世の中にはファミレスで料理を運ぶ可愛らしいロボから、イラストレーターの間で議論が続く”AI絵師”など、さまざまなAIやロボがいます。
映画でも様々なAIやロボットをテーマにした物語があります。10月21日(金)から公開される映画『アフター・ヤン』は、派手な作品ではないものの、これまでの作品と一線を画す設定やストーリーが見られました。
・人種や文化を混ぜ合わせた世界観
・一軒家に住みたくなる映画?
それでは『アフター・ヤン』をネタバレなしでレビューします。
目次
『アフター・ヤン』あらすじ【ネタバレなし】
「テクノ」と呼ばれるAIロボが普及した近未来
近未来のどこか。一般家庭には「テクノ」と呼ばれるAIロボットが普及していた。
ヤン(ジャスティン・H・ミン)と呼ばれるテクノは、茶葉の販売店を営むジェイク(コリン・ファレル)、妻・カイラ(ジョディ・ターナー=スミス)、養子で中国系の少女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)の家に家政婦として仕えている。
ヤンはミカのことを「メイメイ(妹妹)」と呼び、ミカもまたヤンを「グァグァ(哥哥)」と呼んでおり、まるで本当の兄弟のように親しい間柄となっていた。しかしある日、ヤンが突如として動かなくなってしまう。
ヤンから見つかった秘密のパーツ
ジェイクたちはヤンを修理できないかと、テクノの製造会社「B&S社」に修理依頼をする。しかしヤンの故障部分は、法律上触ることができないコアに起きていたため、買い替えるしか方法がないと言われてしまう。
ヤンが動かなくなったことでミカはふさぎ込んでしまい、ジェイクは違法と知りながらも、隣人に紹介された怪しいメカニックに修理を依頼する。
すると、ヤンには特殊なパーツが組み込まれていることが明らかとなる。
ヤンと謎の女性の関係とは?
次にジェイクは博物館でテクノの展示を運営するクレオ(サリタ・チョウドリー)に、ヤンに組み込まれたパーツを調べてもらう。
そのパーツは1日数秒だけヤンが見たものを録画できるメモリバンクであり、クレオはテクノの秘密を知るためにも重要な資料だとジェイクに伝える。
ジェイクはヤンに保存された膨大な動画の中から、一人の若い女性を見つける。それはジェイクたちも知らない、ヤンに隠された秘密の記憶のだった。
果たしてヤンはジェイクたちの家にくる前に、どんなモノを見てきたのか…。
『アフター・ヤン』感想
SFドラマであり哲学的なストーリー
これまでのAIをテーマにした映画といえば、AIが人間に憧れてなろうとしたり(逆もまたしかり)、AIが人間界を脅かす存在として描かれることが多くありました。
例えば『アンドリューNDR114』や『トランセンデンス』は作風は違えど前者であり、『エクス・マキナ』は後者といえるでしょう。もちろん『her』や『ジェクシー』など、あくまでAIと人間の境界線を越えずに関係を築く作品もたくさんあります。
『アフター・ヤン』の異色な点は、AIロボットのヤンが故障してしまい、残された人間が”彼”のメモリを辿って秘密を知っていく構成です。
AI映画といえば、AI=不滅の存在として描かれることが多い中で、本作はその真逆を行くストーリーが印象的。これにより、人間とAIの関係性を繊細に描いていました。近い将来、この一家とAIロボットのような関係や出来事が現実になりそうな気さえします。
既存のSF映画のような派手な設定や展開はなく、やや難解なストーリーではあります。しかしAIという存在でも、人間ドラマと同じような繊細さを感じる可能性をもっているのかもしれません
人種や文化を混ぜ合わせた世界観
本作のユニークな点は、ストーリーはもちろん、制作陣の顔ぶれも非常にボーダーレスとなっているところです。
ジェイクとカイラ夫妻は中国人の養子ミンを迎え入れたり、ジェイクは中国茶を売ることに人生をささげています。作中での食事もラーメンを食べるなど、いたるところで中華圏の文化が登場しました(ちなみに作中の舞台は明言されていません)
また、テクノのほかにこの世界ではクローン技術も浸透しており、ジェイクたちの隣人はクローンの娘と暮らしています。(ただし、ジェイクはクローンを家族に迎えている隣人に否定的)
作中では文化面ではもちろん、科学技術の面でも様々な価値観が浸透しているように感じられます。
さらに『アフター・ヤン』の制作陣を見てみると、監督・脚本・編集を務めたコゴナダ監督は韓国系アメリカ人。メインテーマ曲「Memory Bank」を手掛けたのは、日本でも広く知られる坂本龍一です。また、ロサンゼルスを拠点に活動する作曲家Aska Matsumiyaがサントラを担当しました。
なかでも印象的なのが、ニューヨークで活動する日系アメリカ人のシンガーソングライターMitskiによる「グライド」のカバーです。
この曲、岩井俊二監督の代表作である『リリイ・シュシュのすべて』のEDで使用されており、映画ファンには驚きの起用となっています。「グライド」の歌詞が『アフター・ヤン』にリンクしていると感じられました。
キャストや作中の世界観だけでなく、制作陣や起用する音楽まで非常にボーダーレスな点は、本作最大のポイントとなっています!
一軒家に住みたくなる映画?
実はストーリーや設定以外にも気になる点がひとつ。それはジェイクたちが暮らす家です。
本作のシーンは多くが「家」で展開しており、それゆえに間取りやインテリアも非常に目を惹きます。平屋で中庭があって、庭には立派な木まで生えているなど、日本人目線で見れば立派な豪邸です。しかし、海外では決して裕福ではないジェイク一家向けの小さな家なんだとか…汗
実は監督のコゴナダは大の小津安二郎ファン。『アフター・ヤン』ではその影響を受け、ジェイクたちの家を中心にした、SF映画らしくない繊細な演出が光る作品となっていました。家族の関係を題材にしているのも、小津監督からのインスパイアかもしれません。
それにしても、ジェイクたちの家が本当に素敵だったので、小さい平屋なら日本でも実現可能かも?家を建てる予定の人は、思わぬところでよい刺激を受けるかもしれません!(笑)
『アフター・ヤン』あらすじ・感想まとめ
・作中も制作陣もボーダーレスな映画
・SF要素だけでなく「家」にも注目してほしい!
以上、ここまで『アフター・ヤン』をレビューしてきました。
映像、設定、音楽…どこを切り取っても儚くて繊細な世界観は、既存のSF映画にとらわれない見どころがあります。
オチや答えを期待してみるより、家族とのつながりや人とロボットが持つ「記憶」について考えさせられる作品でした!