映画『街の上で』あらすじ・ネタバレ感想!今泉力哉が描く下北沢の穏やかな日常をテーマとした物語

映画『街の上で』あらすじ・ネタバレ感想!今泉力哉が描く下北沢の穏やかな日常をテーマとした物語

出典:『街の上で』公式ページ

誰も見ることはないけど 確かにここに存在してるーー。

下北沢を舞台に1人の青年と4人の女性たちの出会いを描いた恋愛群像劇。

『愛がなんだ』の今泉力哉監督が日常をクローズアップした、とある青年の物語を描く映画『街の上で』をネタバレありでレビューします。

映画『街の上で』作品情報

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

作品名 街の上で
公開日 2021年4月9日
上映時間 130分
監督 今泉力哉
脚本 今泉力哉
大橋裕之
出演者 若葉竜也
穂志もえか
古川琴音
萩原みのり
中田青渚
成田凌
音楽 入江陽

【ネタバレ】映画『街の上で』あらすじ・感想


青と下北沢

下北沢の古着屋で働いている荒川青。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

青の行動範囲は狭く、下北沢を出ることもあまりありません。

古着屋のカウンターで本を読みながら、穏やかな日常を送る青。

しかしある日、恋人の雪から浮気の告白と別れを迫られ、青は納得のいかないまま失恋をすることになってしまいます。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

浮気をされたダメージと雪との別れを引きずったまま、それでも青の日常生活は大きく変わることなく、ライブハウスへいったり、行きつけの飲み屋に行ったりと日々は続いていきます。

『街の上で』では、雪を含む4人の女性と青の交流が描かれます。

元彼女の雪、行きつけの古本屋の店員である冬子、学生映画の監督の町子とその衣装スタッフのイハ。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

すなくじら

それぞれのキャラクターと青の絶妙な関係性が、心地良いですよね。

冬子に過去に音楽をやっていたことを嗅ぎ付けられた青は、自分が過去に作っていた音楽について語ります。

自己開示のトリガーであった音楽の話題で心を許した青は、冬子と店長の不倫関係について言及してしまいました。

古本屋の店長はすでに亡くなっている方で、冬子との関係性は曖昧でした。突然の問いに困惑した冬子は涙を流し、青を拒絶します。

冬子を傷つけたことを自覚した青は謝罪を重ね、赦しを乞います。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

青が残した留守番電話の内容を聞いた冬子は、青を許し、仲直りするのでした。

自主映画の始まり

すなくじら

青にとっての一番の転機は、町子が監督を務める学生映画への出演依頼が舞い込んできたことでしょう。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

青が依頼された役は取り替えのきく「本を読む人」というセリフもないエキストラの1人でしたが、それを知らない青は冬子と演技の練習をしたり、出演に向けての準備を自分なりに重ねていきます。

また、演者の中には雪が好きだった朝ドラ俳優の間宮もいました。

話の流れで間宮に恋愛相談を持ちかける青。

ついに出番によばれ、それぞれの演技を町子率いる学生チームが撮影していきます。

しかし、練習も虚しく、緊張に呑み込まれてガチガチになってしまった青の演技は、敢えなくカットされてしまうことになるのです。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

その後、映画撮影の打ち上げで、いまいち学生たちの内輪ノリについていけない青に声をかけるイハ。

そのまま飲み会を抜け出し、2人はイハの自宅へと向かいます。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

夜が耽るまで互いの過去を語り合った青とイハは、「友人」として親睦を深めていくことを決めたのでした。

その後、町子の映画が公開され、冬子は青の撮影シーンが使われていなかった怒りを町子に直接ぶつけます。

言い争いになる町子と冬子の元を通り過ぎたイハは意見を求められ、正直に青の演技が緊張のしすぎで下手だったことを冬子に伝えます。

すなくじら

一緒に練習を重ねた冬子だからこそ、青の出演シーンのカットは納得がいかなかったのでしょうね。

雪の浮気相手の正体

一方で、雪の浮気相手は俳優の間宮でした。

しかし、間宮といて一般人と芸能人との恋に限界を感じていた雪は、間宮を捨てて青の元に戻りたいと言います。

間宮は自分よりも元恋人をとった雪に腹を立て、その男の顔を一目見ると言って雪について行きますが、まさかの青が元彼氏だったことに驚きを隠せません。

青もまさか雪の浮気相手が間宮だったとは思いもよらず、困惑を隠せない様子。

途中行きつけのバーのマスターとの浮気を疑っていた青にとっては、特に思いもよらない展開でした。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

すなくじら

マスターと雪、イハと青での口論にイハの元恋人が集まる場面は必見ですね。『街の上で』の中で、このシーンが好きなファンも多いのではないでしょうか。

こうして、青と雪が復縁をする形で下北沢にはまたいつもの日々が訪れるのでした。

町子の映画への出演の前後で少しだけ変わったかもしれない、青のゆるやかな日々は幕を閉じます。

下北沢とマッチした、特別な日常の物語

ゆるやかでいて、変わらない日々が続くこと。

すなくじら

下北沢という一つの街でのオールロケが決行された『街の上で』ですが、カルチャーや古着、音楽の街として知られたこの下北沢という街との親和性が非常に高いように感じました。

『街の上で』のパンフレットで、ライブハウスのシーンで自身も映画の出演を果たしたマヒトゥ・ザ・ピーポーは以下のように語っています。

「映画のようなとかドラマチックなどと形容されるそんな日々はすでにそれぞれのもとに確かにあって、ただ、その側にカメラがないだけで、それぞれが映画のように生きていくのだ。今泉映画にはそういった取りこぼすことの方が簡単な何も生産性のない瞬間にこそ光が当たっている」

「下北沢は夢の墓場であり、夢破れたものが消えていくことにできるだけ痛みを伴わないよう、緩和してくれる居酒屋がいくつもある」

東京という大都会の片隅で若い夢追い人に寄り添ってくれる人たちが待っている街、下北沢。

そんな街の中の1人の青年の日常が映画になった『街の上で』は、誰もが持っている日常であり、同時に特別な非日常でもあることを感じさせてくれます。

ぎこちない演技によってカットされてしまった青のワンシーンも、誰も見ていないけれど“確かにそこにあった”わけです。

すなくじら

自分、または特定の誰かしか知らないワンシーンが紡がれて、自分の人生が成り立っていることを強く感じました。そしてそれがどんなに地味でも、小さな出来事の連続であっても、自分の人生のスポットライトは自分に当たっていることを『街の上で』は優しく思い出させてくれます。

映画『街の上で』あらすじ・ネタバレ感想まとめ

穏やかな日常の中で、ほんの少しのきっかけが自分と他人をつなぎ、思わぬ方向へと旅立たせてくれる。

『街の上で』はそんな誰にでもあるような経験を、青を通して再認識できるような映画です。

なだらかな日常の幸せと、下北沢の温もりをぜひ劇場で触れてみてください。