アカデミー賞とは、アメリカ映画の発展を目的に優れた実績を残したスタッフ、キャストを讃えるための賞です。
歴史は非常に古く、第1回アカデミー賞は1929年に開催されました。
元々アメリカ映画界の内輪で行われるローカルな賞ですが、アメリカの映画産業は他国と比べても比肩する存在が無いほどビッグなので、事実上地球上最大の映画賞と言えます。
受賞作、受賞者は映画芸術科学アカデミーの6,000人を超える会員による投票で決定し、受賞者に渡されるトロフィーの愛称から「オスカー」とも呼ばれます。
アカデミー賞は超ビッグイベントであるため、授賞式は生放送され受賞作の興行に多大に影響し、受賞予想はブックメーカー(賭け)の対象にもなっています。
今回はアカデミー賞の予想方法や傾向と対策を解説しながら、2020年の第92回アカデミー賞を実際に予想してみたいと思います。
目次
アカデミー賞はどうやって予想するのか?
ニコ・トスカーニ
予想方法は簡単です。アカデミー賞には賞傾向のよく似た前哨戦と見なされている賞がいくつかあります。
それらの映画祭で頻繁に名前が挙がっている作品は間違いなく有力候補です。
具体的には下記のようなものがあります。
以下、有力な前哨戦と賞の概要です。
トロント国際映画祭
カナダの映画祭。北米最大の映画祭だが審査員が審査する形式ではないノン・コンペティションの映画祭です。
観客投票で決まる観客賞が事実上の最高賞で、受賞作はアカデミー賞に絡むことが多い。
2019年9月5日から15日まで行われた第44回の結果は以下の通り。
- 観客賞受賞
『ジョジョ・ラビット』:監督タイカ・ワイティティ
- 観客賞 次点1位
『マリッジ・ストーリー』:監督ノア・バームバック
- 観客賞 次点2位
『パラサイト 半地下の家族』:監督ポン・ジュノ
サテライト賞
ジャーナリスト団体の国際プレスアカデミーが主催する賞。
2019年12月19日に発表された第24回の受賞結果は以下の通り。
- 作品賞(ドラマ)
『フォードvsフェラーリ』
- 作品賞(コメディ/ミュージカル)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 主演男優賞(ドラマ)
クリスチャン・ベイル『フォードvsフェラーリ』
- 主演男優賞(コメディ/ミュージカル)
タロン・エジャトン『ロケットマン』
- 主演女優賞(ドラマ)
スカーレット・ヨハンソン『マリッジ・ストーリー』
- 主演女優賞(コメディ/ミュージカル)
アウクワフィナ『フェアウェル』
- 助演男優賞
ウィレム・デフォー『ザ・ライトハウス(原題)/The Lighthouse』
- 助演女優賞
ジェニファー・ロペス『ハスラーズ』
- 監督賞
ジェームズ・マンゴールド『フォードvsフェラーリ』
- 脚本賞
ノア・バームバック『マリッジ・ストーリー』
- 脚色賞
トッド・フィリップス&スコット・シルバー『ジョーカー』
ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞
映画の普及促進活動をしているNGO組織、ナショナル・ボード・オブ・レビューが授与する賞。
賞を授与し始めたのは1929年と非常に歴史が深い。
2019年12月3日に発表された第91回の受賞結果は以下の通り。
- 作品賞
『アイリッシュマン』
- 監督賞
クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 主演男優賞
アダム・サンドラー『Uncut Gems(原題)』
- 主演女優賞
レニー・ゼルウィガー『ジュディ 虹の彼方に』
- 助演男優賞
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 助演女優賞
キャシー・ベイツ『リチャード・ジュエル』
- 脚本賞
ジョシュ・サフディ、ベニー・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン『Uncut Gems(原題)』
- 脚色賞
スティーブン・ザイリアン『アイリッシュマン』
- 外国語映画賞
『パラサイト 半地下の家族』
AFI賞
映像に関わる様々な活動を促進する機関であるAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が毎年発表している映画トップ10。
2019年の結果は以下の通り。
- 『1917 命をかけた伝令』
- 『フェアウェル』
- 『アイリッシュマン』
- 『ジョジョ・ラビット』
- 『ジョーカー』
- 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
- 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
- 『マリッジ・ストーリー』
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 『リチャード・ジュエル』
サウスイースタン映画批評家協会賞
アメリカ合衆国南東部の6つの州で活動する評論家の団体が授与する賞。
2019年12月9日に発表された第28回のランキングと各賞の結果は以下の通り。
- 『パラサイト 半地下の家族』
- 『アイリッシュマン』
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 『マリッジ・ストーリー』
- 『1917 命をかけた伝令』
- 『ジョジョ・ラビット』
- 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
- 『フェアウェル』
- 『アンカット・ダイヤモンド』
- 『フォードvsフェラーリ』
- 作品賞
『パラサイト 半地下の家族』
- 監督賞
マーティン・スコセッシ『アイリッシュマン』
- 外国語映画賞
『パラサイト 半地下の家族』
- 脚色賞
スティーヴン・ザイリアン『アイリッシュマン』
- オリジナル脚本賞
ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン『パラサイト 半地下の家族』
- 主演男優賞
アダム・ドライバー『マリッジ・ストーリー』
- 主演女優賞
レネー・ゼルウィガー『ジュディ 虹の彼方に』
- 助演男優賞
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 助演女優賞
ローラ・ダーン『マリッジ・ストーリー』
- アニメ映画賞
『トイ・ストーリー4』
放送映画批評家協会賞
北米最大の批評家団体、放送映画批評家協会が選出する賞。
ニコ・トスカーニ
各種組合賞
プロデューサー、映画監督、俳優、脚本家、技術者などアメリカで映画産業に関わる人たちが所属する各種組合が同業者に授与する賞。
各種組合員はアカデミー会員を兼ねている場合も多いのでアカデミー賞への影響が強い。
ニコ・トスカーニ
ゴールデン・グローブ賞
ハリウッド外国人映画記者協会が選出する賞。
1944年に創設された歴史の深い賞で、これ単体でも注目度が高い。
ニコ・トスカーニ
- 作品賞(ドラマ)
『1917 命をかけた伝令』
- 主演男優賞(ドラマ)
ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
- 主演女優賞(ドラマ)
レニー・ゼルウィガー『ジュディ 虹の彼方に』
- 作品賞(コメディ/ミュージカル)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 主演男優賞(コメディ/ミュージカル)
タロン・エジャトン『ロケットマン』
- 主演女優賞(コメディ/ミュージカル)
オークワフィナ『フェアウェル』
- アニメーション映画賞
『MissingLink(原題)』
- 外国語映画賞
『パラサイト 半地下の家族』
- 助演男優賞
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 助演女優賞
ローラ・ダーン『マリッジ・ストーリー』
- 監督賞
サム・メンデス『1917 命をかけた伝令』
- 脚本賞
クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 作曲賞
ヒドゥル・グドナドッティル『ジョーカー』
- 主題歌賞
“(I’m Gonna)Love Me Again”『ロケットマン』
英国アカデミー賞
イギリスの映画産業従事者らの団体、BAFTAが授与する賞。BAFTA賞とも呼ばれます。
米アカデミー会員にはイギリス人も相当数おり、BAFTAの会員を兼ねている人も多いそうです。
ニコ・トスカーニ
アカデミー賞の傾向と対策
ずばり、アカデミー賞が好きな映画はどんな映画でしょうか?
ニコ・トスカーニ
アカデミー賞を決めるアカデミー会員は6,000人を超える大所帯です。
前述のとおり、アカデミー賞はもともとアメリカのローカルな賞でしたが、アメリカ映画界が拡大していくにつれてアカデミー会員の国籍・人種も雑多なものに拡大しました。
とりわけ、2016年のアカデミー賞で主要部門が白人で独占されたことが物議を醸し、映画技術科学アカデミーは「マイノリティーの会員を2020年までに倍に増やす」と確約したため大改革が進んでいます。
その影響で日本人のアカデミー会員も増加しており、有名どころだと是枝裕和、北野武、河瀨直美などが新たに会員になっています。
ニコ・トスカーニ
その反動がモロに来たのが、2019年のアカデミー賞です。
作品賞は『グリーンブック』(人種問題の映画)。
監督賞は『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン(メキシコ人)。
主演男優賞は『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレック(アラブ系)。
助演男優賞は『グリーンブック』のマハーシャラ・アリ(アフリカ系、しかもイスラム教徒)。
助演女優賞は『ビール・ストリートの恋人たち』のレジーナ・キング(アフリカ系)。
脚本賞はスパイク・リー(アフリカ系)。
ニコ・トスカーニ
そんなポリティカル・コレクトネスを意識している21世紀のオスカーですが、それでもやはり「誰にも嫌われない映画」が好かれていることに変わりないと考えています。
そして、2019年と同様のトレンドで行くならば、作品賞を獲るべきは『ブラック・クランズマン』だったと思います。
『ブラック・クランズマン』は「KKKに潜入捜査した黒人警察官」という嘘みたいな実話の映画化で、エンターテイメント要素を残しつつも社会派な側面が強くかなり前のめりな構成でした。
対して作品賞を受賞した『グリーンブック』は、人種問題を扱いながらも「黒人ジャズピアニストと白人運転手の人種を超えた友情」という普遍的で穏健な着地をしている作品です。
この両者がテーブルに並んだ結果、優先されたのは『グリーンブック』でした。
ニコ・トスカーニ
また、アカデミー賞は娯楽性と芸術性が相半ばした中庸的な作品を好みます。
過去の作品賞受賞作であれば、びっくり実話のサスペンス『アルゴ』(2012)、トーキー映画移行時代のハリウッドを舞台にたっぷり映画愛を歌った『アーティスト』(2011)、戦中の実話ドラマでありながらコメディ要素もある『英国王のスピーチ』(2010)など特にアカデミー賞的なチョイスの作品だと思います。
2020年アカデミー賞予想
ニコ・トスカーニ
第92回アカデミー賞を競いそうな作品を並べてみました。
- すべて2019年公開作なので公開年は省きます。
- 記事執筆時点で英国アカデミー賞とアメリカプロデューサー組合賞の候補が発表されていませんが、これらの候補発表とアカデミー賞の候補発表は1週間ほどしか違わないので、2019年12月下旬時点で揃っている材料で予想しています。
本命=作品賞を争う勢い
第82回アカデミー賞以降、作品賞は「会員投票で5パーセント以上の支持を集めた作品のうち5本以上10本以内」という規定になっています。
ここ5年の作品賞候補は毎年7〜8本で推移していますので、とりあえず8本選出してみました。
- 『1917 命をかけた伝令』(サム・メンデス監督)
- 『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック監督)
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ監督)
- 『フォードvsフェラーリ』(ジェームズ・マンゴールド監督)
- 『アンカット・ダイヤモンド』(ベニー・サフディ、ジョシュ・サフディ監督)
- 『ジョジョ・ラビット』(タイカ・ワイティティ監督)
- 『アイリッシュマン』(マーティン・スコセッシ監督)
- 『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督)
対抗=作品賞候補に滑り込みそう
- 『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(ライアン・ジョンソン監督)
- 『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)
- 『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ監督)
- 『フェアウェル』(ルル・ワン監督)
- 『2人のローマ教皇』(フェルナンド・メイレレス監督)
- 『ルディ・レイ・ムーア』(クレイグ・ブリュワー監督)
- 『ロケットマン』(デクスター・フレッチャー監督)
穴=ひょっとしたら作品賞候補に滑り込むかも
- 『スキャンダル』(ジェイ・ローチ監督)
- 『ハスラーズ』(ローリーン・スカファリア監督)
- 『リチャード・ジュエル』(クリント・イーストウッド監督)
2020年アカデミー賞総括
作品賞
アカデミー賞は大作映画にも小品にもチャンスのある賞です。
毎年、候補に比較的低予算で作られた映画が一本は滑り込んでおり、『ムーンライト』(2016)のように受賞までこぎつけることもしばしばあります。
2020年の小品枠は『マリッジ・ストーリー』『フェアウェル』『アンカット・ダイヤモンド』の3本が争う様相で『マリッジ・ストーリー』が他2本から頭1つ分リードしています。他は大作、特に有名監督の新作が目立ちます。
『1917 命をかけた伝令』『アイリッシュマン』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はサム・メンデス、マーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノという超大物監督の最新作。
内容も「戦争もの」「マフィアもの」「時代もの」という過去に受賞例が山ほどあるウケの良い題材で、いかにも会員が好みそうです。
『フォードvsフェラーリ』はこれもアカデミー賞の大好きな実話もの。
ジェームズ・マンゴールド監督は、同じく実話ものの『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)で主要部門を争った経験があります。
『ジョジョ・ラビット』はトロント国際映画祭の観客賞受賞作。
ニコ・トスカーニ
『ジョーカー』はヴェネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作で、世界一有名なアメコミの悪役であろうジョーカーを主人公にした話題作。
ニコ・トスカーニ
『パラサイト 半地下の家族』は作品評価はすこぶる高いのですが、こちらは韓国語の韓国映画であることが大きなマイナスになりそうです。
未だかつて外国語(非英語)の映画が作品賞になったことは無く、本命は国際長編映画部門と考えるのが妥当でしょう。
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』はアガサ・クリスティー風のコメディ調サスペンスで娯楽色の強い作品。
評判は非常にいいですが、アカデミー賞は娯楽色の強すぎる作品に冷たいので作品賞は微妙そうです。
監督賞
今年はおなじみのビッグネームがずらりと並んでいます。
メンデスとスコセッシは、監督賞を受賞済み。タランティーノは候補経験あり。
バームバックは監督部門の候補は未経験ですが、脚本賞候補経験あり。
ニコ・トスカーニ
候補のもう1枠ですが、存在感を示しているのが『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノです。
もともとアカデミー賞の主要部門でも、監督賞は比較的外国語映画(非英語圏)にも寛容で、2019年のアカデミー賞ではポーランド映画『COLD WAR あの歌、2つの心』(2018)のパヴェウ・パヴリコフスキと、メキシコ映画『ROMA/ローマ』(2018)のアルフォンソ・キュアロンが監督賞を争い、キュアロンが監督賞を獲得しています。
過去にも『愛、アムール』(2012)のミヒャエル・ハネケ、『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)のジュリアン・シュナーベル、『シティ・オブ・ゴッド』(2002)のフェルナンド・メイレレス、『グリーン・デスティニー』(2000)のアン・リー、『ライフ・イズ・ビューティフル』(1997)のロベルト・ベニーニなどが非英語作品で候補になっており、日本からも勅使河原宏が『砂の女』(1964)、黒澤明が『乱』(1985)で候補になったことがあります。
『パラサイト 半地下の家族』の本命は国際長編映画部門ですが、いくつかの前哨戦で主要部門を争っているので作品賞は無理でも監督賞なら可能性がありそうです。
また、フランス映画の『Portrait of a Lady on Fire』がアメリカの批評家から高評価を獲ており、監督のセリーヌ・シアマがいくつかの賞で監督賞候補に挙がっています。
ニコ・トスカーニ
スペインの名匠ペドロ・アルモドバルも可能性があるかもしれません。
また、『ハングオーバー』シリーズなどコメディのイメージが強かったトッド・フィリップスがシリアスな『ジョーカー』で成功を収めたことも評価されそうです。
主演、助演賞
演技の評価は作品そのものの評価に引っ張られる場合が多いのですが、アカデミー賞は主要部門の受賞作をある程度分散させたいらしく、演技部門と作品賞はバラけることも多いです。
『ロケットマン』でエルトン・ジョンを演じたタロン・エジャトンと『ジュディ 虹の彼方に』でジュディ・ガーランドを演じたレニー・ゼルヴィガーは、実在の人物+生歌というアカデミー会員の大好きな要素を揃えた賞ウケの良い役。
『レイ』(2004)でレイ・チャールズに扮して生歌を披露したジェイミー・フォックス、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でジューン・カーター・キャッシュに扮して生歌を披露したリース・ウィザースプーン、『歌え!ロレッタ愛のために』(1980)でロレッタ・リンに扮して生歌を披露したシシー・スペイセクなどは前哨戦で圧倒的な強さを見せて、そのままアカデミー賞を受賞しており、エジャトンとゼルヴィガーもこのまま候補入りまで行く可能性は高そうです。
他、クリスチャン・ベールは『フォードvsフェラーリ』で実在のレーサー、ケン・マイルズに扮しておりこちらも高評価です。
同じく実在の人物枠で、『ルディ・レイ・ムーア』でコメディアン、ラッパーのルディ・レイ・ムーアを演じたエディ・マーフィーも高評価。
話題の役と言えばジョーカーも外せません。
『ダークナイト』(2008)でジョーカーを演じたヒース・レジャーはアカデミー助演男優賞を受賞しています。
『ジョーカー』で新しいジョーカーを演じたホアキン・フェニックスも大変な評判になっており、今度はジョーカーが主演部門を争いそうです。
ニコ・トスカーニ
小品枠で先頭を走っている『マリッジ・ストーリー』はアンサンブル劇で、アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン、ローラ・ダーンの演技が高く評価されています。
同じく小品で主演男優賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザシー』(2016)や、主演女優賞と助演男優賞を獲得した『スリー・ビルボード』(2017)とイメージが重なります。
同じく小品である『アンカット・ダイヤモンド』のアダム・サンドラー、『フェアウェル』のアウクワフィナも可能性がありそうです。
そして、演技部門で面白いのが「me too」運動を描いた『スキャンダル』。
ニコ・トスカーニ
アメリカ映画界を騒がせたハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ騒動もまだ記憶に新しいので、ポリティカル・コレクトネスを意識した会員から票が集まりそうです。
若手女優勢ぞろいで古典文芸作を映像化した『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』では、シアーシャ・ローナンとフローレンス・ピューが高評価。
他、評価が高いところだと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピット。
ニコ・トスカーニ
『アイリッシュマン』のアル・パチーノとジョー・ペシの大ベテランコンビは同一作品内で票割れが起きそうですが、片方か両方が助演男優賞部門に入りそうです。
『2人のローマ教皇』はジョナサン・プライスとアンソニー・ホプキンスというこちらも大ベテランの共演。評価が演技に集中しているので滑り込みがありそうです。
同じくベテランスター俳優のトム・ハンクスが『A Beautiful Day in the Neighborhood』、同じくベテランのキャシー・ベイツが『リチャード・ジュエル』、ジェニファー・ロペスが『ハスラーズ』で高評価を得ており、演技部門を争う可能性が高そうです。
前作『ゲット・アウト』(2017)ほどの評価は得られなかったものの、ジョーダン・ピール監督の『アス』も可能性がありそう。
いくつかの賞でルピタ・ニョンゴが主演女優賞の候補に挙がっています。
脚本賞・脚色賞
脚本の評価は作品自体の評価と密接に結びついているため、作品賞候補に挙がる映画は脚本賞でも名前が挙がる場合が多いです。
アカデミー賞で脚本部門は、オリジナル脚本の脚本賞と原作付きの脚色賞に分かれています。
原作無しのオリジナル脚本は比較的低予算な小品に多い傾向にあり、大作は原作付きが多めです。
オリジナル脚本では作品賞の有力候補でもある『マリッジ・ストーリー』と『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が強力。
双方とも脚本が監督兼任で、バームバックもタランティーノも元より脚本家としての評価が高い人です。
バームバックは『イカとクジラ』(2005)で脚本賞候補を経験済み。
タランティーノは『パルプ・フィクション』(1994)と『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)ですでに2度受賞しています。
脚本部門は外国語映画にも優しい部門で、韓国語の韓国映画ながら評価が非常に高い『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノも候補に挙がりそうです。
作品賞レースでは後れを取っていますが、『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』はアガサ・クリスティーを意識したコメディ調サスペンスで、娯楽要素の強い作りなので面白そうです。
ニコ・トスカーニ
監督・脚本のライアン・ジョンソンは『LOOPER/ルーパー』(2012)でもいくつかの主要な前哨戦で脚本賞の候補になりましたが、アカデミー賞では候補漏れしました。二度目の正直なるでしょうか?
小品の『フェアウェル』『アンカット・ダイヤモンド』も高評価。
脚色賞はこの部門で常連のスティーヴン・ザイリアンが今回も候補に挙がりそうです。
ザイリアンは『シンドラーのリスト』(1993)で脚色賞を受賞済みで、過去4度に渡り候補になっている実績たっぷりな名人です。
作品賞レースでは、微妙な『ジョジョ・ラビット』『ジョーカー』『2人のローマ教皇』『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』も可能性がありそうです。
日本映画
日本映画では近年、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018)が外国語映画賞の候補になって話題になりましたが、近年の日本で特に評価が高いのがアニメです。
2019年は『天気の子』と『若おかみは小学生!』が賞レースを賑わせており、アニメーション映画賞の可能性がありそうです。
ただし、賞レースでも特に評価が高いのは『トイ・ストーリー4』で、前哨戦ではほぼ圧勝状態です。
それに続くのが『アナと雪の女王2』『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』というのが現時点の勢力図で、フランス産アートアニメ『失くした体』も侮れない存在感を発揮しています。
ニコ・トスカーニ
まとめ
以上、ここまで2020年度のアカデミー賞を予想してみました。
執筆時点で英国アカデミー賞とアメリカ製作者組合賞という非常に重要な2つの賞のノミネーションが未発表だったため、多少は勢力に変動があるかもしれませんが、候補作は出揃った感があり大きな変動な無いものと予想されます。
第92回アカデミー賞の候補発表は2020年1月13日の予定です。注目ですね!