラッディ・フェイス」の取材をしようと精神科病棟に忍び込んだラナを捕らえたジュードは、ラナの同性愛を理由に、恋人のウェンディ (クレア・デュヴァル)を脅し、ラナを患者として閉じ込めてしまうのでした。
蔵商店
「ブラッディ・ファイス」として登場するキットも決して悪人にみえず、視聴者に疑問の投げかける演出。
宇宙人に誘拐されたと思わせるシーンも、なんの説明もなく、じらすだけでなんの説明もなし、施設の責任者で聖職者でもあるハワード司祭(ジョセフ・ファインズ)も不穏であやしく、不安と違和感を視聴者に煽るのです。
悪魔まで現れた精神科病棟
ジュードの恐ろしい策略で、精神科病棟に収容されてしまったラナが目撃したのは、予想をはるかに越えた恐ろしいものでした。
身寄りのない患者に人体実験や不正治療を施す残虐なアーデン医師や、聖職者でありながらアーデンの実験に目をつぶるハワード司祭。
ブライヤークリフの実態を世間に暴露しようと、患者のグレース(リジー・ブロシェレ)やシェリー(クロエ・セヴィニー)と脱出をもくろむも、脱走はあえなく失敗。
ラナは、同性愛の矯正という名のもと激しい拷問を受け、常軌を逸した病棟の現実に絶望をするのでした。
そんなときに両親に伴われ、やってきた青年ジェド。
不可解な言葉を話し、幻覚や幻聴に悩まされ、牛の腹を切り裂いて心臓を食べてしまったというジェドに、悪魔に取り憑かれたとしてジェドに「悪魔祓い」の儀式を行うハワード司祭。
エクソシストに耐えかねて、臓麻痺を起こし死んでしまったジェドの中の悪魔にみた司祭でしたが、悪魔が、その場に居合わせた純真で清らな心をもったシスター・メアリー・ユーニス(リリー・レーヴ)に乗り移ってしまったことに気付いたのは、だいぶ後になってからのことでした。
蔵商店
1960年代は、まだ多様性という概念さえない時代。
聖職者でありながら、ジュードもハワードも信仰を盾に正当化する持論が信じがたいのです。
教会にとって都合の悪いことをもみ消すシスター・ジュードの黒い思惑や、出世だけを夢見て、アーデン医師の研究で教会が注目されるならと、人体実験さえも黙認するハワード司祭の身勝手さは、それぞれ自分の中の欲望という悪魔に身をゆだねているとしか思えなかったです。
ブラディ・フェイスの正体
「ブラッディ・フェイス」として逮捕をされたキットの精神鑑定をブライヤークリフで続ける精神科医のスレッドソン。
無罪だと主張を続けるキットに、死刑にすることを潔しとせず、残酷な社会のせいで、残忍な行為に及んだとして、自白をして過ちと向き合って欲しいと、キットに裁判を受ける能力がないと判断をすることを打ち明けます。
ブライヤークリフでの虐待の日々で、自分の正気さえも疑い始めていたキットは、スレッドソンに言われるがまま、殺人の自白をしてしまうのでした。
治療を施すはずの場所のブライヤークリフで見かける恐ろしい虐待や不正治療に驚きが隠せないスレッドソンが声をかけたのは、不当な理由で収容をされていた新聞記者のラナ。
彼女が社会にとって脅威じゃないというスレッドソンの協力を得て、周りの監視を出し抜きブライヤークリフから脱出したラナ。
しかし、かくまわれたスレッドソンの自宅で気付いたのは「ブラッディ・フェイス」の正体。女性を顔の皮をはいで頭を切り落とす一連の残忍な犯行を続けていたのは、実は当のスレッドソンだったのです。
精神科医としてキットの精神鑑定を行うのは、自分の罪をなすりけるための卑劣な工作だったと悟ったラナ。
ブライヤークリフから逃れたにもかかわらず、スレッドソンのゆがんだ妄想に捕らえられ、逃れることが出来す、監禁をされ暴行をうけるのでした。
蔵商店
物語の中盤の、まさかの展開には驚愕の一言。
スレッドソンのどこまでも胸糞の悪い犯行動機にむかむかする有様で、挙句の果てに吐いたセリフが「ママ」!
ありとあらゆる角度でホラーの側面を投げ込んでくる「精神科病棟」ですが、作品中で何より寒気が走ったのは、このセリフでした。
ラナが、のちに気色悪すぎる殺人犯スレッドソンに「ママって!」と嫌悪感むき出しに吐き捨てたのに、激しく同意、納得したのでした。
悪魔に取りつかれたシスター・メアリー・ユーニス
人体実験から度が過ぎた実験で、怪物を作り続けるアーデンに協力をしていたのは、悪魔に獲りつかれたシスター・メアリー・ユーニス。
精神科病棟での不可解な出来事で対立したアーデンを糾弾しようとした奔走していたジュードでしたが、シスター・メアリー・ユーニスに取り憑いた悪魔の策略により、ジュードは失墜をします。
そしてアーデンだけでなくハワード司祭も巻き込み、ジュードを精神科病棟の患者へと奈落のことに突き落としたのでした。
その同時期に、スレッドソンの魔の手から逃げ出したラナ。でも脱出途中に遭い、ブライヤークリフに連れ戻されてしまいます。
絶望的な状況の中、キットの無実を知るラナは、キットと協力して、スレッドソンの罪の自供を録音、キットの無実の証明をする証拠を集めるのでした。
ブライヤークリフの監督だったシスター・ジュードを患者として閉じ込めたことで、シスター・メアリー・ユーニスの不信感を持つようになったアーデンとハワード司教。
ついに悪魔と対峙し、純真だったメアリーの死と引き換えに悪魔を追い払ったのです。
そして、ジュードもこれまでの曇っていた自分の行いに目を覚まし、罪のないラナを精神科病棟へと閉じ込めたことの贖罪にと、つてを使いラナの開放に尽力したのでした。
蔵商店
聖職者とは思えない、どこか世俗的だったジュードのもろさにつけこんだ悪魔の薄暗い狡猾さにも虫唾が走る!
ただ、ジュードもアーデンもハワード司祭の手によって、悪魔の排除される前には、すでに自分の惨い行いに罪悪感を持ち始めていたというのは皮肉だとも思いました。
狂気からの解放
ジュードの計らいにより、スレッドソンの罪の証拠を手に、ついにブライヤークリフからの脱出をしたラナ。
それにより、「ブラッディ・フェイス」としてのぬれ衣も晴れたキット。
そんなふたりは、それぞれに新たな生活に突き進むのでした。
そして時は流れ、カトリック教会から州へとブライヤークリフの売却が決まり、ハワード司教からも見捨てられ、時代からも取り残されてしまったジュード。
すべてを失い、朦朧と狂気に飲み込まれていたジュードに、最後に手を差し伸べたのは、驚くべき人物だったのです。
『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』あらすじ・感想まとめ
以上、ここまで『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』をレビューしてきました。
・オカルト要素もスプラッター要素も満載
・全員の正気を疑う恐ろしい世界
・悪に魅入られるのは聖職者も殺人鬼も関係がない
・「タブー」の、一切ない野心作
手放しで面白いと言える『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』は、とにかく怖い、本当に怖い!前作の「呪いの館」とは、異なる時代背景と設定で、ホラー要素をさらにパワーアップしています。
ありとあらやるタブーを取り払い、1964年に時代を切りとったのも、珠玉です。
というのも、人権侵害、男性優位、人種差別、同性愛の否定と今では考えられないレベルで虐げられていた当時の世相が、この作品の恐怖をさらに増幅させているのです。
そして登場人物の視点も巧妙です。
患者の治療を施す場所のはずの、ブライヤークリフ精神科病棟を管理する聖職者や医師の狂気が際立つ演出がなされており、その違和感が恐怖を駆り立てるのです。
そして上質な映画やドラマになれた視聴者でさえも予想のつかない展開も、作品の魅力です。
「悪に魅入られると、悪は忍び寄ってくる」というテーマ通り、聖職者も殺人鬼も悪に魅入られ、漆黒の闇へと堕ちていく恐ろしい世界を描いております。
前作から続投のジェシカ・ラングの怪演は健在で、今作でメインキャラクターの配役を得たサラ・ポールソンの恐怖におののく後を引く叫びは、視聴者を不安に陥れる力演。
精神的にも視覚的にも、怖い『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズ。続くシーズンでは、また違ったトーンの恐ろしい世界が待っていることでしょう。
『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』では、前作同様、あるいはそれ以上に情け容赦なく、バタバタと理不尽な死を遂げる登場人物たち。
はっきり言って、心の弱っている視聴者には、お勧めしません。
それぐらい、『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』は、グロテスクで怖いのです。
でもそれは、極上のホラー作品であることの証。
精神を健やかに整えて、強い心をもって、ご覧になってみてください。
視聴後には、低い声でうなると思います。