『パンとバスと2度目のハツコイ』『サッドティー』などで恋愛映画の名手として知られる今泉力哉監督の最新作。
自分に振り向いてくれない異性を、どうしても追いかけてしまう登場人物たちのすれ違いを生々しく、しかしコミカルに描きます。
- メインキャスト4人+1人の実在感あふれる演技
- 細かい演出で描くキャラ描写
- 普通の価値観では割り切れない特殊な恋愛模様
- 『愛がなんだ』というタイトルの意味
それではさっそく映画『愛がなんだ』をレビューしたいと思います。
映画『愛がなんだ』作品情報 『愛がなんだ』で主演を努めた岸井ゆきのが、第43回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受……
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目次
『愛がなんだ』作品情報
作品名 | 愛がなんだ |
公開日 | 2019年4月19日 |
上映時間 | 123分 |
監督 | 今泉力哉 |
脚本 | 澤井香織 今泉力哉 |
原作 | 角田光代 |
出演者 | 岸井ゆきの 成田凌 深川麻衣 若葉竜也 穂志もえか 中島歩 片岡礼子 筒井真理子 江口のりこ |
音楽 | ゲイリー芦屋 |
主題歌 | Homecomings「Cakes」 |
【ネタバレ】『愛がなんだ』あらすじ・感想
『愛がなんだ』あらすじ
簡単なあらすじを書くと、28歳の山田テル子(岸井ゆきの)は友人の結婚式で出会った細身の年下男子・田中マモル(成田凌)のことを好きになり、彼の世話を焼いて肉体関係にもなります。
しかしテル子は、なぜかマモルの恋人ではありませんでした。
彼女がとにかく相手に尽くすタイプなので、マモルは半分便利な存在として体調が悪い時に呼び出したりなどしていたのです。
でもテル子は、そんな状態でもマモルに会えることを喜んでいました。
テル子の友人の葉子(深川麻衣)は話を聞いて「都合よく利用されてるだけじゃん。そんな俺様男やめときな」と注意します。
しかし、葉子も自分に惚れている年下男子のナカハラ(若葉竜也)を暇なときに呼び出して使い走りにしたり、暇つぶしの相手にしたり、たまに夜の相手をしてあげたりと無自覚ながらマモルと同じことをしていました。
ナカハラはナカハラでそんな状況に半分満足している様子。
テル子はマモルに急に呼び出されても、彼の家に飛んでいけるようにわざと職場で残業のふりをして時間を潰したりしていましたが、肝心の勤務中もマモルのことしか考えていないのでクビにされてしまいます。
それでもテル子は異常な前向きさで、これは逆にマモルと結婚することを考えればプラスだ!と張り切る始末。
しかし、それからしばらくしてマモルからテル子への連絡がぱったりと途絶えてしまいます。
数ヶ月たち、仕方なく求職活動をしていると、突然マモルから連絡が。
面接中だったにも関わらず、テル子は飛び出してマモルのところへ向かいます。
やっと会える!と思って指定の店に来てみると、マモルの隣には30代半ばの美術系専門学校の事務員をしている塚越スミレさん(江口のりこ)という女性がいました。
気だるそうにタバコを吸って、めちゃくちゃサバサバしている彼女にマモルはデレデレ。明らかに惚れていました。
一体この女のどこがいいのか、そして自分はなんで呼び出されたのか、理解できないテル子は混乱と怒りに苛まれます。
しかし、それでもマモルが好きという気持ちは変わりませんでした。
それからなぜかスミレさんはテル子のことが気に入ったようで、定期的に遊びの誘いが来ます。
テル子はスミレさんが来るということを餌にマモルも誘って、謎にスミレさんたちの友達とも含めて複数人で遊ぶという日々が続きます。
マモルはスミレさんの気を引こうと色々するのですが、彼女は全く興味なさげで空回り。
目の前でそんな様子を見せられるテル子は悶々としていきます。
そんなある日、マモルが友達の別荘を借りてBBQをしようと企画します。
しかしドタキャンが相次ぎ、別荘でのBBQはテル子、マモル、スミレさん、そして葉子を誘ったら代わりについて行かされることになったナカハラの4人で行われることに。
明らかに微妙な空気のBBQでしたが、夜に宅飲みをしている時に、ナカハラと葉子との関係性をスミレさんがおかしいと言い出し、ナカハラは反論し険悪なムードに。
そしてBBQから帰ってきたナカハラがある決断を下します。
それを聞いたテル子の心は揺れ動き、物語は予想外の方向に転がっていきます。
シライシ
キャストのアンサンブル
主人公のテル子は、ストーカー行為こそしていないものの明らかに恋愛で我を失っています。
そしてそんな彼女の恋心に甘えて利用しているマモル。
そんな彼らにツッコミを入れつつ自分も同じことをしている葉子、そして葉子に振り回されながらヘラヘラしているナカハラなどなど、あんまり共感できないキャラが出てきます。
ちなみにここで共感できないのは「こんな奴らいねーよ」ということではなく「こういう人いる!ていうか自分が現在、もしくは過去こうだった!」と思ってしまうからです。
シライシ
人物描写だけなら嫌になってしまう話なんですが、キャストの魅力が映画をチャーミングにしてくれています。
テル子を演じる岸井ゆきのは、圧倒的なチャーミングさでほとんど狂気に近い行動をとる主人公を親しみやすさを見せてくれます。
彼女の20代後半でもあどけなさの残る見た目や、たまに見せるやさぐれ感も可愛く、イタイ女性を見ているはずなのに応援したくなるし、見てる最中の多幸感はすごいです。
そして、そんなテル子がベタ惚れになるマモルことマモちゃんを演じる成田凌も、モテるのはわかるけど最低な、でも憎めない男を実在感たっぷりに演じています。
顔自体はもちろんめちゃくちゃイケメンなんですが、喋り方の気だるさや軽さ、ちょっとした仕草に情けなさと、天然の女たらしぶりが現れています。
テル子に見せる素っ気無さと、クラブでスミレさんに半分無視されながら横でヘラヘラ話を合わせているときの痛々しさやダサさも本当に成田凌か?と思ってしまうくらい残念な感じで完璧です。
シライシ
深川麻衣の万人受けする柔らかな可愛さも年下男を無神経に振り回す女子として説得力ありますし、若葉竜也の野暮ったいふにゃふにゃな感じのサブカル男子も、誰もが「後輩に一人くらいこういう奴いたな」と思わせてくれる実在感です。
彼が演じるナカハラが劇中で2回言う「幸せになりたいっすね」のニュアンスの使い分けも見事です。
マモちゃんが惚れてしまう、30半ばの自由な女性スミレさんを演じる江口のりこも絶妙です。
スミレさんは本当にただのギャグとして「マモちゃんなんでこいつに惚れんの?」と理解不能になる残念な女性ではなく、「あ、確かにこの人がモテるのもわかる」というカッコよさや色気もたたえています。
それが段々わかってくるのが、テル子と観客の気持ちがシンクロしていて見事です。
シライシ
江口のりこのカラっとした演技や、絶妙な台詞回しでの笑いの取り方も最高で、彼女が一番爆笑をかっさらっていきます。
片想いの交錯と恋愛を超えた理屈抜きの物語へ
テル子はマモちゃんに片想いをしていて尽くし続けますが、マモちゃんは振り向いてくれません。
彼は一人の相手に執着しないタイプなのかと思いきや、数ヶ月音信不通になったあと、自分が一方的に惚れているスミレさんを紹介してきます。
テル子はマモちゃんの片想いに気づいて、初めて会った日の帰り道、思わず文句を口ずさみそれがラップになっていくすごいシーンがあります。
シライシ
ここは単に奇をてらったシーンではなく、本来のラップの発祥に近い「自分のやりきれない感情を発露する」手段としてのライミングをしてしまうという、斬新かつ日本映画ではもっとも正当にラップを扱ったシーンになっていて必見です。
テル子意外に、ナカハラも惚れてる葉子に不毛に尽くしているのですが、彼がとある理由でテル子より先にその関係性に終止符を打ってしまうことを告白するシーンは、若葉竜也の名演も相まって本作の白眉となっています。
そこでテル子がタイトルにもなっている「愛がなんだよ、愛がなんだってんだよ」というセリフが、本作で描かれる愛の形を象徴しています。
シライシ
ただそばにいたい。もっと言うと、劇中で「私はマモちゃんになりたい」とテル子が語るとおり、ただ両想いになりたいというレベルを超えています。
そして、テル子がその想いを遂げるために終盤に取る行為は人によってはちょっと怖くなってしまいます。
今泉監督もどういう反応が来るか不安だったそうですが、意外とテル子のように「好きな人そのものになりたい」という気持ちを理解できる人も多かったようです。
テル子は最後はほとんど修羅の道に進んでしまうのですが、彼女本人は幸せそうなのでモヤモヤしつつも後味は悪くありません。
ちなみにラストカットがどんなシーンかというと、ゾウが出てくるのですが、それは海外の「目隠しをされた人たちが各々ゾウを触ってみるとそれぞれ思い描いたものが違った」という、人によって自称の解釈が違うということを表す逸話が元になっているそうです。
シライシ
人によって感想も分かれて各々の恋愛観や愛情の向け方が反映される作品です。
ぜひ複数人で見に行って論議してみてください。
『愛がなんだ』まとめ
[愛がなんだ]キャストの皆様、昨日は丸一日の取材と完成披露イベント、本当にありがとうございました!LINELIVEもとても楽しかったです👍成田凌さんによる自撮りで最後締めくくりました❇︎ #岸井ゆきの #成田凌 #深川麻衣 #若葉竜也 pic.twitter.com/MavuHaI4Fd
— 映画『愛がなんだ』 (@ai_ga_nanda) 2019年3月13日
以上、ここまで『愛がなんだ』について紹介させていただきました。
- 魅力満載のキャストたちのアンサンブル
- 愛や恋ではない究極の想いが描かれます
- 人によって側面を変える複雑な映画です