別の拙記事にて
映画が成熟しきって、今日の形に近づいたのは1990年代だと思います。
異論、反論はあると思いますが、1990年代半ば以降の映画と最新作は映像表現の基本的な成熟度において大きく遜色ないと思います。
というわけで、今回は「70年代のおすすめ名作映画20選!アメリカンニューシネマ以降の傑作を50年代までのハリウッド映画と比較して紹介!」の続きにして最終章、1990年代アメリカ映画私的傑作選です。
目次
- 1.1980-1990年までに何があったのか?
- 2.私的1990年代アメリカ映画傑作選
- 2.1『グッドフェローズ』(1990)
- 2.2『羊たちの沈黙』(1991)
- 2.3『許されざる者』(1992)
- 2.4『シンドラーのリスト』(1993)
- 2.5『ターミネーター2』(1991)
- 2.6『ジュラシック・パーク』(1993)
- 2.7『トイ・ストーリー』(1995)
- 2.8『インデペンデンス・デイ』(1996)
- 2.9『ヒート』(1995)
- 2.10『パルプ・フィクション』(1994)
- 2.11『ショーシャンクの空に』(1994)
- 2.12『セブン』(1995)
- 2.13『タイタニック』(1997)
- 2.14『プライベート・ライアン』(1998)
- 2.15『ファーゴ』(1996)
- 2.16『ブギーナイツ』(1997)
- 2.17『マトリックス』(1999)
- 3.今でも楽しめる傑作揃い
1980-1990年までに何があったのか?
「70年代のおすすめ名作映画20選」と別の拙記事
今回は短く、1980年代から1990年代まで何が起きたか概説します。
CG(デジタル技術)の成熟
映像表現で最も大きいのはこれではないでしょうか。
CG(コンピュータグラフィックス)が初めて映画に採用されたのは『トロン』(1982)ですが、残念ながら『トロン』をきっかけにCGが大々的に使われることにはなりませんでした。
飛躍的な進歩を遂げるのは1990年代の前半で、以降、CG技術により視覚化不可能な表現は存在しなくなりました。
1990年代のCGについては後述します。
『トロン』は28年越しに続編『トロン: レガシー』(2010)が公開されましたが、およそ30年の間にどれほど技術が進歩したか両作を見比べると感慨深いです。
マッチョ俳優の台頭
1970年代に『ロッキー』(1976)でまさかのサクセスストーリーを築き上げたシルヴェスター・スタローンは『ランボー』(1982)と本作に続く一連の続編でマッチョ俳優としての地位を確固たるものにします。
彼が後期高齢者になった今でもマッチョ俳優としてのパブリックイメージを守り続けていることには頭が下がります。
1980年代にはもう一人のスターマッチョ俳優が誕生しました。
シュワちゃんの愛称で日本のファンにはお馴染みのアーノルド・シュワルツェネッガーです。
スタローンと一個違いのシュワちゃんは『コナン・ザ・グレート』(1982)の主演でニッチなボディビルチャンピオンから一般に知られるアクション俳優へとモデルチェンジします。
彼もスタローンと同じく、今もってマッチョ俳優としてのパブリックイメージを維持し続けています。
元全米空手チャンピオンのチャック・ノリスは1970年代に俳優に転身していますが、代表作となる『地獄のヒーロー』(1984)『デルタ・フォース』(1986)はともに1980年代です。
また、アクション専門ではなくマッチョ俳優でもありませんが、ブルース・ウィリスが記念すべきシリーズ一作目『ダイ・ハード』(1988)に主演を果たしています。
彼らは『エクスペンダブルズ2』(2012)に揃って出演しています。
アクションの成熟
これがいつからの流れかわかりませんが、アクションの表現が成熟しました。
『ランボー』やシュワちゃん主演の『コマンドー』(1985)はマッチョな大男がボコボコ殴り合ったり、ボンボン爆発が起きたりとアクションがかなり大雑把です。
ですが、1980年代になると明らかにリアル寄りのアクションが登場します。
マニアックなアクション映画『刑事ニコ/法の死角』(1988)はアクション専業俳優スティーヴン・セガールの初主演作です。
セガール演じるニコ・トスカーニ刑事の強さはもはや人間離れレベルですが、セガールのアクションは合気道が主体で見た目は地味でも本当に痛そうです。
『ダイ・ハード』の主人公、ジョン・マクレーン刑事はシリーズが進むごとにどんどん超人化していますが、初期のマクレーンはタフなことを除けば能力的には一介の刑事で
泥臭くボロボロになりながら勝利を収めるさまがリアルです。
以降、アクションの表現はさらに進化します。
スターウォーズ旧三部作(1977-1983)と比べ新三部作(1999-2005)はだいぶ評判が悪いですが、漫然とライトセイバーを振り回していただけの旧三部作と比べ、
少なくとも新三部作はアクションが段違いに
成熟しており、力関係や駆け引きが表現されるようになっています。
ビデオ、ケーブルテレビの進化
それまでに存在した映像メディアは映画、テレビのみでした。
一度作られた映画はスクリーンにかかるか、テレビで放送されるかで、制作されたものの「出口」は二種類でした。
1980年代になるとこの「出口」が多角化されます。
テレビ放送は全国ネットワーク、ローカル局、ケーブル局の特別枠の有料番組、一般番組など出口が増え、映像ソフト使用量が差異化されます。
1980年代にはビデオ(VHSビデオとベータの規格争いの話をすると面倒なので単にビデオとします)が一般的に広まり、ビデオレンタルとビデオ販売が「出口」として成立します。
この新しい出口のおかげで、「ソフト化」という新しい収益回収方法が成立し、スクリーンでの上映が終了した後に利益を回収する例が出てきます。
私的1990年代アメリカ映画傑作選
ここからは筆者おすすめの90年代名作映画を紹介していきます。
『グッドフェローズ』(1990)
既に映像作家として確たる地位を築いていたマーティン・スコセッシが大量のモノローグとバイオレンスとグリングリン動くカメラという後に続くスタイルを確立した作品です。
スコセッシは作風によってスタイルを変える人ですが、『カジノ』(1995)、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)、
『アイリッシュマン』(2019)でも同様のスタイルを採用しています。
アカデミー賞の主要部門は逃しましたが、本作は非常に高く評価され、ヴェネツィア映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞しています。
『羊たちの沈黙』(1991)
後に多くのフォロワーを生み出したサイコサスペンスの歴史的傑作です。
連続猟奇殺人犯を描いた当時としては相当に革新的でショッキングな内容であり、監督や俳優が複数回にわたって内容の過激さにしり込みして辞退。
すったもんだの末にコメディをメインフィールドにしていたジョナサン・デミが監督に就任し、後に映画史に残る人気キャラクターとなったハンニバル・レクター博士はアンソニー・ホプキンスの当たり役になりました。
実はデミはレクター博士にジェレミー・アイアンズを希望しており、ホプキンスは何番手かの代役でした。
流石に映像は古臭さを感じますが、表現は熟しきっており今もってサイコサスペンスの最高傑作は本作だと筆者は思っています。
本作は興行・批評の両面で大成功し、アカデミー賞の主要5部門を独占する快挙を成し遂げました。
『許されざる者』(1992)
スター俳優クリント・イーストウッドの監督、主演作にして1990年代の代表作。
そして監督クリント・イーストウッドの評価を大きく高めた作品でもあります。
イーストウッドは長い俳優キャリアの持ち主ですが、監督としてのキャリアも長く本作の時点ですでに20年に達していました。
彼の演出は一言で言うと超正攻法です。
教科書みたいな演出をする、ともすると退屈に思えてしまうこともある手法ですが、60歳を過ぎたイーストウッドは円熟期に入っており、
今までと同じことをしているのに本作では表現が良く熟れています。
以降、監督としてイーストウッドはさらに円熟味を増していき、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)では二度目の監督賞を受賞しています。
『シンドラーのリスト』(1993)
幾度となく映画、ドラマの題材になっているホロコーストを題材にした傑作です。
エンタメの人のイメージだったスティーヴン・スピルバーグは本作でシリアスも撮れる監督として更に評価を高めました。
時代感を出すために敢えてモノクロで撮影した映像は美しく、ゲットーの解体や虐殺などの歴史上の残虐行為が容赦なく描かれます。
あまりにも感傷的な部分が付け足されているのはマイナスですが、アンチクライマックス的な『戦場のピアニスト』(2002)と並ぶホロコーストものの傑作と言っていいでしょう。
惜しむべきはポーランドが舞台なのにみんな英語を話しているところでしょうか。
これは「この映画の」というより「アメリカ映画の」欠点ですね。
『ターミネーター2』(1991)
1980-1990年代を代表するゴリゴリマッチョ俳優シュワちゃんの代表作にして、CG成熟期を代表する作品その1です。
『トロン』の表現と比べ、CGはより立体的になり、映像表現として成熟。
ジェームズ・キャメロンの監督作はどれも基本的にエンタメですが、視覚表現が格段に進化した新時代のエンタメとして評価すべき作品だと思います。
『ターミネーター』は山ほどシリーズ作品が制作されましたが、本作が今もって最高傑作かもしれません。
『ジュラシック・パーク』(1993)
CG成熟期を代表する作品その2です。
ハードSF映画特集でも述べたように、
が、恐竜の再現度は科学的にかなり正しく、ロボットとCGを組み合わせた表現が明らかに新時代のレベルに到達しています。
日本の怪獣映画であれば着ぐるみ、アメリカのSFならばストップモーションアニメと相場が決まっていますが、『ジュラシック・パーク』の恐竜は
確かな質感があり、動きも滑らかでCG技術の成熟ぶりを感じることができます。
『トイ・ストーリー』(1995)
超人気アニメーション映画シリーズの第一弾。
劇場用長編映画としては世界初のフルCGアニメーション作品で、CG成熟期を代表する作品その3です。
内容面でも、子供の読解力で楽しめるのに大人でも満足できる真の意味で万人向けの作品です。
以降、本作は3作の続編が制作されました。
筆者は3を最初に見て、今でも3が最高傑作だと思っているのですが、予備知識なしに何作目から入っても楽しめるのも素晴らしいです。
『インデペンデンス・デイ』(1996)
CG成熟期を代表する作品その4です。
内容は大味な大作ですが、巨大なUFOがグリングリン動く表現は壮観で、1990年代前半から半ばにCGが如何に進化したかを感じ取れます。
アカデミー賞では視覚効果賞を受賞し、興行的に成功しましたが、ゴールデンラズベリー賞最低脚本賞にもノミネートされてしまいました。
『ヒート』(1995)
1990年代を代表するリアルアクション映画の大傑作です。
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの二大スター共演で話題になりましたが、ロサンゼルス市街地での銃撃戦の場面が凄いです。
マイケル・マンは、リアルな音響とリアルな銃器表現とリアルな戦法でコンバットシューティング(実戦的射撃術)を演出して見せました。
アサルトライフルをバンバン乱射していたデ・ニーロとパチーノが最後はハンドガン一丁で一騎打ちするクライマックスも渋くて素晴らしいです。
劇中で描写されているハンドガンのスライドを半分ずらして薬室の状態を確認するのは、もとイギリス陸軍特殊部隊員で本作コンサルタントのアンディ・マクナブが伝授したメソッドらしいです。
1990年代におけるアクション表現の成熟が感じられます。
『パルプ・フィクション』(1994)
1990年代には強烈な個性をもった作家が幾人もデビューしていますが、『レザボア・ドッグス』(1992)でデビューしたクエンティン・タランティーノはその中でもトップクラスの一人です。
どこから出てくるのか分からない無駄話、時間軸をずらした構成、独特のテンポ、アメリカンコミックを思わせる色彩などタランティーノは強烈な個性の塊ですが、
監督作二作目である本作でその才能はすでに成熟しています。
筆者は今もってタランティーノの最高傑作は本作だと思っています。
本作はアカデミー賞の脚本賞、カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)を受賞しています。
『ショーシャンクの空に』(1994)
モダンホラーの帝王にして世界的なベストセラー作家スティーヴン・キングの非ホラー作品の映画化。
原作に概ね忠実で、オーソドックスで感動的な人間ドラマであり、地味ながら熱心な映画ファンに訴求する作品と言えるでしょう。
批評家から高く評価され、アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、脚色賞を争いましたが無冠に終わりました。
劇場の興行的には成功しませんでしたが、本作は劇場公開終了後に関係者に多くの利益をもたらしました。
上映終了後、ケーブル局TNTで19997年からヘビーローテーションされ、ソフトでも収益を獲得。
その後、ようやく人気に火がつき、インターネット・ムービー・データベース(imdb)のユーザーが選ぶ史上最高の映画に選出されるまでになっています。
こういった点がいかにも1990年代と言う時代を感じさせますね。
『セブン』(1995)
『羊たちの沈黙』と並ぶ1990年代サイコサスペンスの傑作。
後に巨匠として確固たる地位を築くデヴィッド・フィンチャーは本作が出世作となります。
同じサイコサスペンスでも正攻法の『羊たちの沈黙』と比べ、フィンチャーの表現は先鋭的で新時代の到来を感じます。
オープニングクレジットの表現だけでも、この時代に演出が進化したことを感じ取れると思います。
『タイタニック』(1997)
『ターミネーター2』を大ヒットさせたジェームズ・キャメロンがさらなる大ヒットを獲得した歴史的メガヒット映画。
巨費を投じ、最新技術をバンバン投入した映像表現は圧巻の一言で「内容が浅い」という散見される批評がどうでもよくなってしまいます。
ちなみに本作は実は科学描写もかなり正確で、タイタニック号が沈没した時の角度もかなり正確に再現されているらしいです。
キャメロンの完ぺき主義ぶりが伺えますね。
『プライベート・ライアン』(1998)
またしてもスピルバーグのシリアス作品です。
第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を題材にした戦争映画ですが、超絶的に生々しい表現で戦争映画の表現を一歩先に進めました。
オープニングシークエンスの「オマハビーチ」の場面は圧巻で、手足が吹っ飛び内臓が飛び出す生々しい表現の連発です。
鑑賞した戦争体験者には当時をフラッシュバックした人もいたそうです。
このシークエンスは構成も見事で、上陸時の混乱から連合軍が徐々に秩序を取り戻し、最後にはドイツ軍を制圧する流れが極めて物語的に表現されています。
本作をアクション映画と括るのは微妙なところですが。1990年代におけるアクション映画の進化を感じます。
POVを多用したグラグラ揺れるカメラやドキュメンタリーを思わせる彩度を落とした映像表現は以降多くのフォロワーを生むことになります。
『ファーゴ』(1996)
タランティーノ、フィンチャーと同じく1990年代に頭角を現した映像作家、コーエン兄弟の代表作です。
ポップな感覚に横溢したタランティーノと比べ、コーエン兄弟はいかにも体温が低そうでアンチクライマックス的です。
シンメトリーを多用した映像や、淡々とした表現など強烈なアクの強さを感じます。
三流狂言誘拐事件が最悪の展開になってしまう『ファーゴ』はサスペンスなのにブラックコメディーで劇的なのに全く劇的ではない個性がさく裂した傑作に仕上がっています。
『ブギーナイツ』(1997)
タランティーノ、フィンチャー、コーエン兄弟と続き、ポール・トーマス・アンダーソンも1990年代に頭角を現した映像作家です。
筆者には何人か全く好きではないのに作品を観ると必ず感心させられてしまう映画監督がいるのですが、アンダーソンはその一人です。
当時まだ20代だったアンダーソンの『ブギーナイツ』は最初から最後まで凡庸な表現が一つもない作品で、まったく好きではない筆者ですら感激してしまう傑作です。
以降もアンダーソンは「天才」としか言いようのない作品を発表し続けており、1990年代のもう一本の代表作である『マグノリア』(1999)も最初から最後まで天才の技が連発される傑作に仕上がっています。
『マトリックス』(1999)
何でもアリな仮想現実の世界を舞台に、1990年代の終わりにCG技術の更なる成熟度を示した作品。
もはやCGに視覚化できないものは何もないことを知らしめました。
ワイヤーアクションとバレットタイムを導入したアクション演出の洗練度合いも一段高いレベルに到達しています。
今でも楽しめる傑作揃い
ニコ・トスカーニ
今回は筆者の好みが反映された結果になっていますが、是非、他の1990年代名作映画もご覧になってみてください。