『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』は、ライアン・マーフィー制作総指揮のホラー・シリーズ第5弾。
シーズンごとに舞台と設定が変えながら、前シーズンより続けて出演するキャストの配役に変化をつけるスタイルは健在。
本作では、レディー・ガガとマット・ボマーを新たなキャストとして投入しており、過去のシーズンと全く違った雰囲気の作品に仕上げています。
『呪いの館』『精神病棟』『魔女の館』『怪奇劇場』から続投のキャシー・ベイツ、アンジェラ・バセット、サラ・ポールソン、エヴァン・ピーターズは、過去のシリーズで演じたキャラクターとは、ガラッと印象を変えた意外性に富んだ配役で、その変貌ぶりにも驚きます。
エロティックでミステリアスな伯爵夫人を力演したレディー・ガガは、『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』ドラマ初主演にしてゴールデン・グローブ賞を受賞。
曲者ぞろいの登場人物の中で、異彩を放っておりました。伏線が多く、予想外の展開の連続で、まるで結末がわからない『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズ。面白すぎて目が離せません!
・殺人鬼ジェームズ・P・マーチが建てたホテル
・伯爵夫人をめぐる愛憎劇
・殺人鬼の饗宴
・ここでは死ねない
それでは『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』をネタバレなしでレビューします。
目次
『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』あらすじ・感想
異質なたたずまいのホテル・コルテス
連続する猟奇殺人の捜査をするジョン(ウェス・ベントレー)が、事件に関する匿名電話を受けて手がかりを求めて訪れたのは古めかしく独特の雰囲気を醸し出すホテル・コルテス。ホテルのたたずまいに異質なものを感じるもののヒントはなく、ジョンに見えたのは事件とは関係のない5年前に行方不明になったジョンの幼い息子ホールデン(レノン・ヘンリー)の幻想だけ。
ホーデンが行方不明になったことで、妻アレックス(クロエ・セヴィニー)との関係がぎくしゃくするジョンは、家を出て捜査で訪れたホテル・コルテスのいわくつきの部屋に滞在することになったのでした。
時を同じくして、売り出されていたホテル・コルテスが買い取り、新しいオーナーとしてニューヨークからやってきたデザイナーのウィル(シャイアン・ジャクソン)。ホテルを会場に開催したファッション・ショーで元のオーナーの伯爵夫人(レディー・ガガ)がモデルのトリスタン(フィン・ウィットロック)に目をかけ、ペントハウスに一緒に住んで愛人のドノヴァン(マット・ボマー)を捨てたことで、曲者揃いのホテルの住人たちの間にさざなみがたちはじめるのです。
人の生き血を吸い生き延びる伯爵夫人
ホテル・コルテスにいつもいるのは、受付係のドノヴァンの母のアイリス(キャシー・ベイツ)と、スキンヘッドの女装家リズ・テイラー(デニス・オヘア)、それとホテルを住まいとする娼婦のサリー(サラ・ポールソン)。ジョンやウィル、トリスタンが、新たなメンバーとしてホテルに滞在するようになっても3人は、訳知り顔をするだけでなにも語りません。
実は伯爵夫人の正体は、ヒトの生き血を吸い100年の時を生き続けてきた不老不死の存在。愛人のドノヴァンと手を組んで、獲物をペントハウスに招き入れ、殺戮をくり広げてきたのです。その伯爵夫人がトリスタンを変異させたことがきっかけに、さまざまの思惑がうごめきはじめるのでした。
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殺人鬼ジェームズが建てたホテル
ホテル受付のアイリスが、刑事のジョンに語るホテル・コルテスの歴史は凄惨なものでした。
1925年に石油で財を成した創業者ジェームズ・P・マーチ(エヴァン・ピーターズ)が造りあげた豪華絢爛なホテルというのは、表向きの話。
実はサイコパスのマーチが、殺人を犯すためにあらゆる悪意を集結させて造り上げたホテルで、どれだけの数の人間が犠牲となったかわからないというのです。
隠し部屋に拷問部屋、死体を捨てるダクト・シュートまであるこのホテルは、マーチを含めた非業の死を迎えた霊の巣窟で、ホテルには人智を超えた世界が存在するとアイリスはジョンに断言するのでした。
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裏切りを許さない伯爵夫人
ホテルを取り戻すのにウィルとの結婚を画策する伯爵夫人、殺人事件の捜査を続けるジョン、嫉妬に駆られるドノヴァン、伯爵夫人に復讐を誓う元恋人のラモーナ・ロイヤル(アンジェラ・バセット)も加わり、ホテルを中心にそれぞれが不穏な行動に走ります。
伯爵夫人の夫でもあったサイコパスのマーチまで現れるようになり、ホテルは生きている人間、死んでいる人間が入り乱れるのでした。
そんな中、トリスタンと恋に落ちたリズ・テイラー。伯爵夫人の「創造物」のひとりで忠節を尽くすリズであっても、伯爵夫人はその裏切りが許せず、トリスタンを殺害。そのことでリズの伯爵夫人への忠誠心が薄れ、事態は大きく変化していくのです。
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ホテルでは死ぬわけにはいかない
伯爵夫人への復讐に燃えるラモーナ、嫉妬に駆られて暴走するドノヴァン、妻を取り戻したいマーチ、それぞれの歪んだ願いを遂げようとする中、ウィルとの結婚式を迎えた伯爵夫人。
用済みとなったウィルを、ラモーナに襲わせ殺してしまう予定外の事態にも陥る始末。
伯爵夫人は、捨てたはずのドノヴァンを呼び出し、悪びれもせずウィルの死体の処分を頼む横暴を発揮します。
しかし、そのドノヴァンも伯爵夫人が、大切にしていたものを奪ったことを告白、怒りと悲観に暮れる伯爵夫人に、「君を愛し続けるには死ぬしかない」と彼女への愛を口に殺されることを望むのでした。
そんな時に、伯爵夫人に反旗を翻したアイリスとリズが、銃を手にペントハウスに踏み込んできます。
伯爵夫人をかばい、その銃弾に倒れたドノヴァン。ホテルに永遠にしばりつけられることを潔しとせず、苦しい息の下、ホテルの外へと自分を運び出すようアイリスとリズに懇願するのでした。アイリスもまたドノヴァンを看取ることで、息子に執着する歪んだ親子関係から決別をしたのでした。
伯爵夫人の運命はいかに
アイリスとリズに命を狙われ瀕死の状態の伯爵夫人を救ったのはサリーでした。
刑事のジョンに激しく執着するサリーは、ジョンを自分のものにしたいと、伯爵夫人に助けてほしいというのです。
伯爵夫人をつけ狙うラモーナ、ホテルを手にしようと計画するアイリスとリズ、ジョンを殺しホテルに閉じ込めたいサリー、マーチの悪だくみ真意とは?
そしてジョンの捜査する猟奇事件の真相とは?全ての謎につながるのは伯爵夫人の存在。それぞれの思惑に伯爵夫人が対峙するのは果たして?
『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』あらすじ・感想まとめ
以上、ここまで『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』をレビューしてきました。
・レディー・ガガ演じる伯爵夫人が珠玉
・登場人物たちの喪失感
・すべてにつながる壮大なプロット
謎めいたストーリー展開
『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』は、レディー・ガガを主演に据えた『アメリカン・ホラー・ストーリー』の5作目にあたるシリーズ。
本作では、グロテスクな惨劇の直接描写よりも、ミステリアスな雰囲気の中で次々に殺人が起きるストーリー展開です。
吸血鬼、殺人鬼、幽霊とホテルの中では、現世とそうでない世界が入り乱れ、伏線が多く張られています。
一見、なんのつながりもないようなエピソードは、ひとつひとつがドミノのような効果が折り重なっています。
これは『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズの真骨頂ともいえる展開ですが、エンディングに向かうにつれて徐々に謎が解けていく運びは、やはり見事です。
そしてこの作品で不思議なのが、この殺人ホテルに閉じ込められてしまった彷徨える霊たちが、残虐なだけの存在に感じないこと。運悪くホテルに命を落とし、捕らわれの身となった幽霊たちに最後は同情すら覚えてしまうのです。
喪失感と悲哀
100年の長きにわたり獲物を求めて生きながらえる吸血鬼を、悲哀と喪失感を抱える魅力あふれる異形の存在として、気高く美しい伯爵夫人を演じたレディー・ガガ。ゴールデン・グローブ賞を受賞したのも納得です。
『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』では、どの登場人物も喪失感を抱えているのがポイント。
心にひそむ虚無を埋めるのに、それぞれのキャラクターは行動をしており、視聴者はそこに共鳴していくのです。
エヴァン・ピーターズの怪演
本作『ホテル』でもうひとつ特筆すべきはエヴァン・ピーターズの怪演。キャラクターの中で誰よりも残虐な殺人鬼ジェームズ・P・マーチをひょうひょうと魅力的に演じています。仰々しく狡猾な連続殺人犯なのに、嫌悪感をもたせることなく、どこか憎めないマーチを演じたエヴァン・ピーターズの役作りに脱帽です。
そして忘れていけないのは『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズの、おなじみのファン・サービス。シーズン1の『恐怖の館』から、霊媒師のビリー・ディーン・ハワード(サラ・ポールソン:二役)、シーズン3の『魔女団』からは魔女クイニー(ガボレイ・シディベ)がシリーズをクロス・オーバーして登場、過去のシリーズを思い出すきっかけと作るのに余念がありません。
ライアン・マーフィー作品にハズレなし
視聴者が予想もしない展開を確実にいれて驚かす『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズ。『ホテル』は、過去シリーズよりは残虐な要素は薄くなっているものの、そこはやっぱりホラー作品。
心の弱っている人にはお勧めしません。ただ、キャシー・ベイツ、アンジェラ・バセット、サラ・ポールソン、エヴァン・ピーターズの一流の役者陣が参加するライアン・マーフィー作品にハズレなし、そこにレディー・ガガとマット・ボマーが参加したのだから面白くないわけがありません。
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