映画『マッドマックス』シリーズで知られるジョージ・ミラー監督最新作『アラビアンナイト 三千年の願い』が2月23日(木・祝)より公開されます。
ジョージ・ミラー監督の最新作と聞くと、2015年に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のような破壊力満点な作風をイメージしますが、これがびっくり、ガッツリラブストーリーとなっていました!
・キャストはたったの二人だけ?
・回想メインでもティルダ様の魅力は存分に
それでは『アラビアンナイト 三千年の願い』をネタバレなしでレビューします。
目次
『アラビアンナイト 三千年の願い』あらすじ【ネタバレなし】
学者と魔人の出会い
現代、イスタンブール。あらゆる世界で語られてきた神話などの物語を研究する「物語論(ナラトロジー)」の専門家アリシア(ティルダ・スウィントン)は、講演のためにロンドンからはるばるやってきた。
しかし空港や講演中に、現代にはいるはずもない不思議な姿をした人物を幾度となく目撃する。演説中には、その不思議な存在を目の当たりにして失神してしまう。
意識が戻ったアリシアは、その後何事もなかったように、イスタンブールのバザールを訪れる。そこで偶然見つけたガラス瓶を気に入り購入する。ホテルに戻り、汚れていたガラス瓶を磨くとひとりでに蓋が空き、中から巨大な魔人〈ジン〉(イドリス・エルバ)が現れる。
魔人〈ジン〉の不思議な力
最初はホテルの部屋を覆いつくすほど巨大なジンだったが、自由に体の大きさを変えられるほか、アリシアと少し会話しただけで英語を習得。さらにテレビに映っていた人物を手元に引き寄せるなど、およそ現代の技術では説明のつかないことをやってのける。
はじめは動揺していたアリシアだが、得体の知れない存在にもかかわらず、ジンの紳士的な態度で彼の存在を受け入れ始める。ジンはガラス瓶から出してくれたアリシアに「3つの願いをかなえる」と約束する。それはジンが瓶にとらわれている呪いを解くためにも必要なことだった。
ところが、アリシアは今の暮らしに不自由はないと言い、願い事もないと打ち明ける。さらに、あらゆる物語を知るアリシアは、願い事にまつわる物語がいい結末を迎えいないことを知っていた。
魔人が語る3000年に渡る愛と孤独の物語
このままでは自分の呪いが解けないジンはアリシアの信用を得るために、自分がこれまで3000年もの間、呪いをかけられて過ごしていた過去を語る。そこには3つの出会いと孤独があった。長きにわたり瓶の中で過ごし、拾い主と出会うジン。彼が何を見て何を思ったか。それらの物語を聞くアリシアにも、不思議な感情がこみあげてくる。
やがてアリシアはジンに”ある願い事”をするが、この願いが2人の運命を大きく変えることになる。
『アラビアンナイト 三千年の願い』感想
『マッドマックス』監督最新作は異種族間ラブストーリー?
本作の監督であるジョージ・ミラーといえば、1979年の映画『マッドマックス』で監督・脚本を担当し、長編映画デビューしたことで知られる人物です。
特に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)は第88回アカデミー賞で監督・作品賞のノミネートをはじめ、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞など、技術面で数多くの受賞を果たしました。まさに、その年を代表する作品になったのです。
そんな監督の最新作は誰もが知るイスラムの説話集「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」がベースとなっています。ランプの魔人が現れて「願い事を3つかなえよう」という「アラジンと魔法のランプ」はディズニー映画『アラジン』(92)でもモチーフになりました。
しかしジョージ・ミラーによる本作は、現代でひとりの女性がビンを拾って、魔人〈ジン〉と出会うところからスタートします。そして、ジンがこれまでたどった長きにわたる出会いと孤独が描かれる回想ベースの作品となっているのです。決して、蛮族が砂漠で暴れ狂ったり、凶暴な乗り物が走り回ったりすることはありません汗
ミラー監督は『マッドマックス』シリーズで知られる一方、牧羊犬ならぬ「牧羊豚」として成長していく豚を描いた『ベイブ』(95)の脚本を務めるなど、ハートフルな映画を手掛けている人物でもあります。今回の題材はこれまでの経歴を混ぜたような、異次元のラブストーリーとして仕上がっており、人と魔人の関係ということもあって”異種族間恋愛もの”が好きな人はぜひチェックしてほしい作品なのです。
キャストはたったの二人だけ?
公式サイトをはじめ、キャストを確認するとティルダ・スウィントンとイドリス・エルバのみ記載がされています。実際はジンの回想などで多くの登場人物が出てきますが、なぜ2名の記載になっているのでしょうか?
本作では恋愛要素と同じくらい、お互いが感じてきた孤独についても描かれています。特に魔人のジンは眠ることができないので、ビンに幽閉されている長い年月を想像すると、ぞっとするほど果てしない時間をひとりで体感していることになります。
アリシアもまた、学者として生計を立てて、何不自由ない生活を送っているように見える一方で、幼い頃から孤独を感じている人物です。
最初はジンの語る話に疑念を抱いているアリシアですが、2人の共通要素である孤独によって、次第に考え方が変わっていく様子も必見。それほど本作では「孤独」という要素も捉えている関係から、あえてキャスト名もティルダ・スウィントンとイドリス・エルバのみに留めているのではないかと考えます。
…もちろん、本国ではほかのキャストもピックアップしているかもしれませんし、もっとオトナの事情が絡んでいるのかもしれませんが…。
ただ裏を返せば、本作に関してはキャストについて知っていようが知らなかろうが、2人の関係性に没入できる構図になっていました。特にジンが話を終えた後の展開は、2人の関係がどうなるのか先の読めない面白さもありました。
回想メインでもティルダ様の魅力は存分!
本作の主演であるティルダ・スウィントンといえば、キアヌ・リーヴス主演の『コンスタンティン』(05)で演じたガブリエル役をはじめ、リメイク版の『サスペリア』(18)、最近だとスペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督による短編映画『ヒューマン・ボイス』など、スタイリッシュなキャラクターを演じてたことでも知られています。
『アラビアンナイト 三千年の願い』ではコテコテの学者・アリシアを演じており、キャラの個性がいつもと違う点が印象的です。少なくとも、これまでのようなスタイリッシュさは影を潜めていますが、際立った個性が全くないわけではありません。
アリシアは講演で倒れてしまっても、観客に親指を立てて去っていく(謎の)タフさを見せるほか、ジンが幽閉されている汚れた瓶をあろうことか(普通に使っている)電動歯ブラシで磨きだすという、ちょっとガサツな面も垣間見えます。セリフや服装とはちょっと違う性格を細かい挙動で見せてくれるのです。
個人的には、一瞬ですがPCのキーボードを片手かつ一本指で打ち続けるという非効率かつお茶目な一面も見られたのが良かったです(当のアリシアはこれが普通なのでしょうが…)
作中の半分がジンの回想メインでありながらも、ティルダ様の雰囲気は存分に味わえるのでファンの方は必見です。いつも演じる役とは一味違った姿が拝めます…。
『アラビアンナイト 三千年の願い』あらすじ・感想まとめ
・キャストに詳しくなくても楽しめる構成
・クセが凄いタイピングシーン
以上、ここまで『アラビアンナイト 三千年の願い』をレビューしてきました。
回想シーンのエピソードは神話などがベースになっています。そのため、少し難しく感じるかもしれませんが、圧倒的な映像美やジンの「孤独と愛」にまつわるドラマ要素が非常に魅力的なので、そこまで気になりませんでした。
なにより魔人と人間という異種族のラブストーリーが尊い…!孤独を抱えやすい時代の今だからこそ刺さるストーリーも見どころです!